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蛇麗。
上衣の胸ポケットが。
聞き慣れない音を鳴らす。
違和感に内を手探ると。
無残に欠損た銀の胸飾。
困ったお姫様さんの。
置き忘れた、硝子の靴。
あの夜、不覚にも受けた銃弾の一撃から。
俺の心臓を守り、身代わりに砕けた。
ありきたりに過ぎる奇跡。
我が身に起こった事ながら。
気恥ずかしさに苦笑を止まない。
今となっては、もう。
誰の写真が入っていたのか。
窺い知る事も出来ないが。
お姫様の残した魔法の靴。
また、いずれ逢えるさ。
銀の鎖を懐に仕舞う。
人と人。
男と女。
そして、人と物。
それらの縁は因果に廻り、惹かれ逢い、また離れて往く。
縁があったらまた逢おう。
俺は空席のグラスにグラスを合わせ、大きく掲げる。
滅びゆく者達の為に。
乾杯。