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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
1章 --終末世界に鬼が住む--
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楽園 4

 庭園でハーブティーを飲んでいると建物の中で複数人の足音と声が聞こえスイセイは近くにいた神官に尋ねる。


「騒がしいですね、何事ですか?」


 尋ねられた神官は目を瞑りこめかみに手をかざす、それを見てジークルーンは首をかしげた。


「何しているんですか?」


 スイセイはジークルーンに向き直る。


「何やらトラブルがあったみたいです。少し外します、すぐに終わらせ戻ってきますので、どうぞここで待っていてください」

「待ってください自分も行きます」


 スイセイは椅子から立ち上がると庭園を速足で歩き、近くの扉へと向かいジークルーンがそれを追って神殿へと入った。


 扉を開けたタイミングでちょうどハジメを抱えて走るレイショウたちとすれ違い、ジークルーンたちはあとから追ってきた神官たちの道を塞ぐような形で武器を持つ彼らに話を聞く。


「慌ただしいですね、埃が舞いますよ。一体どうしたというのですか?」

「ああ、巫女様!! その者らがこともあろうか神薬を吐き出したのです! あの罰当たりな者どもを捕らえ、罰を与えようと!」


 神官たちはレイショウを捕らえるため箒やモップなどを持っていて、スイセイにとめられ慌ててそれらを後ろへと隠す。


「神薬をですか?」

「そうです、巫女様が与えられた! 神のお力でおつくりになられた神薬を異物として吐き出したのです! 許せません、今までの儀式でこんなことはなかった。皆喜んで受け入れ、吐き出すなど……吐き出すなど!」


「だからといって勝手なことは許されていません、必ずこちらに報告を入れるように」

「ですが、こんなことは我々を救っていただいている神に対する冒涜、慈悲を無下にした、私はこの者らが許せないのです!」


 紫色にまで変わった顔色を赤に戻し後から現れた老齢の司祭がスイセイの質問に答える。

 ジークルーンに守られ離れたところで話を聞いていたレイショウが声を上げた。


「どうして薬を吐き出したくらいでここまでされなくちゃいけないんだ!」


 庭園の中央でジュンセイはハーブティーを飲みながらクッキーを食べトラブルを傍観している。


「神の力とは何ですかスイセイ?」


 ジークルーンのもとへとハジメを抱えたレイショウと一緒にいたミカドが近づいていき、ミカドは彼女に空になったコップとともにずっと握りしめていた錠剤を渡す。

 神薬を受け取ったジークルーンはそれを見て何かを感じ取りスイセイに尋ねた。


「……スイセイ、これはナノマシンですか?」

「ええ、ですが知っているのは一部の司教のみですのでジークルーンなるべく声を押さえてください。ここではこれをあらゆる病を治す神薬として皆に飲ませています。また生産効率を上げるべく身体能力と疲労回復の向上を行っています。問題は彼らがこれを吐き出したということ。今まではこんなことは起きなかった……」


「この二人は、昨日鬼に傷つけられジュンセイのナノマシンを体に入れています。自分は鬼と化すナノマシンの制御を鎮める方法を知らなかったので、もしかしたらスイセイとジュンセイのナノマシン同士が反発しあったのではないでしょうか?」

「そうでしたか、それならば仕方ないことです。ナノマシン同士がお互いを調整しようしたのでしょう。納得のいく話です」


 服装を正しながらスイセイは興奮する神官たちを宥めるため歩み寄る。

 スイセイが前に出ると神官たちは皆慌てて頭を下げた。


「皆、武器を降ろし冷静になりなさい。この方々はすでに他の方から祝福を受けていたのです。安心なさい、彼らは神薬を拒絶したのではないのです」

「巫女様が……そう、おっしゃるなら……」


「さぁ、皆さん持ち場に戻りなさい。問題は解決したのですよ。彼らは私に任せてください、異端と決めつけ追い回し驚かせてしまったことを謝らなければなりません」


 神官たちはスイセイの言葉を聞いて落ち着きを取り戻し引き返していく、血管を浮きだたせていた老齢の司教も彼女の言葉を聞いて落ち着きを取り戻し一礼して下がっていく。


「私たちが集団で行動するにあたって、上下関係というのはとても便利なのです。私たちが軍人で上からの命令に何も感じず支持の通りに戦ってきたように、立場が上のものの命令は絶対というこの形は私たちアルケミストにとってとてもやりやすいのです。とはいえ指示には意味を持たせ相手を納得させる必要があって、命令一つでなんでもできるわけでもありませんが」

「チュウジョウも王様になった様子であの町を治めていました」


「ええ、ええ! 思い出しました。たしか彼女は私たちはこの星の文明を滅ぼした悪、私たちが彼らを二度と謝った道へと導いてはならない、人を管理するものとして協力してくれないかとチュウジョウは言っておりました」

「そうですか」


「もう、50年ほど昔のことですけどね。ええ、私たちにもより多くの人を救うために城塞都市の運営を手伝うように言ってきました」

「今の様子を見るとスイセイは断ったみたいですね?」


「はい、我々にはやるべき使命がありますから。チュウジョウとはお互いのすることには不干渉、ここで生産した食料を城塞都市へと無償で無期限に供給する約束だけをして別れました」

「すべき使命?」


「人を守ること、100年前戦いが終わり星に戻った私たちが見た、鬼が星に現れ人同士が居場所や食料を巡って争い、戦争でもないのに多くの血が流れたのを見て私たちは決めたのです」


 神官たちを持ち場へと追い返し戻ってきているスイセイの言葉を聞いて、ゾワリと錠剤を掴むジークルーンの背筋に冷たい感覚が走る。


「なに……を?」


 近づいてくるスイセイに嫌なものを感じて、思わずジークルーンは一歩後ろに下がった。


「私たちが人の意識を操り、争いなどない世界を作る。私たちは月と歩を同じくすることを誓ったのです」


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