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round - 56
「己の役割に忠実な、あるべきことをあるべきようにこなす人間だけが暮らす理想社会。素晴らしいねえ。さぼるやつとかズルするやつとか誰もいなくて、みんな何ひとつ不満を抱かずに生きていけるんだよ、最高じゃない。そういう未来があと一歩の先まで来てるんだからさあ。もうちょっとだけ頑張って実現させようよ?『僕たち』で。」
小太りの影がウットリと、夢想するように宙を見上げる。
「はは。そうですなあ。ついつい短気を起こしてしまいました、いや申し訳ない。」
大柄な影は普段通りの穏やかな声。
照れ臭そうに頭を掻いたその掌に斑のように、大きく目立つ古傷ひとつ。
「…?なに?」
「…?なんでしょう?」
小太りの影と大柄な影。
互いに感じた違和感に、見つめあっての探りあい。
「(湯川専務。なーんか臭いんだよねえ。)」
「(『僕たち』…か。本当に僕『たち』か?『僕だけ』じゃないのか?)」
なにも語らぬ西洋甲冑。




