慟哭の夜 3
チュウジョウの不審な行動とそっぽを向くジュンセイの姿を見てジークルーンは何か違和感を感じソファーから立ち上がる。
何とも言えない不気味さにジークルーンは閉じられたカーテンを開け町を見下ろす。
すでに空は暗くなり紫色の空に星を覆う白い輪と月が輝いている、町にも光が灯り煌びやかに瞬く。
「さっき私が話したことをもっと知りたいのならライブラリーの場所を教えよう。私やジュンセイ以外のアルケミストたちの記録も残っている。それぞれの葛藤を読めば少しは理解できるだろう」
「待ってください、今の話し方まるでこの世界今の状態が最善といっているように聞こえます!? 時がたち鬼が消えれば再び人に時代を託すのではないのですか? 鬼がいなくなるまで人を保護しているのでは、我々は月に残った彼女らの暴走から人を守ってはいないんですか?」
「彼らに世界を返してもまた争うだけだろう、だったら優れている私たちが……」
「何を言っているんですか! 人類の支配者にでもなったつもりなんですか、自分たちは月との戦争を終わらせ星の平和を守るために、多くの笑顔を守るために!」
アルコールのせいもあってか感情的になるジークルーンと鬱陶しそうに淡々と話すチュウジョウ。
二人の口論を眉間に皴を寄せてアルコールを含んだ黄金色の炭酸を口にするジュンセイ。
「だから守っていくんじゃないか、人が二度と過ちを犯さぬようにこの世の終わりまで半永久的に。私たちが世界が終わるその時までね」
「こうじゃない、こういうことではなかったはずです! これではまるで人々が家畜じゃないですか! 自分たちは優れているから支配する? そんなこと自分は、自分は認めません!」
「ならどうする? 私たちを止めるのかい?」
「そうします、こんなこと間違っています。チュウジョウは自分を止めますか?」
「いいや、私たち同士で争うことはできるだけしないよ。したいならするがいいさ、私たちはこの町を守っていくだけだから、街の外のことには深く干渉しない」
「自分もかつての仲間を手にかけたくはありません。でも鬼をなんとかします、それさえすれば外にいる人たちがまた普通に暮らし始めますよね。チュウジョウや他の皆が町を手放す気がなくても鬼がいなくなれば自然と人の数が増えていくはずです」
「どうかな、鬼がいなくなっても、もうそのころには農場や家畜を育てる技術は失われているのかもしれない。今の世界は街に食料を依存しているし私の工場ももう知識を持つ人間はおらず、風土病や害虫のいる普通の土で育てるのは無理だろうからね」
「自分はもう行きます。記録のあるライブラリの場所はどこですか」
チュウジョウたちに背を向けて部屋から出ていこうとするジークルーン。
空になったコップを置きジークルーンのいなくなって広くなったソファーに横になったジュンセイがつぶやく。
「ジークルーン、彼が気になるなら戻った方がいいかも」
その言葉にジークルーンは足を止め、ソファーに寝転がるアルコールが入り顔を紅潮させているジュンセイの方へと振り返る。
「何です、どういうこと?」
「たぶん、あの男の村が襲われる。だってチュウジョウは満月の日だって知っていながら帰宅をさせたもの。みんな一緒なら誰も悲しい思いをしないよう」
「チュウジョウ!」
彼女はジークルーンの開けたカーテンの外を見ながら振り返ることなく早くいけと手を払い、ジークルーンは城から町から出るために駆け出す。
大きな建物で複雑に入り組んでいて建物の外に続く道がわからなかったが、ジークルーンが当てずっぽうに走っていると壁や床に道案内のペイントが浮き出てそれに従って走り外へと出た。
建物の前には黒い車両が止めてありジークルーンが来ると、彼女を待っていたかのように無人の車両が自動で扉が開く。
「乗れ……ということですか?」
自分が出てきた建物を振り返って見上げジークルーンは少し悩んだのち車両に乗り込む。
ジークルーンが車両に乗り込むとジュンセイが上の階から滑り降りてきて隣に座る。
「ジュンセイ、どこから?」
「普通に床を滑り台に変えてだよ。私の用の無くなった天翔艦を引き渡し、私はこの町に居なくてもいいからね、一緒に行くよ」
すると車両の運転席は無人のままジークルーンたちを乗せて町を走しりだした。
人々が働く街の建物は明るく輝き人の影が揺らめいていて、流れていく景色を見ながらジークルーンはチュウジョウに話しかける。
「人々はまだ働いているんですか? いつ彼らに休みは与えられるんですか?」
「8時間労働の3交代制、今は夜の部じゃなかったかな。ところでこの車じゃ門までしか行けないよ、燃費優先でタイヤが細く小さくて補正された道しか走れないから。そこからどうするのか考えてる?」
ジュンセイに言われ思い出したように考え込むジークルーン。
「考えてなかった……レイショウさんの村はここから五時間程度だったはず、普通に走ってでは絶対間に合いませんよね。勝手に盗むわけにもいかないし……レイショウさんが乗ってきたトラックがあればいいんですが。確か護衛の人に村まで届けられているんですよね、もしかしたら置いて帰っているかもしれません」
「それは彼と一緒に届けられたとおもうよ。この町にはないはず、一応調べてみる?」
「ええ、もちろん。できるんですか?」
「チュウジョウにやってもらう、返事はすぐに帰ってくるよ」
自分の着ている服の一部を携帯端末に変え生み出すことのできない電機は、充電コードを作って車とつなげジュンセイはチュウジョウに連絡を取る。
「私は声を荒げてしまいました、チュウジョウも不快な思いをしたと思います……」
「怒ってないよ、ジークルーンをみて冷徹な判断しかできない100年で変わった自分を悲しんでた。チュウジョウは試してるんじゃないかな」
「何をですか?」
「さぁ、覚悟、とかじゃない」




