果ての工場 4
普段はへらへらしており怒った姿をあまり見ないハジメは、激高するレイショウに驚き掴んでいた手を放して後ろに下がる。
「敵は鬼、人はその脅威から皆を守るために一機団結する。すてきだろ?」
「なにが! あんたたちのせいでミカドが、村のみんなが死んだんだ!」
「ああ、満月からそう日は立っていないし、若い貴重な労働力をふらふらさせておくはずもないともおもっていたが、今の話を聞いたところたぶん君らは村を鬼に滅ぼされたんだろう」
「ああ、あんたが作った鬼に殺されたよ!」
レイショウと話すユウセイのほかに通路の奥からタブレットをわきに抱えたもう一人の彼女が現れたが、話すのに夢中になるレイショウと驚き怯えているハジメは気が付かない。
視線を天井に向けレイショウと話すユウセイは続ける。
「鬼だけじゃないな、場所がどこだか知らないけど君の村を滅ぼしたのはたぶん私だ。外に、さっきまであった電波塔で指示を出していた」
特に興味もなさそうに話す気怠そうな目をした彼女に耐えられなくなったレイショウは飛び掛かった。
「お前のせいか! お前が、みんなを! このっ!」
掴みかかろうとするが彼女は伸ばされた腕を見てから躱し、その拳を振り払ってレイショウを押し返す。
「体に入っていたナノマシンは突き飛ばしたときに制御を奪わせてもらったよ。ジュンセイの物だったね、人からアルケミストの反応があったから驚いたね。これで身体能力の高いアルケミストたちに着いてきたのかな。さぁ借り物の力を失って、人が私たち兵器に勝てるかな」
「クソッ」
「ほら、暴力は良くないよ。彼女もそれを望んでいない」
「なに?」
振り返れば初めは後ろからやってきたユウセイに抱きしめられるように捕まり、首元には銀色の刃物のようなものが付きつけられている。
レイショウが動きを止めるとニヤ付きながら背の高いユウセイは背伸びすることなく彼に腕を伸ばし肩を組む。
「妹かな? それとも、君と同じ村の生き残り? まさか彼女ではないだろうけどなんであれ、これ以上知り合いを減らしたくはないよね?」
一度は冷静さを取り戻したが反射的に拳を握って、肩を組み油断している彼女の顔を殴った。
驚きでユウセイはレイショウから離れよろめき、足をもつれさせてしりもちをつく。
「おおぅ……、何とまぁ感情にというか心に正直な……。もう少し理性を働かせると思ったんだが……今の時代は動物的な感情が必要ってことか」
殴られた自分の鼻から流れる血を見て仰天する殴られたユウセイと、ハジメを取りおさえている方のユウセイ。
彼女は驚きのあまりハジメとともに固まっていて、形だけそれっぽくしていたナイフが力なくふにゃりと曲がる。
殴ってからレイショウも自分のしてしまったことに驚き戸惑うも、ハジメの保護をしなければとすぐにもう一人の優勢にも殴りかかろうとするが彼女はハジメを掲げながら後ろに下がっていく。
「女性の顔を、まぁためらいもなく……痛いじゃないか」
「100年で女性を大切にする気持ちは失われてしまったんじゃないか?」
「ナノマシンでもう血は止まった、残るは鈍痛だけだ」
「少しふざけすぎたか」
血を確認し鼻を押さえて立ち上がるユウセイの言葉に、ハジメを抱えるユウセイが答える。
「さっきジュンセイのナノマシンの制御を奪ったといったね。もちろんそこの小さな女の子の体内にも入っていたやつも同様だ。ジークルーンたちと行動しているのならもしかしたら知っているのかもしれないが、鬼は我々のナノマシンからできている……」
ハジメのおでこを撫でながらユウセイは少し勿体ぶってから続ける。
額の皮膚の下に小さなコブのようなものが二つ。
