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もったりと。
立ち籠める雲の様に燻る紫煙。
押しては引き、引いては返す漣波は、空気を揺らすスロー・ジャズの奏べ。
時折響く撞球の、コン、カン、と硬質な音。
23時のプールバー。
此の景色だけは。
二十世紀の昔から、変わらぬ大人の隠れ宿。
カウンターに座り、ちびりちびりと確かめるよう嘗める琥珀。
時間のゆっくり、流れ淀む感覚。
年代物のスコッチウィスキー。
積み重ねてきた歳月が。
僅かずつ、僅かずつ、臓腑を焦がし溶かしていく。
戯れにグラスを揺する。
近づき、衝突かり、離れる氷。
2つの塊は人と人。
男と女の縁が如く。
揺れる湖面。
裸電球の星灯りを映す。
俺はターゲット。
仲間からそう、呼ばれている。
撃てば百発百中、プロの狙撃手。
狙った獲物は逃さないと有名なんだそうだ。
平穏とは程遠い稼業を営む男。
ほんの僅かの、安息の一時。




