レベル1 『朝霧蒼太の始まり』
某日未明。
とある場所で、アルトヘヴンと呼ばれるゲームの発売記者会見が開催されていた。
会場内は異様な雰囲気に包まれており、誰もが固唾を飲んで、制作者が来るのを今か今かと待ち望んでいる。
やがて、白衣に身を包んだ男が壇上へと姿を現すと、一斉にフラッシュがたかれ、記者達が決められた席を無視して、壇上へと詰め寄った。
まだ何も喋っていないにもかかわらず、質問攻めにされている白衣の男は平然とした顔でそれらを無視して、説明を始めていく。
アルトヘヴンの、画期的なシステムを。
記者達は、間抜けなことに、口を開けて、メモを取ることも質問をすることも忘れてしまうほど、それに、聞き入っていた。
そして、最後に男はこう言った。
「人には支配欲というものがある…………誰かの上に立ちたいという心だ。さて、私から言えることはただ一つ。人の心を持ち、自律する人形を……操りたくはないか?」
会場内がワッと歓声で沸き、この日、新たな世界が開かれた。
*
大きさはそこそこ。風通し良好。閑静な住宅街。
そんな一軒家の広くも狭くもないリビングにて、家族で見るための大きなテレビの前でバチバチと火花を散らす、親子がいた。
まだ小学生2年生である朝霧蒼太は子供らしからぬ汗を額から垂らしながら、言った。
「何でダメなの?」
頭ごなしにダメと言われても、理由を聞かなければ納得できない。
「あなたがまだ子供だからよ」
だが、母親の朝霧永子はそれだけしか言わない。
子供だから、そんな漠然とした理由だけで、蒼太を否定する。
「ちょっとだけでいいんだ」
と、蒼太は言ってみた。
ちょっとで止まる自信はないが。
「ちょっとでもダメよ」
それでも、ダメ。
段々と母親に対する怒りが増してくる。
「何でだよ! たかがゲームじゃないか!」
「そういうところが子供なのよ」
――どうして、こう、融通が利かないんだ! 僕はもう子供なんかじゃないのに!
二人はお互い正座して、テーブルを間に相対していた。
テーブルの上には六つのゲーム機が所狭しと置かれていおり、それらのゲーム機から伸びたコードが、蛇のように絡まりながら、テレビを乗せる台座の中へと入り込んでいた。
コード類がごちゃごちゃしていると、歩くときに足を引っかける危険があるし、何より見た目がよろしくないのだが、母親である永子はあまり気にしないようで、注意しても片づけてくれない。
かといって、蒼太一人ではどのコードがどこに繋がっているかなどを把握していないため、出来ずじまいなのだ。
そんな母親のだらしなさも相まって、噴火の如き怒りを表現すべく、
「僕は他とは違うんだ!」
という叫びを部屋の中に響かせ、蒼太は机をバシンッと叩いた。
ゲーム機器が激しく音を立ててカーペットの上に転がっていくのを気にする風もなく、永子は決して小さくない胸を揺らして言う。
「ふーん、他とは違う、ねぇ……なら、お母さんと勝負しなさい」
「うっ……しょ、勝負? ふっ……僕がそんな子供みたいなことするわけないじゃないか」
――ていうか、お母さんと勝負なんかしたら負けちゃうよ!
あくまで訴えることが大切なのだ。平和的な解決方法である。
しかし永子は、平和など知らん戦争だ、とでも言うかのようにフンと鼻を鳴らした。
「あら、そう。じゃあこの話はなかったことに……」
「ああ! ちょっと待って!」
「何?」
「ごめんなさい。ちょっと大人ぶってました。僕が悪いです」
「そうよね? そう教えたはずだわ。悪いことしたらすぐに謝る。いつも言ってるわよね?」
「そ、そんなに悪いこと、かな? 子供が大人ぶるのはよくあることで……」
大人ぶっている裏で、なんとか勝負を回避できないか交渉しようと画策してはいたが。
その罪悪感で、つい、謝罪の言葉が出てしまったが。
表面的に見れば、むしろ微笑ましいと言えるものだ。
「私が言ってる悪いことっていうのは、勝負をする前から諦めて、あまつさえ交渉に挑もうとしていたこと。何が平和よ」
「全部バレてる!?」
――というか、心の中まで読まれてるんですけど!? どういうこと!?
