レベル4 『最悪のパートナー』
【キャラクターメイキング中です】
画面中央にそれだけ書かれ、現在一時間近く待たされている。
「むー、こんな待たされるなら引退試合前に起動しとけば良かった……」
蒼太はベッドの上で転がりながら、不服そうな声を出して、説明書を読んでいた。
暗記してしまうほど読んだ説明書など読んでも仕方ないのだが、もはや、アルトヘヴンの前では他のゲームも漫画もテレビも霞んでしまい、どうにもそれしかやることがなかったのである。
そうして、さらに10分ほど経過したとき、画面の表示が変わった。
【まもなく終了します。もうしばらくお待ちください】
「やっとかぁ……」
と覇気のない声を出しながら、蒼太はベッドから転がり落ち、もそりとソファの上に登る。
ソファとテレビの間に、新たにテーブルが召喚され、さらにこの部屋は狭くなった。
このゲームのためだけに、先程、物置から引っ張ってきたのである。
テーブルの上にはアルトヘヴンをプレイするために必要なキーボードとマウス、ヘッドフォンが用意してあり、ソファから快適にゲームをプレイできるよう、テーブルの高さも調整してある。
多少時間がかかることを予想してこれらの仕事を残していたのだが、よもや、終わってなお時間を持て余すとは、誰も思うまい。
しかし、それもようやく終わりを迎え、ずっと黒かった画面が切り替わり、白一色に染められた。ホワイトアウトというわけではなく、奥行きなどが感じられる空間としての、白い場所である。
そこに一人、少年が立っていた。歳は、おそらく蒼太に近い。
黒い短髪に、青いTシャツと、黒い半ズボン。
随分と幼いスタイルだな、という印象を抱きながら、蒼太はヘッドフォンを頭に被り、声を出す。
「じょ、じょうも! こんにゅちゅわ!」
噛んだ。
恥ずかしいぐらいに、蒼太は噛んだ。
だが、少年は何も言ってこない。
寡黙なのか、空気を読めるような人なのか、ただ単に声が届いてないのか。
「あ」
と蒼太は声を出して、ヘッドフォンを頭から外し、確認する。
マイクのスイッチが入っていなかったのである。
これでは声も届くまい。
――うぅ、いきなり失敗だらけだ……。
先行きが不安になるが、気持ちを入れ換え、蒼太はマイクのスイッチを入れる。
「ど、どうも、朝霧蒼太です」
少年は少し驚いた顔をしてから、元気よく手を上げて、名乗る。
「おお! やっと声が聞こえた! プレイヤーは蒼太っていうのかー、俺はリュウガってんだ! よろしくなぁ!」
「……よ、よろしくお願いします」
――初対面から馴れ馴れしい人だなぁ。
と自己紹介を済ませた二人だが、さて、ここからどうするか。
最初は何をするか、というのが決まっていない。チュートリアルもなしにいきなり街に放り出して、はい後は頑張ってね、というわけだ。
それはちょっと無責任すぎるだろ、と文句を言いたくとも、その場は設けられていない。
とりあえず、こんな白いだけの空間にいても、仕方がないので、あからさまに出口っぽい光が立ち昇る場所へ移動するよう、リュウガを促す。
「リュウガ君、あそこの光まで移動してくれないかな?」
「何だよ、よそよそしいな。リュウガでいいよ」
――いきなり呼び捨てはハードル高すぎるよ!
