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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
2章 --天翔艦クラールブルーメ--
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世界を知る為の道 5

 

 大鬼と向かい合ってレイショウは鉈を構える。


「くそ、近くにいるはずのジークルーンを探さないといけないのに」


 近くでは時間差で崩れ始めた建物がさらなる土煙を巻き上げて大鬼とレイショウを覆った。

 建物が崩れ飛んでくる大小さまざま瓦礫からレイショウを守り、土煙の中から現れたジュンセイは尋ねる。


「あんた妹の心配はしないの?」

「ジークルーンもいるし、ハジメはしっかりしてるから怪我さえしていなければ大丈夫だ」


 土埃で白い肌も髪も茶色く汚れジュンセイは土で軋む髪の毛に苛立ちながらも話を続けた。

 土煙の奥ではまだどこかの建物が崩れる音が響く。


「その怪我の心配は?」

「ジークルーンがきっと守ってくれている。ジュンセイさんが今俺を守ってくれたように」


 大鬼が突撃してくることを警戒するレイショウの手をジュンセイが引いてその場から離れるために走り出す。


「今のうちに離れる。大鬼が多すぎる、土煙で正確な数がわからないけどナノマシンの反応のだけで500メートル圏内に60体くらいはいる、そんな数を戦ってられない。それに……」

「でもジークルーンが、ここのどこかに」


「言ったでしょ、ナノマシンの反応で確認できると。ジークルーンの場所もわかってる」

「なら早く合流しよう」


 レイショウの提案にジュンセイは首を振ってこたえた。


「無理、見えないだろうけど大鬼の壁に阻まれてる。建物も大体崩れたし残りも崩れてくるかもしれない状態で鎖伸ばしてあんたを抱えて移動なんてできない。でも向こうは移動していってるから行き先に先回りして合流しよう」

「そんなことができるのか」


「この土煙の中で真っすぐ工場へ、電波塔の方に進んでるよ」

「よし、行こう。……それでどっちだ?」


 風もなく滞留する土煙。

 足元を見ることすらままならない茶色い視界の中を二人は走り始める。


「あんなたくさんいた鬼はすべて瓦礫の下敷きになったのか?」

「ああ、ナノマシンがなかったら私らも今頃ぺちゃんこだったわけだけど……」


 細かい瓦礫に足を取られながらも身軽に先導するジュンセイの後をついていき、何も見えないながらも近くに大鬼の気配を感じレイショウは辺りを見回す。


「どうかしたのか?」

「がれきの下、潰れたはずの鬼のナノマシンがまだ活動を続けている」


「でもほとんどの鬼は死んだんだろ?」

「何だろう、こんな反応は知らないな」


 大小さまざまな瓦礫。

 比較的形の残った建物の外壁だった場所を走っていると、突如足場にしていた瓦礫が盛り上がり二人は前触れなく傾斜した地面を滑る。

 動き出した建物の方を振り返るとそこには無数の顔があった。


「いぃ!?」


 それを見て歪な悲鳴を上げるレイショウ。

 いくつもの潰れた鬼の顔や体が体内に含まれていたナノマシンによって縫い合わされ、大きな一つのそれを作り出していた。


「何だよこれ!? これもナノマシンの力なのかよ!?」


 肉塊、人の形を保っていないそれはそれ以外に呼び名の無いもの。

 ナノマシンとつながり損傷が軽微で機能する部位がそれぞれ個別に動く。

 瓦礫をかき分け地面の下から出てきた怪物は無数の足で歩き始める。


「何だよこれ!」

「鬼だよ、一本角の異常発達した筋肉見た時点で何でもありだよ。何でもありだからって、死者をここまでするかぁ!?」


「こいつは倒せるのか?」

「頭を一つ二つ潰しても意味はなさそうだし肉塊の内側にも無事な頭あるだろうから、そこで行動指示を出しているなら見える部分をつぶしてもダメかもね」


「どうするんだよ!」

「逃げる、それしかないでしょ」


 ぎこちなく足な長さも向きもバラバラなそれは、次第に多脚の虫のように足並みをそろえて始め巨体を揺らしレイショウへと向かって歩き出す。


「こっちに来る!?」

「ぼさっと見てるな! あれは私の手に負えない、倒せない。倒せないぞ!」


 大きな体の動きは遅くレイショウたちは走って容易に逃げられ、それはすぐに土煙の中へと消える。

 しかし前もまともに見えない土煙の中を走る、瓦礫が動く重たい音があちこちから聞こえてきていてジュンセイは舌打ちをした。


「あれだけの数がいたんだ、あのゲテモノはあれ一匹じゃ終わらないか」


 ビルが折りお互いに重なるように倒れていて、お互いに不安定に支え合う建物の間を通り抜けようとする。

 進路に大鬼が二匹立っていてジュンセイたちを見て姿勢を低くし腕を広げて走りだす。


「そういえばこんなのもいたな!」


 鎖を伸ばし向かってくる大鬼のお互いの足をもつれさせ転倒させ、ジュンセイが鎌を倒れた大鬼の脳天に突き立てレイショウがナノマシンで強化された力で鉈を首に振り下ろした。

 大鬼を倒し二人はまた走り出す。


「力任せで振ってるからもう鉈の刃がボロボロだ、もう折れるな……」

「貸して、私のナノマシンで欠けた刃を修復させる」


「そんなことできるのか」

「あんたは今まで何を見て来たのさ。それとも考えるのをやめた?」


 鉈を受け取りジュンセイは刃の先を指でつまんでひと撫でするとレイショウへと返す。


「終わったよ」

「今ので?」


 支え合う建物の間を通り抜けると、そこには鉄条網に囲まれた施設の入口の前に出た。


「この向こうは崩れてない建物が見えるな?」

「ふぅ……到着した」


「ここが工場? ジークルーンは?」

「もう来る」


 ジュンセイが指さすと土煙の奥から同じく土埃で茶色の汚れたジークルーンがハジメを背負って現れた。

 先に到着していた二人を見て気を張っていたジークルーンは表情を和らげる。


「無事だったんですね、よかった! 見失って呼んだんですけど返事はなくて、ここへ向かおうと」

「うん、こっちもその動きでここに真っすぐ迎えたよ。ところで、あれ見た?」


 アルケミスト二人は来た道を振り返り大きくため息をつく。


「ええ、潰れて一つにまとまった鬼ですね見ました。あんなものもいるんですね」

「100年で初めて見たよあんなもの」


 振り堕ちないようナノマシンを変形させたハーネスで固定されていたハジメがジークルーンの背中から降りレイショウのもとへと駆け寄った。


「怖かった、人が鬼が……ぐちゃぐちゃで、こっち見てて……うねうねで……」

「ああ、もう大丈夫だ。怖くない、ハジメは強い子だなぁ」


 トラウマ物の怪物を見て心が耐えられなかったハジメがレイショウの腕の中で泣き始める。


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