「足元を見られているのに、交渉なんて出来るわけないでしょう? 自分の手札は相手に悟られちゃいけないのよ。常に相手より上にいなくちゃいけないの。だから、次からはきちんと空を飛びながら交渉しなさい」
「それどういう状況!? しかも人類の夢をそんな簡単に!?」
「それが無理なら、交渉相手にアッパーを食らわせれば足元を見られなくて済むわ」
「そんなことやったら、交渉決裂だ!」
「全部、比喩の話よ」
「そのぐらいわかってるよ!」
「とにかく、次からはもっと隠しなさい。底が見えないぐらい、深く、ね」
「ぅう……わかりました……」
――なんで僕は母親から交渉術なんか教えてもらってるんだろう?
「それで、勝負するの? しないの?」
「あ、はい……えーと、その前に……勝負って何するの?」
蒼太が聞き返すと、永子はとあるゲームのパッケージを取り出し、それを見せつけるかのように、ペラペラと手首を振った。
「このゲームで一度でも一位を取れたら、私が考えてあげなくもないわよ」
「それって、考えるだけなんじゃ……」
「何か文句でも?」
「い! いえ! 何でもないです!」
蒼太は深く俯き、考える。
永子が提示したのは、戦争を題材として撃ち合う、FPSと呼ばれるジャンルのゲームである。一応、オフラインでは何度か友達と遊んだことがあるゲームだが、オンラインでは一度もやったことがない。
ただ、朝霧蒼太は同年代の友達と比べて、ゲームが上手いことが自慢の小学生である。相手は、あの母親ではないのだ。一回ぐらいならきっと一位を取れるはずだ。
うん、と蒼太は一度頷き、顔を上げる。
「その勝負、乗った!」
そうして、蒼太は意気揚々と一戦目に挑んだ。
しかし、結果は最下位。まだまだこれから、と続けた二戦目も、最下位。三戦目、最下位。
それから四戦目、五戦目と繰り返される度に、蒼太の心は沈んでいく。
そして、何戦目かわからない戦いで、蒼太はついに半泣きになって、ゲームをプレイしていた。
「ぅぅ…………」
友達と比べたら確かに上手いかもしれないが、所詮は子供。後ろから撃たれ、「ひぐりっ!」と蒼太は声を漏らした。
さっきから一人も倒せずに死んでしまっている。運よく倒せても、すぐにやられてしまってばかりだ。こんなんで一位を取れるわけがない。それどころか、今のところ最下位を抜け出すことすら出来ていない。
世界とはこんなにも厳しいものだったのか。
――一回ぐらいなら簡単だと思ったのに。
どんなに試行錯誤しても改善されない現状に、蒼太は情けない声を上げて、ゲームの師匠でもある、母親に助けを求めた。
「おかーさん……勝てないよぉ」
キッチンから聞こえてくる流水の音がキュッと止まり、永子がタオルで手を拭きながら出てくる。
そして、ため息を吐いてから、永子は言った。
「どうせ、一回ぐらいなら大丈夫とか思ってたんでしょ」
「また思考を読まれた!?」
「いや、そりゃあわかるでしょ……」
「呆れられたー!」
「まったく……ほら、貸してみなさい」
永子が「ん」と鼻を鳴らして手を出すので、素直にコントローラーを手渡しながら、蒼太は首を傾げる。
「え、う、うん……何するの?」
「このままじゃ、一位は難しいわ。だから……」
「だから?」
「途中退出するわよ」
「諦めるの!?」
――秘策があるとかじゃなくて!?
