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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
2章 --天翔艦クラールブルーメ--
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放たれる弓 5

 指令室はモニターが至る所に置かれ、座席は二つの通路の側面に配置されている細長い部屋。

 二つの入口の間に教壇のように一段高くなった場所にある座席を見てジークルーンは他のアルケミストたちへと振り返る。


「艦長席には誰が座ります?」

「ジークルーンの船だからあんたが座るしかないんじゃない?」


 一緒について来ていたスイセイがジークルーンたちの横をすり抜け指令室の奥へと進んでいき天翔艦の指令室を懐かしそうに見回す。


「でも自分は計器や船体の様子をモニタリングしていないと、もしもユウセイの言う通りだとして攻撃を受けた場合に、破損時に修復が出来ません」

「ここに何人のアルケミストがいると思っているんだ? 私たちがやるよ、あんたは座って指示を出しなさい」


 ジュンセイがため息をつき自分の胸に手を置き、一緒にいるユウセイとスイセイを振り返った。


「自分が指示をですか……。ですが自分は立場的にも階級的にも指示を出せる立場じゃありません。空に上がり戦いなれたチュウジョウや、ユウセイあなたなんかが……」

「あんたの船で、ここにはアルケミストしかいない。わかった? それにあんた以外の誰かが指示を出すとなると他人には任せられないから、だったら私が、いや私がときりがなくなるだろうに。私は人望ないのだぞ」


 しぶしぶ了承し居心地が悪そうにジークルーンは艦長席に腰掛ける。

 少し大きめに作られている座席に座ったジークルーンは、背もたれに寄り掛かることもなく姿勢を正した。


「なんか、やっぱり居心地が悪いですね。この場所は」

「サイズが合わないなら作り直すだけ」


「いえそういうことではなく……」

「私らは命令されるがままこの船を、手足のように操り破損個所を修理するだけだったからね。負担を下げてもらうために火器や計器は乗員に任せていたけど、今回は私らが操作するブランクがあるけどすぐに勘を取り戻すはずさ。指揮を執り指示を出すなんて、想定されていない」


「うまく指揮が取れなかったら、どうしましょう」

「戦中と変わらないよ失敗したら人が死ぬ。向こうはおそらく容赦はしてこない。後悔の無い選択を、ジークルーン」


「皆の命を預かる……」

「そういうもんさ。私らは100年もたって久しいが、目覚めたばかりのジークルーンにはまだしっかり他人の命を重んじるように胸に刻まれてるだろ? さて明日に向けて早いが休むとするかね。私たちも部屋は好きな場所を借りていいんだろう?」


「はい、ユウセイ、ジュンセイ、スイセイ、みな明日はお願いします。休んでください」


 少し計器の確認テストをしてからユウセイとジュンセイは指令室から出て行き、後にはジークルーンとスイセイが残る。

 指令室全てを見渡せる艦長席に慣れようと座り続けるジークルーンは天翔艦の周囲を確認する船外カメラの映像を切り替えるスイセイに話しかけた。


「スイセイ、明日は空に上がる手伝いをお願いします」

「もちろん。あなたと同じで私も知りたい。守るために殺してきたというのに最終的には皆殺された。誰も助けられなかった、どうして彼らは死ななければならなかったのかを」


 地下では時間の経過がわかりづらく一人指令室で過ごすジークルーンのもとへレイショウがやってくる。

 彼に気が付き席を立ち出迎えた。


「レイショウさんですか、どうしました?」

「食事の時間だから呼んでくるように言われた。ジークルーンはここにいるって」


「そうですか、では食堂に行きましょう」

「大丈夫か顔色が悪いように見える。部屋に戻って休むかジークルーン? 部屋まで食事を運ぶぞ?」


「そうですか? 特に自分は体調の不調を感じませんが? 大丈夫です、明日のことを考え少し不安を感じていただけ。食堂に行きましょう」

「そうか?」


 心配するレイショウを置いて指令室を後にするジークルーンは一人部屋を出たところで立ち止まって振り返り、歩いて追いかけてくるレイショウに頭を下げて謝る。


「すみません、明日のことを考えて緊張していたみたいです」

「いつもと様子が違ったから心配した」


「自分とクラールブルーメの元となった、キルシュブリューメは空は飛んだことはあっても宇宙に出たことはないんです。レイショウさん少し手を貸してください」

「手? 俺に何かできることがあるか?」


 背後を振り返り誰もいないか確認しジークルーンは歩み寄りレイショウの手を握り彼に胸に額を当てた。

 突然のことでレイショウは驚くが黙って握られた手を握り返す。


「自分は今まで、この世界がこうなった成り立ちが知りたくて行動してきました。チュウジョウに会い、スイセイに会い、ユウセイに、その間にも生き残った人や鬼を多く見てきました……今になって恐ろしく感じてきたんです」


 少し震えた細い声。


「今の世界を作ったのが自分と同じアルケミストだということ、こんな世界になるように指示したのも、その指示を受け入れたのもアルケミスト。自分は彼女たちと話し合って自分の考えがぶれてしまうのではないかと、もしかしたら自分も彼女たちの話に納得し今の世界を受け入れてしまうのではないのかと」


 ジークルーンは小さな声で笑う。


「ははは……、それも空に上がれたらの話ですね……。ユウセイやジュンセイに言われた迎撃、かつての味方から攻撃を受ける。ないと思っていたかったんです……けど実際、工場、農場、町に意図的な攻撃を受けていた」


 そこからジークルーンはレイショウに顔を伏したままの状態で少しの間黙り込む。


「……本当なら、同じアルケミストであるジュンセイ辺りに相談しなければならないんですが……。すみません、皆空に上がる覚悟を決めているので決意を濁さないようこんな弱音を話せるのがレイショウさんしかいませんでした」

「俺でよかったら話を聞くよ、それしかできないけどな」


「ありがとうございます、目覚めてからしばらくの間混乱していたんです。今でもこれが夢だったらと……いいえやめましょう」

「話なら聞くって」


 レイショウから手を放すとジークルーンは胸当ての金属を外し背伸びをしてレイショウの肩に両腕を回す。

 ひんやりと冷たい腕と少し震える指先。


「こういうことをしたことは無いのですが、知識としてはあります。親密な相手とするのが普通なのですよね。ですが今話もう少しこのまま、いいですか?」

「ああ、俺は構わない」


「少し恥ずかしいですが、落ち着きますね」


 抱き着かれ固まっていたがレイショウもジークルーンを抱きしめ返した。

 少し驚くがジークルーンは安堵の息を漏らす。


「俺はジークルーンが好きだ、初めて出会ったときから今もずっと見惚れている」

「自分はその感情がわかりません、ジュンセイに聞いてみます。ですが、出会った当初に感じた嫌悪感はありません。巻き込んでしまって申し訳なさはありますが、ここにいてくれてよかったという気持ちもあります」


 その後、食堂に来るのが遅いので新たにジュンセイが迎えに来るまで二人はその場にいた。

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