心の中で叫ぶと同時に、蒼太がここで思ったのが、リュウガとの価値観の違いだ。
リュウガがどのようにして、意思を形成されているのかは知らない。
しかし、リュウガを一人の人間として見るならば、当然その人間にはその人間の価値観というものが存在する。
文化という言い方でもいい。
もし、これからこのゲームで一緒に戦っていくなら、考え方というもの、そのすり合わせをしていかないといけない。さもなければ、余計な軋轢を生みかねない。
それについては近い内にするとして、とにかく、呼び捨てで呼んだ方がいいのは確かだ。
「……リュ、リュウガ…………君」
――うん、ダメだ。
呼び捨ての感覚というのが蒼太にはわからない。呼び捨てしようとすると、どうにも相手に悪いという気持ちになってしまうのだ。
「まっ、いいや。それよりも街ってどんな感じなんだろうな!」
幸い、と言うべきか、リュウガは呼び捨てで呼ばれることはそんなに固執していないようで、上京する田舎者のようなセリフを吐いてから、迷うことなく、光の中へ飛び込んだ。
画面から白い光が溢れだし、まるで今までいた白い空間が暗闇であったかのように、全容を把握しきれないほど巨大な街を照らし出す。
活気溢れる空気を思いっきり吸い込み、リュウガは感嘆の声を漏らした。
「はー! すっげぇ! これが……」
光を抜けた先に、まずあったのが巨大な噴水である。
一定の間隔で水が噴き出る仕組みになっているようだが、ちょうどリュウガを歓迎するかのように、周囲の建物に並ぶぐらい高く、水が昇った。
建物は最低でも四階建てのオフィスビル相当の高さがあり、どれだけ水が高かったのかが窺える。
少ししたら、噴水は力を失い、水がゆっくり落ちていくと、それを目が追って、下へと流れていく。
そこで目にしたのが、噴水を囲むように置かれているベンチで、様々な恰好をした人間が談笑している光景であった。
頭から足まで全身を硬い鎧で守っている重装備の騎士。
要所だけを硬い材質で守り、後は布素材で構成された軽装備の戦士。
ただの服を着ているようにしか見えない布装備の射手。
ああやって、皆が集まってゲームの攻略に関する色んな情報を交換しあうためにあのベンチはあるのだろう。
耳を澄ませば、会話も聞こえてくる。
「『女王』ヴァレンティナが北の遠征に行くらしいぜ」
「ぉお! そいつはすげー! 俺も連れてってもらえねーかなー」
「お前なんか連れてくわけねーだろ」
「だよなぁ……あーあー、女王様の鞭で叩かれたいぜ! あの人の配下は皆、そんなご褒美をもらってるって噂だ」
「へへっ、俺は逆に、あの女王様を鞭で叩いてやりたいね」
「いい趣味してんね、お前らよ」
「おい! お前ら、ソフィールさんのこと忘れてるぞ!」
「ああ、確かに、ソフィールさんは美しかったなぁ……あの未亡人って空気がたまらなかったよな。いったいどこに行ってしまわれたのか」
「…………って、攻略の話じゃないの!?」
――あれ!? あれぇ!? いや、ある意味攻略だけども!
と蒼太があたふたと動揺していると、リュウガは眉をひそめ、声を張り上げた。
「何だ!? どうかしたのか!?」
「い、いや……何でも…………ん?」
ふと、リュウガの姿に違和感を覚え、間違い探しをするかのようにじっくりと見て、蒼太は気づく。
左から右へと斜めに鞘を背負っていたのである。
――いつの間に……。
鞘は肩と腰の両端から少しだけ飛び出しており、中身もそれに合った長さであれば、長くもなく、短くもない、普通の剣ということになる。
あの白い空間では持っていなかった物だ。
おそらくこの街に来てから召喚されたものだろうが、いやはや、唐突すぎる。ゲームなので深く考えても仕方ないのだが。
「本当に大丈夫か?」
「ごめん、本当に何でもないんだ。気にしないで」
「そっか……なら、いいけど」
言って、リュウガは、石の地面を走りだしていった。
「…………」
それから目線を戻して、今度は街全体を視野に収める。
RPGでよくある中世ヨーロッパ風の街並みで、冒険心をくすぐるようなデザインが細かいところまで施されていた。
ただ、よく見ると、奥に行けば、二階建ての一軒家ぐらいの大きさしかない建物がちらほら。
さらに周りに目を向けると、東地区中央広場と書かれた看板を見つける。
どうやら、凄そうなのはここだけで、ちょっと先に行けば、住宅街のように地味な街並みになるようだ。