「負けそうになったら通信を切断する。これが対戦の基本よ」
「なんて嫌な基本なんだ!」
「対戦してるとね、色々と嫌な世界も見えてくるのよ。だから、ムカついたら、ちょちょっとね」
「お母さん、いつもそんなことしてるの!?」
「冗談よ。どんなに負けそうになっても、抗いなさい……勝負は最後まで、わからないんだから。通信切断なんて、もってのほかだわ」
「それはそうなんだけど、最後までわからないって言ったって無理なものはあるよね? 例えば…………今とか」
「そうとは限らないわ」
「え?」
永子は不敵に笑いながらコントローラーを持ち直し、言った。
「この状態から、一位にしてあげる」
「……!?」
この状態から?
スコアは最下位。
残り時間は半分もない。
敵は雑魚ではなく、強者ばかり。
――無理に決まってんじゃん……。
「あのね、いくらお母さんでも……」
とそこまで言って、止まる。
なぜなら、テレビ画面に目線を戻すと、とんでもないスコアが飛び込んできたからだ。
どうやら、話していた間にも永子は戦っていて、スコアを伸ばしていたらしい。
呆然と口をパクパクと開閉させていると、永子が煽るような口調で喋り出す。
「ねぇ、蒼太ぁ、いくらお母さんでも……何だってぇ?」
「う……ごめんなさい。でも……これって結局、お母さんがすごいだけじゃないか。僕が抗ったって無理なものは無理だよ…………」
「…………これでも私、ものすごく頑張っているんだけど。正直、本当に一位まで巻き返せるとは思ってなかったから、自分でもビックリしてるところよ」
「ビックリしてるんだ……」
「でも、言われてみたらそうね。じゃあ……」
永子は顎に手を当てて考えた後、「はい、頑張って」と言って、コントローラーを渡してくる。
「え? え? ええぇぇぇぇぇ!?」
「別に、息子に反論されてムカついた仕返しとかじゃないから、安心して」
「嘘だよね!? 絶対嘘だ!」
今の言葉のどこに安心できる要素があるというのだろうか。
「落ち着いて」
「落ち着いてられないよ!」
「そうじゃないわ。落ち着いて、ゲームに集中するの」
「…………」
言いたいことはなんとなく、わかる。
冗談じゃなく、本気で集中しろってことだ。
――でも、それならそれで、落ち着けるようなことを言ってくれないかなぁ……。
なんて言っても、永子は聞いちゃくれないだろうが。
「それとも、あれかな? そういう掛け合いで僕を安心させようとしたのかな?」
「いや、全然。ただムカついたから、その仕返しね」
「本音言っちゃった!?」
ひどい親だ。
――図星だからってそんなこと言わんでも……。
と考えていると、永子がこんなことを言った。
「私がこんなにお膳立てしたのに一位取れなかったら、夕食抜きだから」
満面の笑みを浮かべて。
「ひどい!?」
悪魔か。
――何が怖いって、これで一位取れないと本当に夕食抜きになるところなんだよね……。
気合を入れなおし、蒼太は永子に言われた通り平静を保ちながらプレイするが、いかんせん、プレイヤースキルに差がありすぎて敵を全く倒せず、順位が二位へと落ちてしまう。
それでも諦めずに、コントローラーを強く握り締めながら、蒼太は言った。
「ど、どうしてあんなに倒せてたの? 僕がやっても全然ダメなのに……」
「何事にもコツがあるのよ」
「コツ?」
と蒼太が問うと、いつもは茶化してしまう永子が珍しく答えてくれた。
「例えば……敵が壁際で待ち伏せしてるでしょ? そういうときは壁に跳弾させて、先制攻撃するのよ」
そう言って、永子は実演するために蒼太からコントローラーを奪い取り、射線が通らない場所にいるはずの敵を倒した。
「何その技!? いやいや、お母さん、そんなの出来るわけないよ……」
「何言ってんの? こんなのコツさえ掴めば簡単よ」
「出来たとしても状況が限定的すぎるよ!」
蒼太は顔をくしゃりと歪めて、言葉を続けた。
