救いなき世界 6 終
レイショウは横に転がり起き上がろうと長い爪を振り回して藻掻くミカドから離れる。
片腕を失いバランスを崩しながらミカドから慎重に距離を取りレイショウは自分の怪我の具合を見た。
「腕の怪我が」
「止血した。まだ、腕はくっつくよ。動かすにはリハビリが必要だけど」
人ならざる力によって恐怖と戦う戦う力を借り、大怪我しても生かされている。
同じものでありながら正反対の力を示すナノマシンの力。
気が付けばまたどこからか鬼がやってきておりジュンセイが近くにいる鬼の方を向いて武器を構えた。
「ミカドを楽にする。鬼にしておくのは可哀そうだから、早く解放してやりたい」
「そうして、私がやろうか」
「ハジメの方に行ったときや俺がしくじった時はお願いします。できればずっと一緒にいた俺が楽にしてやりたい」
「わかった」
そういうとレイショウは切り落とされた腕のそばに落ちている鉈の方へと走りだす。
ジュンセイはハジメに迫る鬼を排除しに動き出す。
レイショウの動きに反応してミカドが両手の鎌を広げ後を追う。
身体強化してもスタミナに限界のあるレイショウの後ろに、その枠組みから離れたミカドが迫る。
「とどけぇぇぇぇ!」
腕と一緒に落とした鉈へと飛びつき転がりながらも左手で拾い上げると、ミカドに向き直り鉈を振り上げ今度こそとどめを刺す。
月明かりに照らされ青白い一閃が大きく抉れた鬼の首に吸い込まれていく。
ジュンセイは鎖鎌を構えしくじったときに備えていたが、とどめを刺したのを見届け武器を降ろした。
「今まで、ありがとな……みかど」
首を落とされた鬼とそのショックからレイショウがその場に崩れ落ち、戦いが終わり邪魔にならないように離れたところで見ていたハジメが駆け寄っていく。
「私は何のために戦っているのだろう」
レイショウたちを見て周囲の鬼を片付けたジュンセイは一人呟くと、そのまま戦闘の意志をなくした者が鬼に襲われないように護衛に付いた。
逃げる三本角の鬼を追ってジークルーンは廃墟へと入っていた。
振り返ればまだ数百メートルほど後ろに開けた場所が見える場所だったが、彼女は戻る様子はない。
目の前に立つ大きな鎌を持ったかつての仲間だった者の変わり果てた姿をそのままにはできないずしっかりと仕留めるために追う。
「どこまで逃げるんですか?」
レイショウたちのことをジュンセイに託しジークルーンは目の前の相手に集中する。
大きな鎌を持ったまま後ろへと後退りし続ける三本角の鬼。
明らかにどこか罠へと誘導していると感じとりジークルーンは周囲により一層の気を配った。
「……自分の声は届きませんか?」
話しかけても当然返事はなくこれ以上は何もなさそうなので、軍刀を突き立てるように構え走り出すジークルーン。
三本角の鬼はジークルーンが攻撃の範囲内に入るタイミングで鎌を振る。
元アルケミストの体の鬼はジークルーン以上に体を強化し、その体から全力で放たれた一撃は彼女をほぼ真横に打ち上げ朽ちたビルの中に叩き込む。
咄嗟に軍用や着ている服を空気を取り込んだマットに変化させ衝撃を強引に吸収させた。
もちろん並みの力でナノマシンで作られた記事が破けることはなく、砂ぼこりにむせながら武器と服を再形成させ身にまとう。
「こんな力を、これがアルケミストのリミッターの外れた全力……、おっと、誰っ!」
月明かりすら届かない暗闇の奥で小さな瓦礫が転がる音と、砂をざりざりと踏む音が反響して聞こえすぐに軍刀の刃を向ける。
ひび割れた壁からわずかに室内を照らす明かりの中に現れたのはジークルーンより背の低い子供の姿の鬼。
「っく、今まで出会わなかったからいないと思いたかったのに」
ハジメより少し大きいくらいの鬼が爪と牙を大きく広げジークルーンへと飛び掛かってきて、大きく一息つき彼女はその首を容赦なく斬り落とす。
