誰もいない故郷 1
4人分の座席しか用意せずレイショウはハジメを膝に乗せシートベルトをつけ、座席を倒しくつろぐユウセイの隣で外の景色を見ながら言う。
「天井に頭当たって首曲げないと入れない、座席倒せないし。荷物があるからって、だからって狭すぎるだろ」
「私は体が細いから隙間に余裕がある、代わりに抱きしめていてあげようか?」
「お前にハジメは渡さない」
移動中に鬼と遭遇することはなくトラックは廃墟を順調に走っていく。
来た道には大きな土煙、向かう先にも大きな土煙が上がる。
「鬼がいないな、みんな吹き飛んだのか?」
「このあたりにはいないよ、人が住んでいない場所に鬼を置いてどうする。このあたりにいたのは使用期限の過ぎたとろい奴、工場の周りだけさ。それに攻撃が始まる前に動く奴はできるだけ遠くへ移動させた、ただでさえ今は鬼が少なくなってきているから数はあんまり減らしたくないもんでね」
「こいつ」
後部座席に座るレイショウが立ち上がろうとし助手席のジークルーンが声を張る。
「レイショウさん、大人しくしていてください! ユウセイには自分がよく言っておきますので」
「私は皆の決定に従い行動しているだけなんだけどねぇ」
トラックはあっという間に何日もかけてレイショウたちが歩いてきた道を戻っていく。
空から落ちてくる船の残骸を警戒して人々は村にこもり廃墟の町は誰も歩いていない。
「このあたりの道は見覚えがあるな」
「農園から歩いてくるときに来た道ですね。もうここまで来たなら遠目に城塞都市が見えてくる距離か。……チュウジョウは無事だろうか」
「正面に見える土煙の量で分かるだろう、うちと同じだよやはりここにも船は落ちたみたいだ。防げなかったようだね」
城塞基地に近づくにつれ工場と同じように爆風で倒れ建物が見えてくる。
更に少し進めば、城塞都市の周辺は工場と同じ町を中心に付近の建物が吹き飛んだあとの瓦礫の山。
その中心には解けたアイスのような金属の解けた後の巨大な塊。
「人を地下に送る余裕はなさそうだね。撃ち落とす気だったようだ、途中まではうまくいっていたみたいだけど。複数の天翔艦で作った町だけあってナノマシンと電力には余裕があったみたいだな」
ユウセイが窓の外を見ると防衛のための砲撃で落着地点が変わった船の残骸が数隻分、無数の金属片が広範囲にわたって散らばっていた。
老朽化で脆くなった建造物は軒並み倒れ散らばる残骸からは黒い煙を上げている。
「チュウジョウ……」
「どうしようジークルーン、寄っていく?」
「ジュンセイに任せます。すぐに空に上がりたい気持ちはありますが、ユウセイからいただける燃料の搬入路が出来ておらず今は急いでいないので……」
「わかった。じゃあ少しだけ寄らせてもらうよ」
赤錆色の外壁の上にあった砲台も姿を消し、町並みもチュウジョウの住んでいた城の形もない。
トラックが進路を変え城塞都市近づいていくと都市があった場所に集まる人影を見つける。
「人影が見えるね」
「鬼でしょうか?」
遠目でその姿がはっきり見えていないため、ジークルーンは後ろに座るユウセイの方を見て確認を取るとユウセイは肩をすくめた。
「知らないよ、コントロールする大型のアンテナは吹き飛んでしまったし完全に今はスタンドアローン状態さ。近づけば数百メートル程度なら操れるアンテナを積んできたナノマシンで作り出せるが、呼んでみるか?」
「別にいいです、そんなことより鬼となった死者を開放してください。彷徨う彼らがかわいそうだとは思わないんですか?」
「死体をナノマシンで無理やり生かしているから、疫病とかは生まれないんだぞ。活動停止後は鬼を自然分解するようになっているし」
「鬼自体が広がって殺す疫病みたいなものじゃないですか」
近づくにつれ集まっている人々の詳細が見えてくる。
ぼろ布の継ぎ接ぎや大きなリュックを背負った人影のそばには何台もの車両が止まっていた。
見える人々に額に角はなく、手足に鎌のような爪もない。
「よかった、人ですね。でも、集まっているのは残骸拾いってわけでもなさそうですね」
「生活用品や食糧などを売っている貿易の要だったから。ここを失うと多くの村が飢えるかもしれない。それを心配して集まってきたのかも」
ジュンセイは城塞都市に近づくに従って増えてきた月の船の残骸の破片をよけて走る。
散らばる破片は無数のクレーターを作りトラックは左右に揺れた。
「ですね。ではあれは近隣も村の住人達? 一晩たちチュウジョウの町の様子を見に来たんでしょうね」
「彼らはきっとあれが人為的に落とされたものだと知ることはないだろう。ただの災害の一つだと思っている、今空から船を落とされたらシャレにならない被害が出そうだ」
「そうなったら、彼らを守ることはできませんよね」
「できると思う? こっちには天翔艦はない、自由にできるナノマシンも微々たるもの」
ジークルーンが身を乗り出しナノマシンでできた服の一部を双眼鏡に変化させ進行方向を覗く。
運転席の後ろの座席で席を倒して座るユウセイも身を起こし、気怠そうな目で城塞都市の方を見る。
「結構いるね、まだこの世界にはこんなに人が住んでいたのか。……どこかに鬼はいないだろうか。あれだけの密集地なら一つパニックさえ引き起こせれば簡単にまとめて感染させられ……」
隣に座るレイショウが腕を伸ばしユウセイは攻撃から身を守ると、彼女は楽しげに笑った。