なんだか上っ面だけ整えたように見えるが、これはゲームだ。
むしろ、リアリティ追求という面では正しいのかもしれない。
そう考えると、製作者の愛を感じてならない。
ゲーム運営はほったからしなのに。
――おっと、ちょっと愚痴っぽくなってしまった……それにしても……。
「いい雰囲気だなぁ……」
と独り言を漏らしている後ろで、うぃんうぃんと変な音が聞こえてくる。
何だ、とカメラを回してみると、明らかにオーバーテクノロジーな物体が。
「…………」
この広場は噴水を中心として円状になっており、その円周上に高級感溢れるお店立ち並んでいるわけなのだが、その一つとして、それが並んでいたのである。
おそらくキャラクターの移動を補佐するためのワープ装置なのだろうが。
台無しだった。
色んな物が台無しになってしまった。
街に対する興味を失った蒼太は、とりあえずリュウガに関しての情報を見ることにした。
画面左上を見る限り、HPは100、名前はリュウガである。
とりあえず偽名ではないらしい。当たり前だが。
次に、蒼太は画面右上にあるメニューアイコンにカーソルを合わせ、左クリックする。
すると、リュウガのステータスなどのあらゆるデータが表示する窓が出てきて、蒼太は顔を画面から離して、凝視した。
レベル1。
アイテムは何もなし。
所持金は10――単位は円でもドルでもGでもなく、g。
装備は五つの枠で構成されており、武器やら防具やらを装備していく。
これは例えば、五つの枠全てを武器にしたり、逆に武器なし全防具のガチガチ装備構成にすることも出来るということだ。
ちなみに、現在は防具として、〈冒険者服〉なるものと、右手武器として、〈ただの鉄の剣〉が装備されていた。
この武器を見て、蒼太は感想を一つ残す。
――ただの、って部分いらないでしょ……。
ここに遊び心など誰も求めてない。制作者は何を考えて、こんな物を初期装備にしたのだろうか。謎である。
さて、そんな製作者が防具を外すとどうなるように設定したか気になるところだが、今はやめておこう。
下手したら、リュウガが社会的に死ぬ。
と、どうでもいい考察まで交えていると、何やら、背景がメリーゴーラウンドに乗ったときのようにグルングルンと回っていた。
窓を消すと、リュウガが興奮した様子で、上京した田舎者ばりに周りをキョロキョロと見回している。
それでもって、リュウガが体の向きを変えるたびにカメラも追随して動く仕組みになっているため、耐性のない人間だと軽く酔いそうだ。
しかし、これではリュウガが動くたびに画面が揺れてろくに物を見れそうになさそうだが、説明書に書いてる分には問題ない。
普段はリュウガの右斜め後ろから見てるようにカメラがあるのだが、マウス操作で右クリックを長押しすると画面を固定することが可能であり、右ドラッグするとカメラを動かすことも出来るのだ。
カメラを回しながら、蒼太も街の様子を観察していると、リュウガが建物の中に入ろうとしていた。
「ん? 何やってるのさ?」
「おお! かっこいい剣がなッ!」
「あったんだね……」
――出来れば、街中を観察したいんだけどなぁ……。
「蒼太、なんか良い物あったら買ってくれよ!」
「買えるわけないじゃん……」
「そんなの入ってみなきゃわかんねーだろ!」
「いや、あのさ、看板に高級武具店って書いてあるよ?」
蒼太に言われて、リュウガは看板を見た。
そして、ハッとした顔でリュウガは言った。
「おめー、天才か!?」
「君は愚者か?」
――やばい、ちょっと先行きが不安になってきたぞ……。
「ぐ、愚者……?」
――む、さすがに悪口が過ぎたかな。
「って、どういう意味だ?」
「…………」
例えば。
例えばの話、全く知らない言語で悪口を言われたら、どう思うだろうか。
答えは、何も思わない、だ。
つまり、単語の意味さえ知られなければ、蒼太の悪口は悪口でなくなる。
――全力で、誤魔化す……!
「賢い人がそれを言うイメージがあるね」
「おー、賢い人かー」
嘘は言ってない。
賢者が馬鹿な人間に対して言う言葉である。
「むふふ、まぁ、俺は賢いからな! 愚者という言葉がよく似合う!」
「そうだね! 君には愚者という言葉がよく似合ってるよ!」
嘘は言ってない。
とてもよくお似合いである。
「ん? いやいや、俺は言われてるんだよな? じゃあ、その意味って……」
――くっ! 気づられたか……!
