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レベル6 『レベル1の男』

 市街地マップ中央にて、何かの山に何かが一つ乗せられる。その山の頂点に、斧を背負い、腰に布切れを巻いただけの山賊のような男が一人。

「なぁ、ネウル……俺は強いだろ!?」

 そこには、敵も味方も関係なく、18の屍が、山となって積み上げられていた。

「そうっすね! オウル親分!」

 山の下で、ネウルが同意を示すと、オウルは山の一部を蹴り崩して、怒号を飛ばす。

「ああ、なのに、揃いも揃って馬鹿ばっかりだぜ!」

「そうっすね! オウル親分!」

「こいつらは戦力計算も出来んらしい。俺を残すとはなぁ……」

 オウルは呟くと、屍の山から飛び降りて、ネウルの横に着地し、辺りを見渡した。

 周りに設置されている家の中は荒れ果て、壊れている家などもいくつか見受けられ、シンボルである噴水が粉々に壊されていた。

 ここ、市街地マップ中央にはなんと24人中20人も集中したことになり、これだけ戦闘の跡を残すというのも頷ける話だ。

 しかし、それだけ激しい戦いがここで起きていながら、オウルは無傷だった。

 その理由は簡単。戦闘に参加せず、傍観していたからである。

 レベル23。この中においては最もレベルが高かったオウルは全員が疲弊したところに、自慢の斧で味方もろとも潰した。

 ほとんどの人間をほぼ一撃で葬れたオウルに一太刀浴びせられる者などおらず、結果、オウルはHPを一切消費することなく、容易にこの山を作り出したのだ。

「それで親分! この後どうするんですか?」

 と突然、ネウルから質問をぶつけられ、オウルは面倒そうな顔をしながらも、脳を回転させる。

 こちらが二人に対して、敵は残り四人。その上、厄介そうなレベルを持つ者が一人残っている。ただ、それでもこちらが優勢なことは変わりない。

 それだけオウルが自分が強いという揺るぎない自信がある。

 ただ、さすがに囲まれたら負けるな、と考え、オウルは場所バレしているここから離れようと歩き出した。

 そのとき、一人の女がオウルの前に立ちふさがる。

 丸い盾を左手に持って、鎧を着込み、立派な剣を携えた、女騎士。

 中央の異変を感じ取り、向かってきた者の一人であろう。

 レベルは21。

 レベル10ごとに能力が大きく上昇するこのゲームのシステムにおいては、2レベルの差など、無いも同然。

 つまりは同格。

 オウルといえど油断できる相手ではない。

 そのはずなのだが、オウルは余裕の表情を一切崩さず、声を漏らした。

「ふー、女か……そういやぁ、最近してなかったなぁ」

 その言葉に、女騎士は警戒心を露わにして、剣を腰から抜く。

 そして、オウルはニィッと口を三日月形に歪めると、付き従えているネウルに命令する。

「おい、周り警戒しとけ」

「了解っす! 親分!」

 ネウルはビシッと敬礼するとささっとどこかへ行ってしまう。

「…………」

 女騎士はネウルの気配が完全に消えたのを確認してから、どうみても自然に作られたとは思えない死体の山を見て、訊ねた。

「この山はあなたが?」

「ああ、俺がやったんだ。最高だろ?」

「悪趣味な……!」

 二人が同時に前へ出ると、剣と斧が高い音を響かせて、交わった。


   *


 女騎士がオウルと相見えている頃。

 リュウガとミキのペアも、中央近くまで来ていた。

 建物を利用して、コソコソと中央へ向かう二人がそこで見たものは、口笛を吹きながら堂々と街道を歩くキャラクターの姿である。

「あいつは……」

「敵、だね」

 リュウガが呟くと、その続きを言うかのようにミキが付け加えた。

 マップを見ると、確かに、キャラクターでありながら、味方の反応ではない。

 それに、あんな、腰に布切れを巻いただけの変態など、11人の味方の中にはいなかった。

 間違いなく、敵と言っていい。

 おそらく、もう一人は中央で味方と戦っているはずなので、あの敵は孤立していることになり、こちらは二人なのだから、ここは倒すべきだろう。

 ミキも同じ考えをしていたのか、リュウガに提案を申し出る。

「多分、中央で味方の人が戦ってるはずだよ。だから敵の増援はなさそうだし……私達二人なら倒せると思う。リュウガ君、どうする?」

「そんなの決まってんだろ! 全部ブッ倒す!」

 リュウガはやる気満々のようだ。

 このままいけば、リュウガが馬鹿正直に突っ込んでしまいそうなので、蒼太はコホンッと咳払いをしてから、人差し指を立てて言った。

「ちょっと待って、リュウガ。実はね、僕に一つ、いい作戦があるんだ。だから、今から僕が言うことを、ミキさんに伝えてくれないかな?」

「おお! 任せろ! で、なんて言やいいんだ?」

「うん、こういうのはね、普通、2人がかりで攻撃するものだ。でも、ミキさんは弓兵だ。矢が間違って僕らに当たるってことは避けたい。だから、僕がリュウガを後ろに下がらせたら、それを合図としてミキさんに敵を撃ってほしいんだよ」

