楽園 5
ジークルーンの横を風が横切り直後に背後で重たい音。
振り返れば背後の通路には先ほどまでなかった壁が出来ていて鎖に絡め取られたレイショウたち三人。
「どうして邪魔をするのですか、ジュンセイ?」
「私はジークルーンを悲しませたくないだけ、それにこの三人は私がせっかく助けたんだ。みすみす渡すものか」
一瞬のことで何が起きたかわかっていないジークルーンは鎖で巻かれたレイショウを見て困惑する。
レイショウたちも鎖に撒かれて床に転がっていて自分たちに何が起きているかわからず驚いていた。
「何しているんですか、ジュンセイ」
「ジークルーンも今感じ取ったでしょ。帰ろう、昨日頑張って助けたこの人間たちを殺したくなかったら」
「殺す? 待ってください、突然なんです?」
「私も知らなかった。前に会ったときにスイセイもやばい方向に心が壊れてきてると思ったけどここまでしてるだなんて。前に会ったときはもう少しましだったのに」
鎖を解き服の形に戻しながらジュンセイは白い壁に触れる。
眩しい閃光と稲妻が走りジュンセイの触れた部分の白い壁は崩れ形を変えた。
ジュンセイはミカドの手を握り壊れた壁の向こうに連れ出すとハジメを抱えるレイショウを手招く。
「人は時間がたつと変わるのですよ、ジュンセイ。ええ、最初は私も月の考えには賛同しかねていました。しかし、100年、人同士が派閥を作りいがみ合い争う姿を何度となく見てきて気が付いたのです。私たちは何を守ろうとしてきたのだろうと、月に残った戦艦型の皆さんはそれを知っていたのでしょう。私は理解するのに100年もかかってしまいました」
「突然何の話を、この壁は、あなたたちは何の話をしているのですか」
「ジークルーン、本当に、本当に昔の私たちのよう。何が正しいかわからず、できることを探している。そうです、そうですよ、ジークルーン・アインホルン、私たちと一緒に行動しませんか? 暮らしのために多くの人々を導くのです」
「待ってください、この壁は、ジュンセイは突然どうしたというのですか!」
呼ばれるままにレイショウが壁を乗り越えていくとジュンセイがジークルーンを呼ぶ。
「これ以上ここにいても無駄だよ、離れよう。ここに来た時から何かがおかしいと思ったんだ。スイセイが本気出したら守れなくなるから。それに他のアルケミストが来たら逃げる手立てもなくなる、ぼさっとしないで」
ジュンセイの強い口調にジークルーンは納得のいかないまま壁に空いた穴から向こう側へと出る。
静まり返った廊下でスイセイは神殿から出ようと走り出す5名を見送り、反対側に向かって歩き出すと荷物を抱えて歩いてきた二人の神官へと歩みよった。
「巫女様、本日分の収穫です。ご覧ください、肥料を変えたトマトがこんなに大きく……」
「よく聞きなさい信託です、コード408A、侵入者を捕らえなさい。アルケミストにはできる限り手を上げないで、最優先は人間三人の感染、あるいは死。行きなさい」
喉にナノマシンを纏わせたアルケミストであるスイセイの特別な音声での支持。
指示を受けた二人は荷物を降ろして走り出した。
その神官たちの目に生気はない。
長い廊下を走り途中で神殿の壁に手を当てて閃光と稲妻を発生させ、その壁を崩し外を目指すジュンセイ。
乱暴な方法に一緒に逃げていたミカドは尋ねる。
「あの、なぜ逃げるのですか?」
「ここまでやばくなってるとは思わなかったから、何もわからないなら話しかけないで」
会話を打ち切りジュンセイは走る速度を上げた。
「自分もわからないのですけど、説明してもらえませんかジュンセイ」
追いついてきたジークルーンが尋ねるとジュンセイは背後から聞こえてくる足音に振り返る。
「来た、後ろ見て」
全速力で追いかけてくる二人の神官。
その頭には黒い角が二本生え、手のひらからは同じく黒く長い爪が伸びている。
「鬼どうして!」
「飲ませようとした薬、ナノマシンだったの覚えてるよね。治療ができるんだからその逆も……」
レイショウたちを先に行かせジュンセイは制御を奪って崩した白い壁を元に戻す。
赤と黄色の神官の服を着た鬼は壁を破壊できず追跡を一時しのいだ5名は近くの部屋に入り、ジュンセイが扉に使われているナノマシンの制御を奪い壁と溶接し密室を作り休む。
「この神殿広い……来るときはこんな広くはなかった。拡張されてる?」
「いいえ、来るときと逃げた方向が違います。今、自分たちは神殿の奥へと逃げていますよ」
ジークルーンとジュンセイは疲れている様子はないが、一度追われさらに急に走らされたレイショウやミカドは息を切らせながら汗を流している。
部屋は書斎の様で5段ほどある本棚に分厚い本が並べられていて部屋の真ん中に一つだけ机が置いてあり、レイショウたちは絨毯の敷いてある広い床に寝転がった。
「そんな、来た道は覚えているさっきの道で会っていたはず。また何かされたのか……もう充分休んだよねまた走るよ、鬼に追いつかれる」
息を切らせたレイショウが壁の一部を自分の武器とすべく、さらに身を纏う服を作って重ね着しているジュンセイに問いかけた。
「この町はどうして鬼を、なんで……」
「月と歩を同じくするって言ったよね、多分ここは鬼の工場だ。使用期限の切れた鬼の代わりを作ってる」
レイショウに抱えられていたハジメは元気で部屋を歩き回り本棚を見て回っていて、偶然彼女と目が合ったジュンセイは答える。
「使用期限って、何ですか」
「鬼には時間制限がある、元が生き物だからナノマシンで無理やり動かしてもいつかは反発を起こす。使用期限が近い鬼は代わりを探しに満月の夜に一斉に村を落としにかかる」
疑問を持ったレイショウが口をはさんだ。
「昨日のこと……あれも鬼が新しい鬼を作るために襲って来たのか?」
「昨日、あんたたちも一本角と戦ったよね……最初の私が戦ったやつは鈍間だったけどジークルーンと私が一緒に戦ったやつは動きが機敏で力もあったでしょ、多分あれは最近できたばかりの鬼だった」
「さっきのジークルーンの仲間が鬼を操って俺たちの村を襲わせたのか?」
「わからない、何とも言えない私は関わってこなかったから。スイセイ、前は違ったのに……。もう行く、準備はいい? 鬼になりたくなかったら死ぬ気で逃げてよ」
扉を開けると分厚い本を抱えて歩いてきた神官と鉢合わせた。
「お客人、こんなところでどうかされましたか?」
まだ何も知らないようなのでどう答えようかと迷っていると、神官の額が黒くなり皮膚を破って角が生えてくる。
ハジメを抱えているレイショウに飛び掛かろうとしたところでジュンセイは扉の形を大量の鎖に変え神官を絡め取った。
「早く走って!」