「意味? ああ、そうだったね。愚者という言葉には型にハマらない自由な人って意味があるよ」
嘘は言ってない。
愚者という言葉にそういった側面があるのは事実である。
まあ、愚かな人間、つまり馬鹿、という意味もあるが。
今回はむしろ、そっちの意味で使っているが。
「うーん、本当か? なーんか違うような気も……誤魔化してねーか?」
「は、はは、誤魔化してなんかないよー」
嘘だ。
完全に誤魔化している。
「まぁ、いっか!」
――よし!
勝った。
「…………」
――僕は何と戦ってるんだろうか?
とてもどうでもいいことに時間を費やしてしまった。
「おー、あれ何だ!?」
リュウガが子供のような無邪気な声を上げて、指を差す。
ワープ装置とは別のベクトルで場違いな建物。
古臭く、小さい建物。
登録所とだけ書かれた胡散臭そうな看板を目にし、蒼太は呟いた。
「ダメダメ。時間の無駄だよ」
しかし、リュウガはもう自分の体を抑えつけられないといったように、登録所へと走り出した。
「あ、ちょっと勝手に動かないでよ!」
「いいじゃん、いいじゃん。見るだけだって。それにこの体は俺の物だろ?」
「それはそうだけど……」
それはもっともなのだが、プレイヤーがその体を操作する人間だということを忘れてないだろうか。
キャラクターがプレイヤーの意思のままに動くって実はすごいことなんだな、と変に感心しながら、蒼太はリュウガのわがままを許すことにする。
――これから長くやっていくんだ。感情的になったら気まずくなっちゃうからね。
よし、と 登録所の様子を見る。
中にいたのは、十人ぐらいだろうか。
思っていた以上に、多くの人がたむろしており、ここがポピュラーな場所であることを蒼太は認識する。
さらには、この登録所はどうやら緑をシンボルカラーとしているようで、内装では緑の壁紙が張られており、外観も緑が目立つような色調だった。さすがに、いくつかある丸テーブルや丸椅子などは塗装を施していておらず、木で出来ていることを主張するかのような茶色であった。
屈強そうなキャラクターは一人もいないことからも、これと同じ建物はいくつも存在し、かつ、ここは初心者用の〈登録所〉なのだろう。
蒼太がそこまで推察していると、リュウガは木製のカウンター越しにいる受付らしき女性に話しかけていた。
「ここって何なんだ?」
「ここは登録所でございます」
「いや、そうじゃなくてよ、ここがどんなところか聞きてぇんだよ」
「登録所でございます」
受付の人は営業スマイルでそう答えると、それっきり黙ってしまう。
どうも素っ気ないというか、事務的というか、人間らしさというものが受付の人からは感じられなかった。
――この人、もしかして……。
「わけわかんねー奴だなー……登録所ってのは何するところなのか、ってことぐらい教えてくれたっていいじゃねーか」
不思議そうな顔をしながら、リュウガが愚痴を漏らすと、受付の人が口を動かし始める。
「登録所は兵士登録するための場所です。この世界では戦争が絶えず起こっています。兵士登録をすれば、この戦争に参加することが出来ます」
「せんそう?」
リュウガは首を傾げる。が、それに対する回答は用意されてないのか、受付の人は反応を示さない。
そこで蒼太は、説明書に書いてあったとおりだ、と頷く。
「間違いない。この人は、マリオネットだ」
「マリオネット?」
リュウガは意思を持つ、キャラクター。
受付の子は意思を持たない、マリオネット。
本来、ゲームであれば、マリオネットは普通の存在だ。
NPCとして、ときに心さえも感じられるほど、世界を生きる存在として、ゲームの中にあり続ける。
だが、この世界では、心が溢れているこの世界では、マリオネットは、ひどく無機質なように感じられた。
「マリオネット。操り人形って意味だね。意思を持たず、他人によって決められた行動しか出来ない……悲しい存在だよ…………」
「お……おぅ! すげーなぁ! 俺もそう思うよ! よくわかんねーけど!」
「うん、よくわからないなら同意しないでね?」
説明するだけ無駄だったようだ。
片や能天気な馬鹿、片や不憫な少女。
――これじゃあ、受付の子がかわいそうだよ……。
今すぐデータリセットして、この受付の子をキャラクターにしたい気分である。
きっと良いパートナーになってくれるはずだ。
「ねぇ、リュウガには得意なことってないの?」
ダメ元でそんなことを聞いてみる。
もしかしたら、リュウガにも良い部分があるかもしれない。
「得意なこと? おお! あるぞ!」
「え? 何っ!?」
――やはり、何かあるのか!?