「わかった」

 リュウガは頷くと、敵に気づかれないように、小さな声でミキを呼んだ。

「おい、ミキ!」

「な、何……?」

「敵が下がったら、俺を撃て!」

「僕が言った作戦と全然違うんだけど!?」

 声を張り上げる蒼太。

 だが、そんな必死の訂正がミキに伝わるはずもなく、ミキは戸惑った声でリュウガに確認する。

「え? ほ、本当にそれでいいの?」

「ああ! そんじゃあ、行くか!」

 リュウガはそう言って、敵の前へと飛び出す。

 作戦が間違って伝わったままで、だ。

「ちょいちょいちょいちょいちょい! 待ってぇぇぇぇぇ!」

 この後、蒼太にとんでもない試練が訪れたのは言うまでもない。


   *


「つまらねぇ! こんなにあっさり終わるとはなァ!」

「ぅう……」

 オウルに戦いを挑んだ女騎士は、オウルに片手で首を掴まれ、体を持ち上げられた状態で、うめき声を漏らした。

 装備していた剣はどこにも見当たらず、盾は割れて使い物にならず、鎧もボロボロで、素肌を露出させている。

 完敗だったのだ。

 例え、同レベルでも力量の差は生まれる。これがゲーム。

 とはいえ、オウルも無傷とはいかず、HPが230から200まで減ってはいるが。

「まぁ、いい……これからたっぷり楽しませてもらうからなァ」

「くっ……!」

 嗜虐的な目を宿すオウルに、女騎士は目で抵抗を示すが、もはや、オウルを止められるようなレベルを有する存在はいない。

 後はオウルが本気を出せば誰もが手も足も出せずに死んでいく。

 しかし、すぐに終わらせる気は、オウルにはさらさらなかった。

 せっかく、レベルトップとして戦争が組まれたのだからもっと楽しもう、と斧を強く握める。

 これから残虐非道な『遊び』が始まろうとしていたとき、ふと、オウルは呟いた。

「ネウル?」

 オウルは気づいたのだ。ネウルの命が絶たれていることに。

 あれはかなり馬鹿だが、それでも実力は確かなものだ。そう簡単にやられるような子分じゃない。

 それを倒したとなれば、遊ぶ余裕がない相手がまだ残っているということなのだ。

「骨のある奴がまだいるってことか? ちっ! 冗談じゃねぇ! こっから楽しもうってときによォ! おい、女ァ! そいつはどこにいる!?」

「ぐっ……知ら、ないわよ」

 首を絞める力を強くし、無理やり居場所を吐かせようとするオウルを、拒否する女騎士。

 楽しむということを一切忘れ、業を煮やしたオウルは女騎士の首筋に斧を当てて、言った。

「なら、もういい……消えろ」

「やめろ!」

 斧が肉を抉り始めたとき、恫喝的な声が響き渡り、家の陰から一人の男が姿を現した。

 初期装備である冒険者服に身を包み、震えながら鉄の剣を構える男のレベルは8。つまり、初心者であり、到底ネウルを倒せそうには思えないが、オウルは一応確認を取る。

「てめぇか? 俺の子分に手ぇ出したのはよォ」

「お前の子分なんて知るか! レイコから手を離せ!」

「あ? あー、はいはい。お前ら小隊組んでたわけだ」

 その会話に割り込むように、女騎士、レイコが口を開いた。

「イチヤじゃ敵わないわよ……私のことはいいから早く逃げ、て」 

「そんなこと出来るわけないだろ! 今助けてやるからな!」

 初心者の男、イチヤが無謀な言葉を発して、走り出そうとした、そのとき、ドスの効いた声が重く響いた。

