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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
1章 --終末世界に鬼が住む--
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地獄 5

 鬼はすべてジークルーンとジュンセイの足止めへとまわされ、レイショウはハジメとミカドを守るためにアトランティカを迎え撃つ。


「どうして、争いは何もいいとこがないのに、人は何度も何度も繰り返すのでしょうね!」


 流石に人の頭ほどある鉄塊のついた武器を受け止めることはできないと判断してレイショウはアトランティカを引き付けて逃げた。

 誰もいなくなった場所に振り下ろされた槌は、一撃で轟音とともに地面が揺れ大きく土煙が舞う。


「なんて力だ、地面が抉れたぞ! 人の力じゃない!」

「受け止めてくれないのですね? 面白くない」


「流石に死んじまうよ、どんなに体が軽く動くようになってもそれは無理だと一目でわかる」

「でも、道を譲ってくれるなら私は真っすぐ進みますね?」


 畦道を転がり落ちたレイショウはハジメたちに向かって改めて槌を振り上げ歩きだすアトランティカを追いかける。


「そうはさせない、俺らはここから出ていかせてもらう。何もしないから邪魔しないでくれ!」


 一瞬ジークルーンたちが鬼を倒し加勢してくれるのではと期待して彼女らの方を向いたが、時間稼ぎのために距離を取って戦う鬼を相手にしている二人は助けに来てくれる様子ではない。

 アトランティカの接近にはじめとミカドは離れようと距離を取り走っていく。


「私たちはいずれはすべての人を救わないといけない、例外なくすべての人をこの楽園へと招き信徒にする。争い無き世界を作るために」

「あの人たちは! あんたが鬼にしたあの人たちは救われたのか!」


「ええ、もちろん。彼らはもう悩むことも疲れることもない」

「それはあんたが殺したからだろうが!」


 追ってくるレイショウに向き直り横薙ぎに槌を振るアトランティカ。

 攻撃を目でとらえ姿勢を低くし頭の上を鉄塊が通り過ぎていくのをレイショウは風の圧と重たい音で感じ取りながらも彼女に飛びついた。


「大胆ね、くすぐったい」


 地面に組み伏せるために勢いよく体当たりしたが、男性であるレイショウより小柄なアトランティカは一切大幹を崩さず彼女は何事もないようにレイショウを見下ろす。


「懐に入れば攻撃できないとでも?」


 槌を手放しアトランティカはレイショウに手を伸ばすと、彼女の手を離れた大きな槌が重たい音を立てて地面にめり込んだ。

 両手で引きはがし首を掴むとアトランティカはレイショウに言う。


「私たちは100年、体は変われどこの力とともに生きています。今さっきナノマシンでの身体強化を使えるようになった程度のあなたが100パーセントの力を引き出せるわけもなく、ましてや借り物の力相手にもなりませんよ」


 アトランティカはジュンセイの相手をする鬼の一人を呼び出しレイショウのもとへと引き寄せる。

 それに気が付いたジュンセイがすぐに鎖を伸ばして離れていく鬼を捕まえようとするが他の鬼に鎖を絡め捕られてしまう。


「何してるのジークルーン! たった二人、あんたなら倒せるでしょう!」

「わかってます、わかってますけど!」


 自在に形状を変えるナノマシンを駆使して複数の鬼の相手をするジュンセイと違い、鬼の数は二人と数の少ないジークルーンにレイショウの危機を知らせるが彼女は鬼に進路を阻まれる。

 鬼を刺す股でとらえようにも逃げ回られてしまいレイショウを助けに向かうことができない。


 レイショウを力任せに地面へと寝かしつけアトランティカは鬼が来るのを待つ。


「襲いなさい、痛めつけここへ運んでくること」


 命令を受け鬼はレイショウの横を通り過ぎミカドたちへと走っていく。


「ジュンセイから借りたその力もすぐに取り上げますからね」


 直後、何かが倒れる音が聞こえアトランティカが振り返れば走り出した鬼は地面に倒れていた。

 さっきと今とで違う場所は角と爪を銀色に変色させていること。


「ジュンセイか? しまった、ナノマシンを含んだ血液からナノマシンの制御を奪われたのね!」


 鬼が倒れた仕組みに気が付きアトランティカはジュンセイの方を見る。

 同じようにそこには制御を奪われ、黒い角を銀色に変えて地面に倒れる鬼の姿があった。


「べらべら喋ってるから形勢が逆転したぞ、アトランティカ」

「負けている振りをして、すべての鬼を奪い返す時間稼ぎだったのね。戦場を離れわたしの勘は鈍っていたのかしらね。仕方ない彼を鬼にして逃げたあの二人を捕まえますか」


 そういうとアトランティカはレイショウを抑える力を強めジュンセイに向き直る。

 どれだけ力を込めても彼女の拘束を抜け出せないレイショウに突然鮮血がかかった。


「あら……油断しました……。ナノマシンがないから何もできないものと……ふふふ……」


 レイショウにまたがる薄着の彼女を貫く刃。

 そこからとめどなく血があふれる。


 背中から胸までを貫かれアトランティカは血を流し力なく倒れそのままレイショウに寄り掛かった。


「……よかった。これで終われる……じごくからかいほうされる……」


 最後にそう呟きアトランティカは動かなくなる。


 すぐ近くに人の気配を感じ起き上がりながらレイショウが見上げれば血にまみれた鉈を持つミカドの姿。

 覆いかぶさるアトランティカを横に寝かせレイショウは起き上がると辺りを見回す。


 鬼を倒しジークルーンの相手をしていた鬼を排除したジュンセイたちが駆け寄ってきておりレイショウは視線をミカドに戻した。


「……大丈夫か?」

「俺は無事だ、ミカドは? 大丈夫か?」


「無事だ、ハジメちゃんも向こうにいる」


 疲れた声でそういうとミカドは動かなくなったアトランティカを見て血のついた鉈を地面に落とす。

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