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「発言は挙手をしてお願いします。」
〈当番〉と書かれた三角形のポップが置いてある席に座る男が、ムッとした様子で刺のある声を出す。
「あぁ、そうだったねえそうだったねえ、ここではそれがルールだよねえ。ごめんねえ、ごめんねえ。」
小太りの影が恐縮したようにぶるぶるぶると小刻みに震え、首をすくめて小さく沈む。
その動きとは裏腹に。
声色からは相手を馬鹿にし見下し嘲る、ふざけた態度が伝わってくる。
反省の色は微塵にも感じられない、それが〈当番〉の男の体温を上げる。
「進捗の方はどうなっているのですかな。」
灯りの暗い部屋の奥。
闇の中から宥めるように、穏やかな声が言葉を挟む。
「発言は挙手をしてお願いします。」
殺気の籠った〈当番〉の声が、視線とともに奥へ飛ぶ。
「おっと失礼。」
闇の中。
はにかむようにゆっくりと、大柄な影が右手を挙げる。
その掌の甲に斑のように、大きく目立つ古傷ひとつ。