「カップルが遊び気分で戦争か?」

 ビシャッと赤い血が跳ね、イチヤの顔に付着する。

 一瞬、何が起こったのか、イチヤにはわからかった。

 しかし、目の前の光景を見れば、否が応でも、理解させられてしまう。

 オウルがレイコを地面に叩きつけ、右手に持つ斧でレイコの頭部を粉砕したのである。

「レイコォッ!」

 イチヤは声を震わせ、愛すべき恋人の名を呼ぶが、HPが0となったレイコに答える術はない。

「ハッハー! 戦いの中で恋人ごっこなんてしてんじゃねぇ! 反吐が出るぜ!」

 と言って、オウルは既に死体となったレイコの死体を足で蹴り上げ、どかす。

 ゴロゴロと転がり、イチヤの足元にレイコの死体が滑り込む。

 そして、イチヤの足にぶつかると、慣性によって首だけが回って、悲惨な状態となったレイコの顔が向けられる。

 付き合い始めて半年。キスさえも許してくれない、プライドの高い彼女が、こんな屈辱的な身を晒している。

 そのとき、イチヤがどんな気持ちを抱いたか、想像に難くない。

「き、貴様ぁぁぁぁぁ!」

「ふんっ、馬鹿がっ!」

 愚直に直進するイチヤを、オウルは舌なめずりをして、容赦なく斧で斬りつける。

 イチヤの勢いを全て殺し、満タンであったHPがたった一撃で6割失われた。つまり到達したのだ、後一撃で死に至るレッドゾーンへと。

 オウルが見せつける、圧倒的な力の差。

 ドサリッと倒れたイチヤの頭を、オウルは足で踏みつけ、そのまま身を屈めると、ヘラヘラと笑った。

「へへっ、生かしといてやるよ」

「な、んだと……?」

「その方が味方もお前が必死で耐えてると思ってくれるもんなぁ」

 普通はそんなことはしない。

 確かに敵を騙す手段にはなりえる可能性はあるが、チャットをしてしまえば、それで終わりな上に、低レベルな敵といえど、見逃すリスクを考えれば、意味のない行為だ。

 ただの卑劣な嫌がらせに過ぎない。

 そう、オウルがしたいのは勝つための戦略ではなく、ただの嫌がらせ、唯一の楽しみ。

 もはや、戦争において勝てるかどうかなど、二の次なのである。

「ああ、なんて楽しいんだ! これだから、戦争はやめらんねぇ! ヘハハハハハッ!」

 下品極まりない笑い声を上げて、オウルは歩く。味方を惨殺するために歩き出す。イチヤにはそれを止める力はない。

「……っ! ちくしょう……ちくしょう!」

 己の力不足を嘆くイチヤ。

 戦いたくとも、もう戦えない。イチヤはともかく、イチヤのプレイヤーは既に諦めているのだから。

 腕を上げ、何度も、何度も地面を殴る。そこに力など籠っていなくとも、俺はまだ戦えるんだ、と訴えるかのようにイチヤは殴る。

 その肩に、そっと誰かの手が乗せられた。

「後は任せろ」

 上から声が聞こえ、イチヤは顔を上げる。

「お、お前は……」

 その男、レベル1。

 全財産でもって戦争に挑むほどの馬鹿、リュウガである。

 誰も期待していない、声をかけられさえもしなかったリュウガが味方の全てを背負って、叫ぶ。

「おい、山賊かぶれぇぇぇぇぇ!」

「ぁあ?」

 不機嫌な声を出して振りむくオウルに剣を向けて、リュウガは高らかに宣言した。

「俺と、勝負だ!」

「ほぅ、いい度胸だなぁ、てめぇ」

 オウルはニヤリと笑って、斧を構えた。

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