思わぬ出会い
【 ☆ 】
雲行きが怪しくなってきた。
さっきまで晴れていたのに、この街、ロックフォードの天候は海岸沿いにあるせいか変わりやすいみたい。
あれからどれくらい歩いただろうか。
エペラーもわタしも、道がわからないせいで、どんどん街から離れていっているような気がする。
「……エペラー」
「にゃす?」
わタしは、顔を俯かせながら、小声で言った。
「ごめん……わタしのせいで」
「あぁいいにゃすよ……そんな気にしてないにゃす」
「で、でも……このままじゃ屋敷にも帰れないかも……」
「だ、大丈夫にゃす! きっと執事が見つけてくれるにゃすよ」
「……」
俯いた下には、陽の光すらない。
まるで、それはわタし達の探している手掛かりを隠すように。
それがわタしの不安をより一層掻き立てる。
「……はぁ」
ウィズちゃん、淳介、マスティマお姉ちゃん。
みんな、元気にしてるかな。
ふと、そう考えると、少しモヤモヤする。
なんだろう、この気持ち。
わタしは辺りを見回す。
ここはどこなんだろう。
なんか古ぼけた教会みたいなのあるけど、いつも馬車で通っている道じゃない。
それに人もだんだん少なくなってきたような……。
「あ……」
ポツポツと、地面に雨音が立ち始める。
やっぱり降り始めた。
「ど、どうしよう……」
「ご主人様、こっちにゃす!」
エペラーの方を向くと、そっちに屋根と屋根が重なった路地が見えた。
パタパタと駆けていき、ようやく一安心。
「ふぅ……よかった、ありがとうエペラー」
エペラーはじっと路地の奥を見つめている。
「……エペラー?」
「この匂い……」
スンスンとエペラーは鼻を効かせると、次にこう言った。
「ウィズ氏の匂いにゃす!」
「えっ?」
わタしは、思わず奥へと走っていった。
まさか――。
と、期待を膨らませるより前に、それは萎んだ。
「あ……」
あったのはただのゴミ捨て場。
だけど、ほとんど使われていない。
見る限りだと、あるのはいくつかの情報ビラのまとまった物。
そこに、ウィズちゃんの姿はどこにもなかった。
「……」
まただ。
すごくモヤモヤする。
ただ、少しこの気持ちは考えたくない。
どうしてそう思うんだろう。
「このゴミ捨て場から、すごくウィズ氏の濃い匂いがするにゃす……なんでにゃす?」
「それって多分、ここに長いことウィズちゃんはいたってことじゃない?」
「なんでゴミ捨て場ににゃす?」
「わからない……何か、ないかな」
全然関係がないことだけど、別にいいか。
どうせ、今日は手掛かりが一つだけ見つかって、それをどう生かすかもわからないし。
確か、こういうのは本でも見たけど、何かそれ個人がわかるものさえ見つかれば、何かわかるはず、だよね。
ガサゴソと中を見てみる。
信じられないや。
中に生ごみがない。
それに、この紙ゴミ全部情報ビラ。
通りでエペラーの鼻でもすぐにウィズちゃんの匂いって判断出来たわけだ。
「全部、術式決闘の結果とか、効果の説明がいっぱい書いてある物ばかりにゃすねぇ……」
「確かに……」
それに、時々メモ書きのような物が残ってる。
『無力化の魔法』これは絶対欲しい、とか。
『戦略札を用いた闘い方と相性がいいから、デッキを組むなら大半を戦略札にした方が強い?』、とか。
そういえばウィズちゃん、『無力化の魔法』をあげたら、凄く喜んでたなぁ。
あれからどんなデッキを作ったか、わタしは知らないけど。
でも、きっといいデッキが組めたんじゃないかな。
「ご主人様、そんなニコニコして、どうしたにゃす?」
「うん? ふふ、なんでもないよエペラー、あっそうだ」
「どうしたにゃす?」
「この紙、持っていっても大丈夫かな?」
「えぇっ、で、でも全然関係ない物にゃすよ?」
「いいのいいの、なんかこれを見てると、ちょっと元気が出てきたから、そのお礼にいくつか持っておきたいの、いいでしょ?」
「うーん、まぁ捨ててある物にゃすし……文句は誰も言わないと思うにゃすけど」
「やったぁ、じゃあどれにしようかなぁ……」
それにしても、なんか同じ人の術式決闘の結果ばかりだなぁ。
でも、それだけこの人があのコロシアムで勝ち続けているってことなんだよね、きっと。
と、ある程度好きなのをポケットにしまって満足気にしていると……。
「何してるの、君?」
「……?」
ふと、後ろを振り返ると、そこには少年がいた。
黒いコートを着て、上半身は完全に隠れているその子は、ゆっくりと近づいてくる。
「なぁに? あなた誰?」
「僕? 僕はフュー」
「フュー?」
エペラーとわタしは、顔合わせる。
すると、しっかり持っていなかった情報ビラが1枚ヒラリと落ちた。
「にゃ、にゃにゃすっ!?」
「……?」
エペラーがビクッと驚いた様子でいる。
なんだろう。
何かびっくりするようなことなんてあったかなぁ。
「君、落ちたよ?」
「あ、うん……ありが……」
その情報ビラは、表面だった。
いや、そうじゃない。
思わず目を丸くしてフューの顔を見る。
だって書いてあったの。
大きな見出しに、『50連勝、果たして勝てる者はいるのか』と煽り文句を入れたその次に……。
「あなたが……フュー?」
そう聞き返す当人の手には、全く同じ顔が載っていた。
「えええええええええええええええええええええええええ!?」