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想像よりも酷かった……

 それから数十分も経たなかった。

 わタしは、見えてきた景色を見て、言葉を失う。


「……」


 いつもだったら、ここには古ぼけた二階建ての一軒家があった。

 そこでこの前遊びに行った時は、ネルお婆ちゃんがわタしをにこやかな表情で迎え入れてくれた。

 わタしは、馬車が完全に止まる前に扉を開け、飛び出した。


「お、お嬢様!?」


「ご主人様!」


 そのせいか、わタしはバランスを崩しながら床にゴロゴロと転がる。

 何もない。

 いや、無くなってしまった。

 匂いも独特で、わタしの住んでいる豪邸とはまるで違うところだった。

 でも、掃除が行き届いていて、みんなが笑っているのを見て、だから、わタしは感じたんだ。

 みんなの温かさを。


「うぅ……ひっぐ……」


 どうして。


「お嬢様、お怪我は……」


「大丈夫……だって、わタしは人形だもん」


 だから、わタしは怪我なんてしない。

 あるとすれば、指が折れたり、足が変な曲がり方をするだけ。

 痛覚なんてない。


「でもね、執事……」


「はい……」


「それでもわタし、すごく痛いの……」


 胸の辺りを、ぎゅっと抑える。

 転げ落ちても、全然痛くない。

 でも、痛い。

 胸を締め付けられ、熱くなったものが、今にもはちきれてしまいそう。

 執事は、涙をこらえているわタしの肩に、ポンと手を置く。


「お嬢様、お帰りになられますか?」


「……ご主人様」


 最後に降りてきたエペラーが心配そうにわタしを見てくる。

 いつものわタしだったら、きっと嫌なことから逃げるために、尽くしていただろう。

 でも――――。

 私は、ぐしぐしと目を強くこする。


「エペラー、一緒に探そう、手がかり!」


「で、でも大丈夫にゃすか? ご主人様すごく辛そうにゃすよ?」


 執事の手をそっと手放す。

 辛いこと、苦しいこと、痛いこと。

 わタしは確かにそんなもの全部大嫌い。

 けど、


「淳介達は、もっと辛い思いをしたの……だからエペラー、わタし、頑張る!」


「ご、ご主人様……」


 とにかく、やらなきゃ。

 これだけ何もないけど、きっと何かあるはず。

 とりあえず全部を一回りしてみることにした。



 本当に、全て燃えてしまっている。

 灰すら残っていないところを見るに、魔力がこもった火であることは間違いない。

 でも、燃えカスや灰らしきものが少しだけ残っているということは、完全に燃え切る前、魔法による消火が入ったのかな。

 いや、そうじゃなきゃ、もっと何も残っていないよね。

 だって魔法の火は、鉄だろうが、レンガであろうが、灰すら残さず全て燃やし尽くすんだから。


「でも……」


 それでも、手がかりらしきものは残っていない。

 やっぱり、何もないのかなぁ。


「ご主人様、これを見てくれにゃす!」


「ん?」


 エペラーがあるものを見つけて、こちらを見ている。

 わタしは、すぐに駆け寄っていった。


「これなんにゃす?」


 そこには、燃え尽きずに残った灰に埋もれて、なにやら網状の物が置いてある。


「お嬢様、私が払います……」


「大丈夫だよ、わタしがやるから」


「しかし、せっかくエイラお母様が作られた服を汚すわけには……あぁ」


 わタしは、構わず素手で灰を払った。


「……?」


 鉄製で出来た網状の物。

 そこにくっきりと丸い焦げ跡が残っている。


「執事、これ何?」


「ふむ、これは……」


 どこかで見たことはある。

 最近は、よく外にも出るようになったから、建物の裏とかにも行くし、そこにあるものだったような気がするけど……。


「これは、床下にある通気口の網ですね……」


「ツーキコー?」


「はい、なんでも建物を建築する上で、湿気などを防ぐために建物下に空間を作り空気を通すための穴を開けます、その時にネズミなどの侵入をさせないために、このような網を設けるそうで……」


 その網に、不自然な穴。


「これって……」


 間違いない。

 着火元はこの穴からなんだ。

 その時に、勢いがありすぎて、この網は燃えるのに時間がかかった。

 それで、消化の際に奇跡的に残った。


「やっと……」


 わタしは思わずその網を抱きしめる。

 ようやく見つけた、誤解を解く一つの手がかり。

 でも……。


「着火元はわかったけど……これじゃウィズの誤解を解くことはまだできない、よね……」


「あ……」


 せっかくエペラーが見つけてくれた手がかりだけど、一回り二回りしてやっと一つ。

 やっぱりほとんど燃えてしまっている。

 これだけじゃ、とても……。


 わタしは、そこで自分に気付けをする。


――――何を弱気になっているの、わタし。


 きっと、細かく見れば何かわかるはず。

 そのために持ってきたじゃないか。


 そう言い聞かせ、持ってきたルーペでまじまじと見てみる。

 丸く空いた穴は、間違いなく勢いのある炎だったのは間違いない。

 これだけでも、ウィズがやったわけじゃないというのはよく伝わる。

 ただ、この街に魔法の炎を扱えるのは、ウィズしかいなかった。

 それにウィズだって、範囲魔法としての炎を使えるのであれば、それの範囲を狭くすることだってできるはず。

 ……多分、できないと断言しても、立証できなければ、街の人は信じてくれない。

 やっぱりだめだ。

 これだけじゃ、ウィズの無実を証明はできない。


「どうしたらいいんだろう……魔法の火を使ったのは明らかだし、真犯人がいるということも、これじゃ……」


「でもお嬢様? 他の者でも魔法の火で燃やすことは、できるのではないですか、例えば、戦略札を使うとか?」


「それはできないの……執事」


 そう、わタしもそれくらい最初は誰だって真犯人にできると思っていた。

 実際にこの街だったら安価で手に入る戦略札『魔力の灯火』という札がある。

 だから、やろうと思えばこの近くにいる人は誰だって火をつけることは出来たはずだ。

 しかし、そうもいかないのが、その戦略札をデュエル中でもないのに使った場合、カンテラに移すことでもしない限り、触れた者から燃え始める。

 そうやって火をつけたんだったら、当の犯人がひとたまりもないはず。


「もしそうして火をつけたのなら、魔力の炎でも燃えない身体か、燃えない物でつけなくちゃならないの……」


「ふむ……そんな人物、聞いたこともないですねぇ……」


 そう、だからこそ、ウィズしかありえないと言われている。

 例え動機がなくても、魔法の火を扱えるのは彼女しかいなかったから。

 逆に言えば、そこさえ覆すことができれば、ウィズの疑いは晴れるんだ。


 頑張らなきゃ……。


 絶対、ウィズや淳介やマスティマお姉ちゃんに笑ってほしいから。


 

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