鬼を倒し静寂が戻ってくると思ったが、奥からさらに足音が響いてきた。
「きっとアトランティカがよんでいるんでしょう、先に彼女を倒さないと」
建物の外に出ると空から石が降ってきた。
「何ですか,石?」
建物の上にいる鬼たちが瓦礫編を掴んでジークルーン目掛け投げている。
大きさは拳以下の大きさから人の頭ほどまで様々。
数個の石がすぐに十数個程度にまで増え、ジークルーンは左右によけながら三本角の鬼のもとまで走った。
三本角の鬼は先ほどと同じように攻撃範囲内に入るタイミングで一瞬の狂いもなく正確に鎌を振る。
土壇場でジークルーンが地面に向かって鎖のついた杭を打ち込み急停止し、風圧がジークルーンの長い髪を揺らす。
体にダメージの入る事前の動作の少ない瞬間的な行動だったが、おかげで三本角の鬼は攻撃を空振りし攻撃直後は無防備になった。
「これで終わりです」
そういい息を整え横薙ぎに一振りし鬼の首を刎ねる。
ナノマシンを首元に集め軍刀の刃を食い止めるがすぐに剣先を引っ込め、一息にその顔に軍刀を突き刺す。
血は流れなかったが脳を損傷した三本鬼は仰向けに倒れていき同時に石の雨が降りやむ。
「今度こそおやすみなさい、アトランティカ」
辺りは何もなかったかのように無音を取り戻し、戦いが終わったことを実感するジークルーン。
廃墟から広場へとジークルーンが戻ってくるのを待っていたレイショウとハジメ。
二人の無事な姿を見て安堵し、そして倒れている角と鎌の生えていたミカドを見てその表情を曇らせる。
「そんな……ミカドさん」
「ああ、鬼になったから倒したよ。俺が非酔ってたんと倒せず少し苦しませちまったけどな」
屈みジークルーンはミカドに向かって手を合わせた。
そばにいたハジメは怯えた様子もなく、彼女もこういったものに見慣れてしまっていることに更にジークルーンは悲しくなり表情をより曇らせる。
「埋めてやりたいんだミカドを、だからジークルーン地面を掘れるものを貸してくれると嬉しいんだけど」
「わかりました、スコップでいいですよね」
「頼む」
ナノマシンを変形させスコップをレイショウに手渡す。
受け取った腕が左腕で少し違和感を感じ右腕を見ると、彼の右腕に銀色の線が走っているのを見つける。
「レイショウさん、その腕は?」
「ああ、一度千切れたんだ。鬼の攻撃で」
「千切れたって……」
「ジュンセイさんがくっつくって言って付けてくれた。動かすには少し練習が必要らしい」
ジュンセイが周囲の鬼の排除を終え再度戻ってくる。
「アトランティカは?」
「倒しました、脳を損傷させればもう動かないんですよね? 首を切り落としましたが大丈夫だったでしょうか?」
「ああそれで大丈夫。鬼は記憶と自我を奪うから襲ってくる。三本角は周囲に信号を送り複雑な命令を行える分他の鬼より弱いはずだった。アルケミストの死体を使ってくるとは思わなかったけど」
少しの沈黙のうちジークルーンが口を開く。
「行きましょう、工場へ。自分はこの世界を見て回るため工場にいるアルケミストの話も聞きたいです」
「ほんとに行くの? さっきも言ったけど工場は人の受け入れをしていない、連れて行っても断られるよ。しかも最悪攻撃されるかも」
「でも他に行く場所もありませんから、食料も底をついてしまいますし」
「それについてはいいものを見つけた。鬼の何人かが城塞都市の帰りに襲われたらしく食料と水の入ったカバンを背負っていた。まだ探せば食べられるものがあるはず」
「そうですか、なら少しの間は食料のことは大丈夫そうですね」
アルケミストたちは食料を集めながらまだ近くでうろつく鬼を排除し、レイショウはミカドの埋葬をおえると眠ってしまったハジメを背負い3人は歩き出す。
行き場を失った彼女らは廃墟をさまよう。
既に夜も深くなり時期に空が明るくなろうとしていた。




