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画面の中、見慣れた顔のアナウンサー。
手慣れた様子でフリップを指す。
説明するのは聞き慣れた。
ここ数ヶ月で毎日目にする。
定型文の箇条書き。
・体内に一定量以上の一酸化バリトンニュームが堆積。
・体内の一酸化バリトンニュームが共鳴現象を起こす。
・セポインの蜂起。
・ピコーンピコーンと言い出す。
チラと横目に母さんは。
うんざりした顔、向き直し。
「ちょっとあなた…聴いてるの?」
坊やのパパに問い掛ける。
「ピコーンピコーン。ピコーンピコーン。」
坊やのパパはまっすぐに。
背筋を伸ばして母さんに答える。
「ピコーンピコーン。ピコーンピコーン。」
坊やも背筋をまっすぐに。
行儀正しく母さんに答える。
「あな…た…?」
たった一人の母さんを残し。
お部屋の中ではピコーンピコーン。
テレビの画面もピコーンピコーン。
隣のおうちもピコーンピコーン。
夕暮れの街がピコーンピコーン。