慟哭の夜 4
城塞都市から廃墟の地下にある村まで帰路に就くレイショウの乗った装甲車3台とボロいトラックは町を走り抜け瓦沿いを走っている。
空は暗く月と星を覆う輪の照らす明かりが町を浮かび上がらせていた。
「もう川が見えてきた。このあたりでとめてくれ、川が意外と深いからもし縁からタイヤを滑らせたら大変だ」
「わかったこっちもひっくり返りたくはないからな、ならこの辺で下ろすぞ。満月だったから奴らと出くわして戦闘になるのが心配だったが、奴らにも合わなかったし近山いい感じだったな。それじゃあ、あのトラックはこのあたりに止めて俺らは街に帰らせてもらうぞ?」
「ああ、ここまでありがとう。おかげで安全に戻ってこれた」
「じゃぁ、これからも頑張って生きろよ!」
「どうも、ここまで世話になった」
車両は一斉に停止し開いた後部ドアから荷物を抱えてレイショウは河原に降りる。
レイショウにとっては見慣れた景色ですぐ近くには川の水が流れていて満月の月明かりをキラキラと反射させていた。
戻るために方向転換をしている装甲車に、再度頭を下げ手を振って別れると言われたとおり居なくなるまで見送ることなく真っすぐと村への入口へと向かって走った。
兵士たちの乗った車両もレイショウが無事に村の入口にたどり着いたかを確認することなく、買い出しの荷物の乗ったトラックを川原の隅に乗り捨ててそれを運転してきた兵士を回収し土手を登っていく。
村の入口の排水管の前まで来てレイショウは、どこかここからそう遠くない廃墟の近くで乾いた音が連なるのを聞いた。
音は廃墟に反響し武器の持たないレイショウは不安に駆られ足を速める。
「何の音だ? 聞きなれない、変わった音が聞こえる。さっき別れた方からか……とりあえず逃げとこう」
聞きなれない不思議な音に身震いしつつレイショウは荷物を抱え直して速足で配管を進む。
村が見えてきて明かりが警備をしていた村人たちが、暗闇の中動く影を見つけて帰ってきたレイショウを照らす。
「ただいま、帰ってきた!」
「レイショウ、お前こんな時間に、それも歩きで!? ビックリさせやがって、手汗びっしょりじゃねぇか。何でもいいや、早く入れ、怪我とかしてないよな? 今日はもう帰ってこないと思ってしっかり施錠したってのに」
見張りをしていたミカドがレイショウを見て驚きの声を上げて仲間とともに門を開ける。
「ああ、ジークルーンが町の偉い人と知り合いらしくて、なんか送り届けた例か何かでここまで送ってもらったんだ」
「そっか、まぁいいや、早く帰ってハジメちゃんを安心させてやれ。もう帰ったけど、お前が帰ってくるまでの間夕方までここでずっとそわそわしてたんだ」
「ああ、そうだなあいつにはいつも心配かけさせてばかりだ。買い物した荷物は明日、出口の近くに止めてあるからとりに行こう。今日からジークルーンがいないのか寂しくなるな」
「どうでもいい、それより外は大丈夫だったか? 夕方、鉄回収から帰ってきた何人かが角の数の多い鬼を見たって言ってて。みんな不吉だって話をしてたところだったんだぞ」
「角の多い鬼か、話にしか聞いてなかったから一度見てみたかったな」
「まぁいいや、まだ動けるなら今日はバリケードの警備を手伝えよレイショウ。奴らが多い日はたまにここまで入り込んでくるからな」
「ああ、ミカドすぐ戻ってくるから待っててくれ」
レイショウは荷物を置きに一度、妹の待つボロ屋へと向かい自分の家の暖簾をかき分け明かりの消えた家の中をのぞく。
「ただいま、ハジメ。もう寝たか?」
「お兄ちゃん! ケホッ、ケホケホッ、お帰り」
暗がりの中で小さな影が起き上がる。
「無理せず寝てていいぞハジメ、俺これからバリケードの見張りに行ってくる。朝に戻ってくるからゆっくり寝てろ」
「うん、気を付けて」
家の中には入らず玄関に荷物を置きレイショウは家を出ていく。
村の大人たちは皆、数か所ある入口に集まり金網や鉄骨をくみ上げたバリケードの向こうの暗い配管の先を明かりで照らし警戒していた。
レイショウもミカドのいた門の前に戻ってくるとライトを受け取り暗闇の奥を照らす。
「いるな、静かにして耳を澄ませてみろ」
「いつもは夜は活動していないはずなのに……どうして、今日は声が聞こえてくるんだ?」
姿は見えないがバリケードの向こう側、暗闇の奥から不定期な足音とうめき声のようなものが聞こえてくる。
「お前どこかで奴らを連れてきたんじゃないか」
「ずっと俺は車両の中だったぜ。移動中に戦闘もなかったし、車両の音じゃここまでは追ってこないよな?」
「村長はどこに居る? 一応こっちに出たと誰か報告入れてきてくれ。あと、レイショウ、お前は斧持ってきてくれ、何匹来てるか知らないけど増えてくる前に倒す。お前は奴らがどれくらいいるか照らして探してくれ」
「あ、ああ、噛まれるなよ」
ミカドの指示で村人の一人が村長への報告のため門の前から去っていく。
レイショウはバリケードの近くに立てかけてあった手斧を二本手に取ると一本をミカドに渡す。
手斧を受け取りミカドは手拭いで斧の柄と自分の手を巻いてきつく結ぶ。
「一応こっちにも薬あるだろ、いつ負傷してもいいようにわかりやすいところに思ってきておいてくれ」
「ミカドは慣れてるな、俺なんか足震えてきた」
「ばっか、さっきも言ったろ手汗がやばいよ。あといつも誰がやるって聞いたらいつも誰もやりたがらないだろいつもさ。今日は口論してる場合じゃないから俺がやるんだよ。わかったらバリケードの奥照らして俺が噛まれた時ように薬の準備して待ってろ」
「わかった」
眉間にしわを寄せるミカドに言われて慌ててレイショウはバリケードの外を照らす。
他の村人も手斧を握りったり、暗い通路の奥をライトで照らしたり、バリケードの補強用の道具を用意した。
足音はどんどん近づいてきていてレイショウの照らすライトの先に、ボロボロの服を着た長い角と釘のような歯、そして黒く長い爪を持つ鬼が現れた。




