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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
1章 --終末世界に鬼が住む--
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地獄 3

 畦道のはじに並んでいた農夫の一人が腕を押さえて蹲る。

 彼女はナノマシンを操って人を鬼に変えることにためらいはなく、顔色一つ変えなず農夫の悲鳴を聞いた。


「あ、あぁああぁぁああ!! 助けてください……巫女様ぁ!」


 蹲った農夫が再び立ち上がると頭から黒い角を生やし、遅れて軍手や靴を突き破って手や足から鎌のような爪が生えてきている。

 ゆっくりと姿を変えていく鬼の姿を悲しそうな目で見ながらジークルーンたちはナノマシンで軍刀を作り武器を持って身構えるが、鬼は襲ってはこずその場で蹲り耳を塞ぎたくなるような悲痛な悲鳴を上げていた。


「……お兄ちゃん」

「大丈夫だぞハジメ、俺が守るから」


 悲痛な声に昨日のことを思い出したハジメは強く耳を塞いでレイショウに抱き着く。

 その不完全な鬼の姿を見てレイショウたちが顔を歪める中、アトランティカは話を続ける。


「脳にまだ自立行動機構をつけていない状態でね、彼はまだ意識があり助けられる状態だよ。どうする二人とも」

「……こんなひどいことをして、心は痛まないのですか? そして何がしたいんですかアトランティカ!」


「私たちはね、ただその三人を逃がしたくないだけだよ。ここへきてしまったのなら私らの仲間になってもらわないと。ここは来るもの拒まずですからね」

「去るもの追わずとはいかないのですか?」


 話している間も不完全な鬼はすすり泣きながら助けを求めており、アトランティカとジークルーンたちを遮る人の壁は震え仲間の悲鳴を聞きながら涙ぐみはするものの彼女の前から動かない。

 アトランティカは再び指を鳴らすと、黒い色の額の角と鎌状の爪は銀色に変わっていき農夫の男は息を切らせて倒れて畦道から転がり畑に落ちた。

 農夫の悲鳴がなくなり静けさが戻りハジメが耳から手を放しそっと周りを見る。


「残念ながらそうはいきませんね。ここで学びここで働きここで暮らしここで家庭を持ちここで死んでいく、私たちは人を人として生かしながら罪を犯せば罰を受ける二度と争いを行わせない教育をしていくのです」

「我々が今守っている人間はたった三人ですよ、自分はまだ世界についてみて回り始めたばかりで、どうして星のために戦ったアルケミストがこんなことをしたのかしているのか事情は分かりません。今はどうか見逃してくれませんかアトランティカ」


「残念だけど、はいさよならとはいかないんでね。町の人口を増やすためにも若い人材が欲しいところでね、今少ないんだよね働き盛りの人材が。満月が来るたびにねここから鬼を排出しているのだけど、一本角の大鬼の製造には成長ホルモンをいじれる若い人間が必要でね満月で大勢使ってしまったの。ねぇジュンセイ、チュウジョウに銃をばら撒くのをやめるように言ってくれないかな。あれは鬼の消費を速める、使用限界が来る前の鬼が無駄に消費されてしまう。その結果、よそで鬼が思うように増えずこちらの負担が大きくなるんだ」

「それはそちらの、月に残ったアルケミストの事情ではないですか! 今を生きる星の人たちには何の落ち度もない! 皆生きたいと思って生きているのです、守りたいと思っているから戦っているのです!」


 レイショウは怒りがこみ上げたがそれを感じ取り震えるハジメを見て我に返り、彼女の頭をさすりながら三人を守ろうとするジークルーンとジュンセイの顔を見る。

 かつての仲間を見てジュンセイは飽きれた顔をし、ジークルーンは悲しそうな顔をしていた。


「お前たちが、俺らの村を襲わせたのか!」


 アルケミストたちの話を黙って聞いておられず、ミカドが前に出て怒気に満ちた声を上げるが、ジュンセイがアトランティカと向かい合いながら腕を伸ばして彼が前に出るのを妨げる。

 ジュンセイが有刺鉄線に変えたナノマシンの主導権を奪い返し、剃刀の刃をなくしただのワイヤーにするとアトランティカはそこに座った。

 杭と杭の間にぴんと張られたワイヤーに腰掛け、アトランティカは話ながら腰掛けたワイヤーをブランコのように揺らしながら答える。


「どこにあった村かは私は知らないけれどね、襲わせたのは月だよ間接的にはそうかもしれないけどね。ここは兵隊を作って外へ送るだけ。我々を恨んでくれてかまわないよ。それで、人同士が争わなければね」

「お前たちのせいで、レイショウたちと夕食を良く誘ってくれた叔母さんも、探索の危険を教えてくれた叔父さんたちも、怖いもののよく俺らに声をかけてくれた村長も、みんな、死んだんだ!」


「そうですか、しかし今の時代、鬼に親しい人を殺されるのはありふれたものではないですかね? 終わった過去ではなくこれからの未来を考えましょう。そうです、なら今、ここでの移住を決めてくれれば私との間に子供を作る権利をあげましょう。昔の姿とは違うものの、それでもアルケミストとして生まれた自身の美しさにはかなりの自信があるのですけどいかがですかね? こう見えて献身的に尽くしますよ、子供は何人欲しいですか?」

「ふざけるな!」


 目に涙を浮かべミカドは怒鳴り、アトランティカは楽しそうに笑う。


「残念ですね、君の様な子は私の好みですのにね。でもまぁ、体の自由を奪ってからでも楽しめますし。さて、そろそろスイセイからの指示を終わらせますか。私もまだ仕事の途中でしたし」


 ワイヤーから立ち上がりアトランティカはまた指を弾く。

 畑に堕ちた農夫とアトランティカの前に並んでいた農夫たちが、悲鳴を上げる間もなく一斉に鬼の姿に変わる。


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