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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
2章 --天翔艦クラールブルーメ--
55/102

果ての工場 1

 

 土煙が次第に晴れてきて鉄条網と建物群のさらに奥に電波塔がぼんやりと見える。


「まだあんなに遠いのか」


 怖がるハジメを抱きかかえてレイショウはジークルーンたちに問いかけた。


「でもここからは工場なんですよね?」

「そのはず、この鉄条網にナノマシンの反応があるからこの先は間違いなく工場」


「これを飛び越えて入りますか?」

「私が穴を開けて入るよ」


 そういって前に出たジュンセイが鉄条網に手を触れようと手を伸ばすが、鉄条網は彼女が触れる前に消えてなくなる。

 それと同時に建物の一部外壁なども消えジークルーンたちは顔を見合わせた。


「え、開いた。まだ、私は何もしていないよ」

「そうみたいですね。向こうが呼んでいるのでしょうか?」


「でしたら、鬼と戦う前に呼んでくれればいいのに。ったく。そうすれば、鬼と戦ったり逃げたりしなくて済んだ」

「何か理由があるのでしょう、それを聞かないと。ああ、あとあの落下してきた月の巡洋艦についても何か知っているのかもしれません」


 案内などもなく警戒しながら立ち並ぶ工場とみられる大きな建物の間を歩き出す。

 工場にも土煙は流れ込んできており、土煙が晴れて来たといってもいまだに空は黄褐色。

 それでも、数十メートル先まで見渡せるようにはなり、ハジメを抱えたレイショウたちは壁伝いに影だけが浮かび上がる電波塔を目指す。


「誰もいませんね?」

「そりゃ人の受け入れを拒否している場所だからね。来た時の鬼の壁を見なかったの? 前に来た時も人はいなかったし、中にいる人が外に出ないようにするための物じゃないでしょ」


「ここに並ぶ建物は自動工場なんですか?」

「そうだよ、城塞都市の電気自動車とか発電機とかは皆ここで作ってもらってる……んだったかな」


「あやふやですね」

「興味がないんだって、そういうの。つーか、髪の毛嫌だなぁ、話が付いたらシャワーを借りたい」


「そうですか? 顔にかかって鬱陶しいなら、結ってまとめてしまえばいいのに」

「そうじゃないよ、身だしなみの話」


 二人が会話しながら歩いていると目の前に広場が見え、そこに蠢く何かが見える。

 動く影を見てジークルーンが足をとめ振り返った。


「待ってください、何か居ます」

「大きい影だ、さっきの鬼の集合体か? だとしたら引き返した方がいいか?」


 抱えたハジメを心配しながらレイショウが尋ねると、話を聞いていたジュンセイが首を振る。


「あれはナノマシンだ。何かを作る気だ」


 大きな影は縦に延びて行き建物の形を作り上げていく。


「何を作っているんでしょうか、監視塔?」

「……いいや、この土台の頑丈なつくりは要塞砲」


「要塞砲?」

「城塞都市の周りにもあったでしょう、いくつか」


「そうですね、ありました。あれは天翔艦の旋回主砲ですよね、あれは硬い装甲を貫くための物であって鬼のために作ったものではないですよね? 何のために作ってあったのですか?」

「あれを見た後でそれを聞くの」


 ジュンセイの声に反応したかのように、滞留していた空気が流れる強い風が吹き黄色くよどんだ視界が晴れていく。

 戻ってきた青空には天高く浮かぶのは黒い雲の尾を引く巨大な炎の塊。


「また空から船ですか!」

「またあの揺れと土煙が来るのか!?」

「たぶん落着地点はここかもね」


 ふと視線を落とせば土煙の中で蠢いていた影は柱のような建物に姿を変えていた。

 その建物の上には角ばった砲塔の大砲が乗っている。


「何だあれ?」

「耳を塞いだ方がいい、後はぐれないようにしっかり守ってあげな」


 建物の上に乗った砲塔が動きだし砲身が空を向く。

 ジュンセイに言われレイショウはハジメを降ろし耳を塞がせ、自分も耳を塞ぐと彼女の小さな体に覆いかぶさり背負った荷物で左右を固め地面を這うように姿勢を低くする。


「これでいいのか、どうなるんだ!?」


 そうしている間に落下物は周囲に小さな爆発を頻繁に起こしながら黒雲を残して工場の遠く高い上を通り過ぎていった。

 空気を切り裂き激しい振動を伴う轟音と剥がれ落ちた大小さまざまな装甲が周囲に降り注ぐ。

 周囲の建物がすべてナノマシンでできていると知っているアルケミストたちは、まき散らされた破片に当たらない角度を探し建物を盾にする。


「ここじゃない?」

「たぶん城塞都市の方へと落ちたか。チュウジョウなら撃ち落とすだろうけど、今度は衝撃波が来るかな」


 アルケミスト二人は空を見上げたまま通り過ぎていった火の玉を見届けた。

 音が通り過ぎて行きレイショウが顔を上げ周囲を見回す。


「落ちなかったのか?」

「通り過ぎていきました、ここではなかったようです」


 レイショウとハジメは立ち上がり空に残った黒雲を見上げる。


「今日はいったい何なんだ、今まで生きてきてあんなもの見たことなかったぞ」

「見てたら死んでるよ普通、戦争中は大破した月の船が道連れと星にたくさん落とした。今でも残るクレーター跡はみんなそれの後だよ」


「防げないのか?」

「地上にアルケミストがいれば、そこに見えるあれみたいに迎撃するための要塞砲を作るんだけど、どこに落ちるかもわからないから戦略上の重要点しか守られてなかったね。散らばる破片から守るために成長の速く燃えにくい巨大樹木で街を覆うって案もあったか」


「俺も村から少し行ったところに廃墟の建物より高く伸びて町を覆っていた木が合ったか」

「ああ、それだよ。えーっと、民間シェルターとアルケミストの調整機関を守るために植えられたんだっけかな」


「俺とジークルーンもその近くで出会ったな、あの木にはそんな意味があったのか。確かに薪にしようと少し切って持ち帰ったけど白い煙だすごくてなかなか燃えなかったな」

「せめて乾燥させなよ、それでもあの木なら煙は出るだろうけど」


 そう話していた矢先、砲塔が砲撃を始めた。

 腹の奥まで響く音にハジメがビクンと驚きレイショウに飛びつく。

 数秒間隔で次の弾が発射され砲台は目の前の物以外にもあるようで工場の壁を反響し複数聞こえ空に打ちあがる砲弾も一度に複数見えた。

 放たれた砲弾は空へと飛んでいく。


「何!」

「今度は、もう隕石は飛んでいっただろ!?」


 放たれた砲弾の飛んでいく先、空の果てに光点。

 もう一つ落ちてくる月の船。


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