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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
2章 --天翔艦クラールブルーメ--
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その役割 6

 負傷したレイショウに寄り添うハジメが悲鳴の聞こえる方を見ると、そこには巨大な塊が見えた。


 赤く黒く歪な形、ユウセイの工場付近で現れた鬼の融合体。

 それが月の人間を襲いそれを体の一部にして巨大化していきながら建物内を移動している。


「お兄ちゃん、あれ」

「なんで……こいつがいるんだ?」


 先ほどユウセイ捜索のために出ていった月の王のパワードスーツが、大きな剣を振るい肉の塊を切り裂くがその程度では怪物は止まらない。

 怪物の斬られた部分が大きく開きパワードスーツにまとわりつくが、月の王は力尽くで引きはがし抜け出す。

 パワードスーツとともに戦っていた取り巻きたちが攻撃を受け肉塊の一部になる。


「揺れている?」


 地面が膨らみ石畳が持ち上がった。

 その場にいた全員がバランスを崩しよろけ、そして部屋の床を破って現れる新たな肉塊。

 月の人間の服をまとったものが怪物の殻らの一部となっていて、それを見たゲッカが動揺する。


「何ですかこいつは!」


 ゲッカは足元にあったナノマシンを使って棘を伸ばし怪物を貫くがその動きは止まらない。

 割れた地面、床から足が離れ宙に浮いたスイセイはそのまま怪物に捕食され、同じように気を失っているジュピターも怪物に捕食された。


「スイセイ、ジュピター、ゲッカ!!」

「離れて、何が起きてるのか……ひとまずこの建物を出るよ。ナノマシンがある場所へ出ないとこっちもやられる」


 ジュンセイとジークルーンはレイショウとハジメのもとへと向かい、怪物を対処しようとするゲッカを見ながらも二人を抱えて部屋を出る。

 悲鳴と巨体がのたうつ重低音が重なる。

 部屋の外には取り巻きを失い一人で戦う月の王。


「彼をどうします?」

「この二人を抱えての救出は無理、この二人の安全を確保してから」


 廊下で戦う月の王の横をすり抜け安全な場所を探す。

 建物を出ると神殿の中で出会った二匹の怪物と全く同じものが、5匹ほど町をのたうつように動いて歩き回り逃げ回る月の人々を襲っていた。


「助けないと」

「なんで、あの怪物がここにこのタイミングで」


 自らの肉体の元を取り込み巨大化した怪物は、二つに分裂し別々の方向へと歩き出して逃げ惑う人々を追う。

 戦っても楽に勝てる相手ではなくどう戦えばいいかも見いだせずに、ただ見ていることしかできないジークルーンたち。


「助けないと」

「あれを倒すとなると、マーズが持っていた火炎放射器のようなものが必要だと思う」


「必要なのは天翔艦の燃料ですか、それにあの数……時間がかかるにつれて必要になる燃料の量が増えそうです」

「どこに隠しているかを探すのは時間がかかりそうだ、現実的じゃない」


「ならどうするんです」

「……ゲッカを倒せば、今の世界は変わる。戻って彼女を倒し、ここから逃げる」


「本気で言っていますか、人が襲われているんですよ」

「100年前も見たよ、助けたところで……私らは……」


「自分は行きます、レイショウさんとハジメさんの保護をお願いします」

「駄目だよジークルーン、鬼に使われているナノマシンの制御を一つずつ奪おうにもその間に反撃を受ける。無傷じゃすまない」


「自分は、人を守るための兵器なんです。戦わないと」


 同じように怪物を見ていたレイショウが失った腕を押さえて立ち上がって止めようとする。


「待ってくれ、あの怪物と戦う気なのかジークルーン? 倒せないだろ、あの廃墟の町で見た怪物と同じだ逃げるしかない」

「ゲッカが驚いていました。それに、ここは彼女が望んだ箱庭、壊す理由などないはず」


「俺も援護くらいなら、気を引くくらいならできる」

「無理です、片腕を失ってこれ以上何かをしてもらう必要はありません。自分のせいで……この腕は」


 建物に使われているナノマシンを使ってレイショウに義手を作る。

 簡素で物質的な銀色の腕。

 手の甲には彼女の胸当てに刻まれている花の模様を描く。


「自分は人を守るために、いるのですから。戦うんです!」


 ジュンセイとレイショウの制止を振り切り飛び出すジークルーン。

 月の建物に使われている周囲のナノマシンの回収し、怪物を包み込むように建物を作り出す。

 即席の檻を作り怪物を一匹閉じ込める。


「向こうはナノマシンによって動かされているだけ。アルケミストと違って制御権の奪い合いにはならなりません。これなら、安全に相手を封じ込めていけます」


 走り出すジークルーンたちの後ろで、先ほどまでいた宮殿が溶け出し大量の銀色の液体となって流れ出る。

 銀色の洪水は月の町を襲う怪物へと意思を持つように向かい飲み込むと、圧力で肉塊の怪物の内外から押しつぶし施設内に血の雨が降らせた。


「ゲッカ」


 銀色の波の上に立つゲッカと月の王。

 彼女は息を切らし怪我をした肩を掴み痛みをこらえながら、町を歩く怪物たちへと銀色の液体を操作し周囲の建物を飲み込みながらそれらをナノマシンへと戻し銀色の波に加える。

 生存者は銀色の液体の上に浮かび上がり、彼らはゲッカを見て手を合わせ深く頭を下げた。


「自分の出る幕はなかったですね、でもこれでここの人たちも安全でしょうね。で、あの量のナノマシン、こちらは複数人がかりでも制御を奪えなかった。ゲッカに戦いを挑むにはさらに不利になったけどどうする」

「この騒ぎはいったい何だったんでしょう?」


 ジークルーンたちにできることはなく銀色の波は街を襲う怪物を、端から順に波に飲み込み込んで捻り潰していき生存者を助ける姿を見る。

 散らばっていた怪物たちは一つにまとまり大きさで対抗しようとするが銀色の波が巨体を覆いつぶす。

 見える範囲の怪物たちをあらかた飲み込むと銀色の波は動きを止めた。


「あの怪物を倒したら、次は俺たちと戦うのか」

「複数のナノマシンの操作権限を持つアルケミストとどうやって戦うか」


 そこへ天上から落ちてきた怪物の襲撃を受ける。

先ほどまでその存在はなく壁に寄った怪物を銀色の波で飲み込もうとしたところ、彼女たちより上の場所の壁に穴が開き肉塊の怪物が滑り落ちてきた。

 銀色の水柱が上がり落下する巨体を掴み取ろうとするが、バチンと音を立てて稲妻を放ち水柱がはじけ巨体はゲッカや生存者たちの上に落っこちた。

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