「ねぇ、お母さん、意地悪しないで教えてよ……」
「…………はぁ、しょうがないわね。基本的なことを教えてあげる。いい? ゲームにもよるけど、FPSで大切なのはエイムよりも立ち回りよ」
「立ち回り?」
母親が素直に教えてくれる気になったことを一驚しつつも、どういうことだ、と蒼太は頭に疑問符を浮かべた。
「いい? 適当に索敵して、行き当たりばったりに撃ち合いをしても、当然、負ける可能性は高いわ。でも、上手い人は一度も死なずに、何人ものプレイヤーを倒せてしまう。それはなぜだかわかる?」
「え、えーとものすごくエイムが上手いから、とかじゃなくて?」
「もちろん、それもあるわ。最終的にはエイムが上手い人が勝つんだから。けれど、それだけじゃない。上手い人は相手よりも先に、相手に気づく。だから、撃ち合いをしても、勝てる。先に気づいた方が勝つ。それが銃撃戦よ」
「はー……そうなんだ……じゃあ、どうすれば、相手より先に気づけるの!?」
「色々あるけど……そうね、今から私の言う通りにしてみなさい」
「うん、わかった!」
「良い返事ね。じゃあ、そこにある角のところでうつ伏せになりなさい」
永子が画面を指さし、場所を指示する。
蒼太は言われた通り、そこへと移動してから、永子に訊ねた。
「ここでいいの?」
「そう、それで敵が来たら迷いなく撃ちなさい」
「ただのガン待ちじゃないか!」
コントローラーをぶん投げたくなった。
本当に投げたら、怒られるのだけれど。
「でも、これで倒せるわよ?」
「こんなんで倒せても嬉しくないよ! 何かこう、走りながら倒したいんだ!」
「走りながら……ハッ! まさか。ランニングマシンを所望してるの!?」
「所望してないよ!」
なぜゲームをしながら有酸素運動をしなければならないのか。
「ずっとゲームの話だったのに、どうしてリアルの話が出てくるのさ!?」
「走りながら、倒したい、ねぇ……それなら、敵が来るところにあらかじめ狙いを定めてみればいいんじゃない?」
「なぜに疑問形!? というか、急に話が戻ったね……」
「なぜ、って言われても……私は感覚で倒せるから、そんな技術を求められても困るわ」
「これだから天才は嫌なんだ!」
天才は考えないで、感じるらしい。
――技術もへったくれもないなぁ……。
「でも、敵が来るところに狙いを定めるってどうすればいいんだろ?」
「うーん、そうね。例えば、障害物の上からは頭を出すことが多いから、そこを狙うとか、かしら」
「標準定めるのに時間かかって横からやられそうだよ……」
「後は、角から出るときに構えながら出るとか」
「あ、それなら出来るかも……こう、かな?」
少しずつ、少しずつ、角から出る。
徐々に視界が広がっていく。
先が見えてくる。
そして、敵が、見えた。
「あ!」
「今よ!」
永子の鋭い声と共に、撃つ。ズダダダッというアサルトライフルの発射音とコントローラーの振動が、蒼太の心を震わせる。
弾丸は一発、二発、三発、と次々に敵の胸を貫通し、敵が倒れた。
スコアが加算されていくのを眺めながら、蒼太は感動する。
「す、すごい……僕が、倒した!?」
そう喜んでる間に敵が来て、やられてしまう。
だが、倒したのだ。小学生で、初心者の蒼太が、このゲームのベテランプレイヤーを倒したのだ。
そして、その直後に試合が終了して、結果を見れば、大逆転も大逆転。
一位である。
「お母さん、すごいよ!」
「ふふーん! そうでしょ、そうでしょ。もっと母を敬いなさい」
「へへー」
蒼太がカーペットから離れて、床の上に平伏すると、永子はどこからともなく扇子を取り出し、バサッとそれを開いた。
「苦しゅうない、面を上げーい!」
「お母さん、そんなことして、悲しくないの?」
「…………」
永子は扇子を閉じ、それを上げて、下ろした。
蒼太の頭めがけて。
「痛いっ!」
――無言で叩いた!?
