流れ行くもの 4
一人で乗るには広かった装甲車の車内も途中で拾った兵士の負傷者と助けたレイショウたちを乗せると手狭になった。
皆が車両に乗り込んだことで走り出す。
レイショウはミカドから気を失っているハジメを受け取り背負いその横にジークルーンがやってくる。
「体の調子はどうですか?」
二人の首に残る大きな銀色の瘡蓋を見てレイショウは自分の傷に触れた。
レイショウに残るジュンセイに斬りつけられた首の半分くらいまで達する大きな傷は硬く固まっていて触れても剥がれ落ちる様子はない。
「なんかすごく体が軽いんだ、すごく調子がいい。俺、奴らにやられたんだよな? ジークルーンがなおしてくれたのか?」
「いいえ、レイショウさんもハジメさんも鬼になる前に止めたのはジュンセイです。自分は他人のナノマシンに干渉するプログラムを知りませんから」
「そうなのか、お礼言わないとな」
「彼女は助手席に乗っていますから目的地に着いてからでいいと思います、今この中を移動留守のは困難で迷惑が掛かりますから」
「ところで、俺を助けてくれたあの人はジークルーンを襲って来た人だよな? なんかの誤解は解けたのか?」
「あの子は長い時間で様々なものを見てきて精神面が不安定になっているようです、今回は助けてくれましたけど自分のいないときにあまり近づかないようにお願いします」
「わかった、とりあえず俺とハジメを助けてくれたことをお礼は言わせてくれ」
「ええ、そうしてください。その時は自分も同行します、おそらく自分はジュンセイと一緒にいるでしょうけど」
帰還中に鬼の襲撃を受けることなく装甲車は無事に城塞都市へと戻ってくる。
兵士たちは検査のため門に残り、アルケミストの二人と村人三人は車両を乗り換え町の中央へと向かう。
迎えに来た使用人に案内され建物の中を移動し寝巻に着替え、酒をたしなんでいるチュウジョウの前にやってきたジークルーンが彼女が口を開く前に尋ねる。
「この三名を町で保護してもらえませんか?」
ソファーに深く腰掛けチュウジョウは部屋に入ってきたジークルーンやジュンセイ、保護して連れてきた村人三人を酒を呷りながら眺め答えた。
「一番最初に言うことがそれかい? 兵士を助け拾ってきてくれたことは一応感謝しているよ、今日が満月だというのを忘れていたからね。たまには空を見上げないとね。とはいえそこの彼を帰そうと村へ送った兵だったわけだから結果として……ね」
「あれはチュウジョウの親切だったんじゃないですか?」
「ああ、ジークルーンを連れてきてくれて私のいたずらに巻き込んでしまったせめてものお詫びさ。でも、村人である彼らは街に長時間置いておくことはできない、そんなことをすれば保護を求める人間すべてを受け入れないといけない。ジークルーンの知り合い、世話になった人間だとしても例外はない。出て行ってもらうよ」
「そうですか……」
どうしようかと顔を見合わせるジークルーンらを見てチュウジョウは続けた。
「流石に今すぐ追い出したりはしないよ、下手に外に出して三本角を連れてこられでもしたら厄介だ。今日はもう疲れただろうから部屋を用意させるからよく寝な」
「ありがとうございます」
「感謝はいいよ。人を守るのが私たちアルケミストの使命でありながら、私はこの町の人間以外は切り離してしまったのだから」
再び使用人に連れられ部屋を後にするジークルーンたち。
皆を追いかけて部屋を出ていこうとするジュンセイをチュウジョウは止める。
「ジュンセイ、あんたはジークルーンについていくのかい?」
「さぁ、どうだろう。まだ決めてないけど、ここにいるのは退屈だからしばらくは様子を見るかも。ジークルーンと一緒にいるのは面白そうだから」
「好きにするといい。ここに縛られる私と違って、あなたは自由なのだから」
「そうさせてもらうよ、ジークルーンはあきらめてしまった私たちとは違う目をしているから。しばらくはついていって観察する、私がなくしてしまった何かをジークルーンは持っている気がするから」
ジュンセイは部屋を出て行き残ったチュウジョウはまた酒を呷る。
「私たち、だろうに……」
レイショウとミカドは先に部屋に通され、ジークルーンとチュウジョウとハジメは別の部屋に連れていかれた。
客人用の大きな部屋、部屋には寝室や大きなテーブルのあるリビング、シャワー室が付いている。
シャワーを浴び用意されたバスローブを羽織ると二人はベットに飛び込む。
柔らかな綿製の布団に包まれミカドは大きなため息をつく。
「はぁ、助かったな……俺たち」
「ああ、村は……全滅しちまったのか? 一緒に逃げてきた、村のみんなは駄目だったのか」
「そうだな、レイショウは気を失ってたからな。ハジメちゃんは無事だったけど、逃げてきた俺たち以外は助からなかった」
「そうだったのか……」
「村長も大人もみんな鬼に襲われてしまって、残った俺らはこれからどうしていけばいいんだろうな」
「そうだな……話を聞いていた感じだとこの町にはいられないみたいだし、どこか俺たちが住めるようなところを見つけないといけないな」
「ああ、これで終わりってわけじゃないもんな」
「なんであれ、今日はゆっくり休もうぜ」
疲れていた二人は電気も消さないまま眠りについた。