「わかるな? 君が力尽くで私からこの子を奪え返しても、どうにかなることじゃない」
頭に血が上っていたレイショウはハジメの額にでき始めたコブを見て顔を青ざめさせ、そこで再び優位に立ったユウセイは少し距離を取ってからレイショウに尋ねた。
「君は100年前の終わった戦争が、一体何で始まったか知っているか?」
飄々としているユウセイの問いにレイショウは答えられず奥歯を噛み締め首を振る。
「お嬢ちゃんは?」
抱きかかえられるハジメはすぐにわかりませんと答えた。
二人の返事を聞いてユウセイはがっくりと肩を落とす。
「残念だ……いや、悪い過去は闇に葬るのは世の常か。確か、城塞都市でもエデンガーデンでもその辺は教えていないんだっけか。それにしてもだ、君らの親らは語り継いだりしないんだな」
「親も死んだよ、鬼に殺された」
挑発するようなユウセイの声に今度はグッとこらえるが、噛みつくような視線で彼女を睨みつける。
「そんな目で見ないでくれ、今までなかった変な性癖に目覚めそうだ。冗談はさておき、おしゃべりもすんだ、そろそろ合流しよう」
鼻を押さえたユウセイが通路の壁指をさすと、通路に新たな扉ができジュンセイとジークルーンが飛び出てきた。
二人はすぐにユウセイを睨みつけるレイショウの様子と、捕まっているハジメを見て咄嗟に刃物ではなく鉄の棒を作り出して構え声を上げる。
「ハジメさん!」
「ユウセイ、冗談にも限度があるよ」
「ジュンセイ、それ、あなたが言いますか?」
「うっさい。敵は向こう、あっちを見ろジークルーン」
二人の話を聞いてユウセイは肩をすくませ大きく息を吐く。
「敵って、ひどいな。私はまだ誰も傷つけていないし、むしろ私は傷つけらえた側だ」
鼻血押さえていた手を見せそう訴えかけるが、レイショウのただならぬ様子にユウセイの味方をする者はいない。
「何があったんですレイショウさん」
「こいつが鬼を俺たちの村に……それだけじゃない、大鬼とかの鬼を作ったのもこいつだ」
「鬼は月が操っているのではないのですか?」
ジークルーンは隣にいるジュンセイに尋ねるが彼女も首をかしげる。
「私もチュウジョウからそう聞いてるけど違うの?」
二人のユウセイはハジメの頭を撫でまわしながら答えた。
ひとまずすぐには命の危険がなさそうなのを感じ取り、ひとまずハジメはユウセイたちにされるがままになる。
「もちろん鬼は月からの指示で動いている。しかし月からだと操作がおおざっぱでね、それに星全体の鬼を月だけで動かすのはさすがに無理がある。各国で戦争末期に作られた我々のような弩級天翔戦艦を含めたごく一部の後期生産のアルケミストはいろいろ作れるから、今さっき吹っ飛んだ電波塔で月をサポートしていたんだよ」
レイショウの視線などお構いなしに得意げに話すユウセイにジュンセイが尋ねた。
「電波で操れるなら私たちでも操れたはずなんじゃ……それこそチュウジョウが鬼を寄せ付けないためここにあったのと同じ電波塔を作っているはず」
「本当に私たちは上からの情報をすぐ鵜呑みにしてしまうんだね。まぁ、兵器が持ち主の言葉にいちいち疑問を持っていたら使い物にならないか」
血を流した方のユウセイはため息をつき始めから離れジークルーンたちを閉じ込めていた部屋に入っていく。
「あの電波塔は月と更新するための物って嘘ついていたからね。それに復興用にいろいろな設計図を頭に入れられた私らと違って、あなたたちやチュウジョウだって中期生産型のアルケミストだろう? 天翔艦に使われていた技術以外の機械にそこまで詳しいわけじゃない、これはレーダーや無線とは違う、設計図でも見ない限り模倣はできないよ」




