過ちと和解
おまたせしました!
外伝第一話です。
それではどうぞ
わタしが馬車に乗ろうとした時のことだった。
「ご主人様!」
「……?」
振り返ると、何かを咥えたエペラーが走ってきた。
エペラーというのは、わタしの飼い猫。
少し尻尾の短くて、ずーっとわタしと一緒にいてくれた一番最初の友達だ。
何かを咥えているせいか、ふぅふぅと息をつきながら、エペラーはわタしにその丸くて持てる部分のあるものを見せる。
「ご主人様、ルーペ忘れてるにゃす……」
あっ、と思わずわタしは声を上げた。
「えへへ、ごめんごメん、よく持ってきてくれタね、エペラー?」
エペラーをそっと撫でるわタしを見て、執事は不思議がっている。
まるで、わタしとエペラーが会話しているように見えるんだろう。
まさにその通りなんだけど、教えるほどでもないと思って、みんなには話していない。
「それじゃあ、行ってくるね、エペラー!」
わタしは、エペラーの咥えていたルーペを服のポッケにしまい込む。
その時だった。
「待ってくれにゃす!」
「……? どうしたの、エペラー?」
エペラーがわタしを呼び止めると、強い眼差しをこちらに送ってきた。
「わ、ワチも連れて行ってほしいにゃす!」
わタしは、エペラーの前にしゃがみ込む。
「……どうして?」
「あ、いや……その……確かにワチでは役に立たないかもしれないにゃす……」
「うんうん、だって猫だモんね」
「そ、そんな直球に言われると傷つくにゃす!」
振り返ると、執事がわタしを馬車の中へ催促している。
「それじゃあ、本当に行っテくるね、ルーペありがと、エペラー」
と、今度こそ馬車に乗って、今にも扉が閉まろうとしている時のことだった。
「にゃすぅぅぅぅぅ!!」
エペラーが、馬車の中に飛び込んできた。
「え、エペラー?!」
「わ、ワチも、淳介氏にはたくさん言い切れないお礼がいっぱいあるにゃす! ご主人様がここまで笑うようになってくれたのも、こうして屋敷の当主としていられるのも、元を辿っていけば、彼らのおかげにゃす……だからワチも……ワチも、彼らの力になってあげたいんにゃすぅ!」
「……」
「だから、お願いにゃす、力にはなれないかもしれないにゃすけど……」
「んもーエペラー? だめだよ、そんなににゃーにゃー騒いじゃ!」
「へっ?」
わタしは、騒がしい猫に参っている執事を見て言った。
「執事、エペラーも連れてっていいでしょ?」
「ご、ご主人様ぁ!」
しーっと口元に人差し指を立てる。
「さぁ出発よ執事、エペラーも一緒に!」
「……しかし、よいのですか?」
「いいの、だって……」
こっちを見つめるエペラーを優しく撫でる。
エペラーもわタしも考えていることは一緒なんだ。
「エペラーもわタしも、恩返しがしたいの、みんなに」
わタしをじっと見ていた執事は、しばらくすると、そっと馬車を動かし始めた。
「お嬢様……本当にいい笑顔を浮かべるようになられましたね……」
「えへへ……そう思ウ?」
「はい……あのお方達と出会うまでは、塞ぎ込んでいるというか、いつも寂しそうにしておりましたから……」
「……!」
そう、わタしは寂しかった。
だから、話が出来る誰かが欲しかった。
だから……屋敷の何人かを……。
「……ごめんなさい」
わタしは、エペラーをぎゅっと抱きしめる。
「わタしのわがままのせいで……抜き取った魂を元に戻すことは出来たけど、身体までは戻すことが出来なかった……」
「……」
「わタしのせいで、屋敷の人間の人生を狂わせてしまった……」
「ご主人様……」
そればかりは、どうあがいても償いきれない。
これからもずっと背中に背負って生きていかなきゃいけないんだ。
そう考えると、やっぱり苦しい。
生きていていいのかなと、思ってしまう。
「お嬢様、皆全て、あなたが行ったことをとやかく思ってはおりませんぞ?」
「でも……」
「元々、クロエお婆様が最後に残した遺言で、ジェリーマーチ家はセリーヌお嬢様を保護するように言われていたのです……ですが、今思えばそれもあまりに過保護だった……精神が不安定なセリーヌお嬢様を、まるで管理するような扱いをしてしまったのです……」
「そんなことないよ! 皆、こんなわタしなんかのために、いっぱい色んなことをしてくれテ……それに」
あんなに酷い仕打ちをしたにもかかわらず、全員一致でわタしはジェリーマーチ家の当主になった。
エイラお母様も、なんの文句も言わなかった。
「やっぱりこればかりは納得いかナい……わタしじゃいけないと思うの!」
「どうしてそう思うのですか?」
「どうしてって……ほら、わタし、子供だし……難しいことはよくわからないし……みんなに酷いことをしたし……」
「では、質問を変えましょう……その時、あなたのお友達は、どういうことをしてくれましたか?」
わタしは、そこでハッとなった。
「私達は、それを友達ではなく、家族だからこそそうしようと思っているだけですよ……だから、気に病まないでください……あなたはあなたのしたいことをすればいい、それだけなのです」
……感謝したい。
ここまでわタしが幸せだったことに、今だったら気づくことができる。
こんな感覚も、淳介やウィズ、マスティマお姉さんのおかげで感じることができるようになったんだ。
「ありがとう、執事……それにみんなも……」
目に少し湧き上がる感動の衝動。
でも、今だけはその涙を零してなんかいられない。
袖で目を拭い、しっかりと前を見る。
「ところでお嬢様、今回の事件の犯人……もう既に見えているとおもうのですが……」
「うん」
「証拠を突きつけることなんてせずとも、ある程度根拠と動機が揃えば解決ではないのですか?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれたね執事」
ところがどっこい。
そうもいかないのが、今回の事件にして、ウィズの誤解を完全に解くために通らなければいけない鬼門なのだ。
だからまず、現場に行く必要がある。
……何か、手がかりになりそうなものが残っていればいいけど。
なんか……温かい家族ですよね……
こういう温かさって、わかる時にはもうなかったりするのが……最近思うことです。
さてさて、どう見ても犯人がガロンに見えるのですが、色々と犯人にするには問題があるようですね……
一体、どんな問題なのでしょうか?
次回に続きます。