月 2
破壊された柱の途中から剥き出しの砲身が伸びており、その近くで梯子に捕まるジークルーンたち。
「あらあら生きていましたか。死亡確認をせずに帰ろうとするなんて、私もさび付いてしまいました」
折れたエレベーターの柱を見上げる、長い髪をなびかせる白髪で金色の瞳をした女性。
100年もたち彼女らは他者の血を取り込み昔とは姿に違いがあるため、ナノマシンの放つ識別番号で相手を特定する。
アンジェリカ・アトランティカ。
彼女が着るのはレオタードに網タイツ、頭に長い耳と腰にふわふわとしたしっぽの生えたバニーガールの衣装。
露出した白い肌には星の刺青がくっきりと浮かび上がっている。
「まさかここまでたどり着くとは、こちらとしては思いもいませんでしたね」
「その服装は何ですか」
「月にはウサギが住むんだよ、ぴょんぴょん!」
「ふざけないでください!」
柱を変形させジークルーンたちは下の階に降りたった。
周囲を見渡せば人気のない建物の並ぶ街。
しかし、100年前の富裕層が住んでいた絢爛豪華な建物ではなく質素な建物たち。
四角いマンションのような建物がいくつも並ぶ団地のようなつくりになっていた。
「自分たちはまじめです」
「こちらは狂っておりますので、クルクルリと」
両手で頭についたカチューシャの長い耳をぴょこぴょこと動かす彼女をジークルーンはにらみつけ前に出る。
「多くの人間を鬼として殺し、またアルケミストたちの心を追い詰めさせた。なぜこのようなことを!」
「ぴょん!」
ナノマシンを操ると木槌を模した大きなハンマーと作り出し片腕で握ると、それを振り回し先端をジークルーンへと向けた。
「アトランティカ!」
「はぁ……、戦争が終わり我々は美しき星に帰ろうと、月に背を向けた。その時見えたんだ、戦争で人口が減ったことで人類による急速な自然破壊が止まった。戦場が宇宙であったこともあって地上が燃えることもなく、攻撃は人口密集地や工場区画に集まった。そしてその間に濁っていた海の透明度が戻り、汚れた空気が澄んでいき、壊れていた生態系が回復していった。我々が戦争していた数年間でだ。我々がいないだけで星は元に戻って美しさを取り戻していくことを知った」
「あなたは自然を守るために?」
「そう、美しき星から人間を殲滅し月で我々はひっそりと暮らす! これが我々の答えだよ。ぴょん!」
「人と自然は共存して行けます。破壊するだけじゃないはずです」
「人は過ちを繰り返す、戦争が終わり復興が始まればまた多くの木を切り、数多のゴミが海へと流れ出る。他の国に後れを取らないよう急いで復興しようとすればなおさらだ。ただでさえ戦争で痛めつけられた生態系だ、せっかく美しさを取り戻しつつあった星をまた汚すことは許されない」
「なら100年、自分が目を覚ますまでどうして滅ぼさなかったのですか? 人を信じていたからではないんですか?」
「あんたもそれを言うんだね。話し合いは無意味な平行線をたどるだけ。さぁ、殺し合おう」
「アルケミスト同士は戦えません」
「その命令はナノマシンによって制御され自然とロックされるからだよ、情報を書き換えればその制約は消えてなくなる。……私たちがナノマシンを操っているのか我々がナノマシンに操られているのか、どうなんだろうねジークルーンアインホルン」
「戦いたくはありません、自分たちは戦いを終わらせるために生まれたんです。なのに自分たち同士が戦ったら……」
「そうだね、悲しいよね。でも邪魔だから殺すね?」
ふざけるアトランティカにしびれを切らしレイショウが前に出て鉈を構えた。
説得をしようとするジークルーンの前に出るレイショウはバニー姿のアルケミストに鉈を向け、彼にジークルーンが力を貸し鉈を持つ腕がナノマシンに包まれ白銀の籠手に変わる。
「自分の力を貸します、その間自分は何もできません」
「ああ、俺が守るから下がっていてくれ。昔の仲間を、殺すことになる。俺より強い、手加減はできない。いいよな」
「……反逆は重罪です。敵対するのであれば……」
アトランティカもハンマーを大きく振り上げ攻撃に備える。
「あら、逞しい感じの男。戦闘が終わったらあなたを食んじゃうぞ」
「月の人間は人を食うのか」
駆けだしたレイショウはアトランティカに向かって鉈を振り回す。
身体強化で加速し全力の一閃。
バニーガールは身体能力を強化した脚力で大きく飛びのきレイショウから離れる。
「戦わないのか?」
「ウサギは臆病でね、ピョピョン」
大きなハンマーを力任せにでたらめに振り回しているように見え、長く伸びた柄でレイショウの攻撃をいなし彼のバランスを崩させその背中にハンマーを下ろす。
ジュンセイがレイショウの腕に鎖を巻き付け引き寄せたことで、振り下ろされた一撃は思い切り床をたたく。
「思ったよりすばしっこいな」
ユウセイが前に出て地面から棘を生やす。
アルケミストの力をレイショウに渡したジークルーンはハジメを連れ後ろに下がり、代わりにスイセイとジュンセイが前に出る。
「このあたりのナノマシンの制御を奪った。悪いけどあんたは早めに倒すよ」
「怖いなぁ、巣穴に逃げ帰りたくなるような。あったかい布団で寝ていたい」
レイショウの体をかすめる弾丸。
彼女のハンマーを持たない手に握られているのは小さな銀色の球体。
ナノマシンで強化された力ではじいて飛ばす指弾。
「ぴょんぴょん!」
声とともにアンジェリカは手に握った球体を一発づつはじく。
銃弾ほどの脅威はないものの目に当たれば致命傷、それでなくても痛みで動きが止まる。
ナノマシンで作られた建物を槌で削るように崩し作り替え飛び散った破片を弾丸にして飛ばす。