「木登りだ!」
子供か。
「はぁ……木登りが何の役に立つっていうの?」
「俺はな、木に登るのが一番早かったんだぜ!」
「だから、それが何の役に?」
「ふふん、俺は猫を何回も助けたことがある!」
「それはすごいね!」
「だろー? えっへん!」
「で? それが何の役に立つのかな?」
「…………」
黙った。
この世界で何の役に立つかは思いつかなかったらしい。
「あのー、いかがなされました?」
受付の子が見かねて、声をかけてくる。
「おー! 忘れてたぞ! じゃあ、その、登録ってので」
――って何勝手に登録しようとしてるの!?
「登録ですね。かしこまりました。では、料金についてなのですが……」
「お金かかるのか!?」
リュウガがズルッと体勢を崩して、叫ぶ。
これには蒼太もビックリ、と同時に、納得のいく話でもあった。
このゲームはHPが0になったらキャラクターが死ぬという、残酷なルールがある。しかし、それが適用されるのは街の外だけで、街の中は安全である。
それに従って、戦争は街の中という判定になるのか、戦争と謳っているものの、死のリスクはない。
ある程度のお金と経験値が安全に手に入る、となれば、お金を多少取られても文句を言えるようなシステムではない。
逆に、お金がなくなれば、多少リスクを負ってでも外に出なければならない。これからはお金の管理に気を使う必要がありそうだ。
嫌なシステムである。
そんな蒼太の思考を肯定するかのように、
「はい」
と、にこやかな笑顔で返事をしてから、受付の人は説明を続けた。
「初回の参加料は無料ですが、登録料が10gかかります。それ以降は1gで戦争に参加できます。また、一か月で登録は抹消されますので、一か月後にも戦争に参加したい場合、再び登録料をいただきます」
「なんだよー、めんどくさいな。ずっと1gに出来ないの?」
そんなこと出来るわけがないだろう。
受付の人は意思を持ってない、ということは交渉も不可能ということなのだから。
「申し訳ございません」
当然のように、受付の人は言う。
いや、当然というのはおかしいだろう。
受付の人は意思を持ってない。つまり、キャラクターに対する受け答えが事前に用意されてなければならない。
――他にも交渉しようとする人が沢山いるってことだね……。
苦笑しつつ、蒼太は登録すべきどうかを考える。
10g。それは今の所持金と同じ額だ。
全財産をはたいて、戦争に参加したとする。
勝てれば、お金も入るし、レベルも上がる。
だが、負ければどうなる?
まず、お金が手に入らない。
そうなれば、戦争には参加できなくなり、街の外へ出なければならなくなる。
初期装備のままで、だ。
あまりにも危険な行為。
ここで参加するのはありえない。
つまり、多少のリスクはあっても、10gをフルに使って、装備を整え、外に出るのが正解。
――それでもやる人は多そうだなぁ。
なんて考えながら、蒼太はメニュー画面を再び開くと、違和感に気づく。
隅々まで確認すると、どうやら、10あったはずの数値が0になっているようなのである。
「あれ? お金がなくなってる?」
蒼太が疑問を声に出すと、リュウガが返答した。
「ああ、お金なら登録したから、ないぞ」
「と、登録した!?」
「うん、はは、面白そうだったから」
「っ!」
――ダメだぞ、ダメだぞ、感情的になっちゃダメだぞぉ!
登録所に飾られた剣を物色し始めたリュウガに、蒼太はため息を吐いて、言った。
「リュウガ君、あのね」
「リュウガでいいって言ったじゃねーか」
「…………」
リュウガに訂正され、沈黙する蒼太。
水を差された気分だが、蒼太は落ち着いて、呼び直す。
「じゃあ、リュウガ」
「何だ?」
「ひょっとして君は……馬鹿なんじゃないかな?」