「さっ、休憩するのもゲーマーの仕事よ」
休憩、という言葉を聞いて、蒼太はバッと顔を上げて、目を輝かせる。
「今日のおやつ何!?」
「ふふ、出てからのお楽しみ」
微笑みながら、永子はキッチンへと入っていった。
永子が作るお菓子はおいしい。普通の料理はあんまりおいしくないけれど、お菓子はおいしいのである。
特に、前回のチョコレートケーキはあらゆる意味で衝撃的であった。
味はもちろんのこと、真に驚くべきなのは、永子は炊飯器でそれを作ってしまったことだ。
米がなければケーキを食べればいいじゃない、というわけだ。
頼むから米を炊いてほしい。
――ああ、いけない、いけない。早く椅子に座らなくちゃ!
今日はどんなお菓子だろう、と期待で胸を膨らませながら、蒼太は両手を使って力いっぱい椅子を引き、ピョンと飛び上がって椅子に腰掛け、足をプラプラさせながら永子を待つ。
数分後、永子が一つの皿を両手で持って出てきて、食卓の上に乗せた。
「クッキーだ!」
蒼太がそう声を漏らすと、永子が補足を加える。
「バタークッキーよ。自信作なの」
「ふーん…………」
――チョコの方が好きって言ったらブッ飛ばされるんだろうなー……。
「あら? 食べたくないならいいのよ?」
「そ、そんなこと一言も言ってないよ!?」
――また心が読まれてる!?
「それなら、文句言わずに食べなさい」
「だから文句は言ってな……」
「食べなさい」
ニッコリと、永子は言う。
満面の笑みだった。
とても怖かった。
恐る恐るクッキーを手に取り、蒼太はそれを口に含み、よく噛んでから、ゴクリと飲み込んだ。
「ん! おいしいよ!」
そうして、蒼太が二枚目に手を出そうとするのを見て、永子は嬉しそうに呟いた。
「仲間から教わってて良かった」
「ぅむ?」
永子が仲間というときはオンラインゲームでの知り合いを指している。蒼太もよく息子として紹介されているため、顔見知りも多い。
ただ、蒼太が知っている人間の中にお菓子を作れそうな人間はいない。
となれば、蒼太がまだ知らない人間、永子が触れさせてくれないゲームの知り合いだろう。
蒼太はそこから一つの答えに辿り着き、答え合わせをする。
「その仲間ってもしかしてアルトヘヴンの?」
「そうよ」
「僕、お母さんに教えてもらったからゲーム上手くなったよ! だから、いい加減やらせてよ!」
「だーめ」
永子は首を振って蒼太の要求を拒否し、さらに言葉を重ねた。
「さっきも言ったでしょ……他のゲームはいいけど、アルトヘヴンだけはダメ。でも、そうね……後7年経ったら、遊んでもいいよ」
「え――――! 今すぐやりたい!」
「ダメったらダメ!」
「ケチ! もういいよ!」
ボロボロと机の上にクッキーの欠片を落としながら、蒼太は声を荒げる。
たかがゲームだ。なのに、どうして永子がここまで言うのかがさっぱりわからない。
ちょっとぐらい、やらせてくれたっていいだろうに。
――どうせ、お母さんは僕のことが嫌いなんだ!
蒼太はそう考え、頬を膨らませながらそっぽを向く。こうしていれば、きっとアルトヘヴンをやらしてくれるだろうと思ってのことだ。
しかし、蒼太の思惑から外れ、永子はいつになく真剣な様子で告げる。
「あなたはまだ未熟なのよ。そんな状態では、いつかキャラクターを殺してしまうわ。だから、ね? お母さんとの約束よ?」
「うっ……うん、わかった…………」
永子が放つ雰囲気は並々ならぬもので、蒼太はそれに対して、ただ頷くことしか出来なかった。