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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
1章 --終末世界に鬼が住む--
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慟哭の夜 2

 ジークルーンたちが食事をしている頃、レイショウの乗った装甲車は門を二枚くぐって暗くなった廃墟へと出ていた。


 兵士の運転する三台の装甲車の間に守られるようにレイショウの乗ってきたトラックが並び4台の車両は廃墟を進む。

 村へと送られるレイショウは乗ってきたトラックではなく装甲車の中にいて、薄暗い車内で銃座に付く男と会話を続けていた。


「町の明かりがなくなるとやっぱり暗いな、日もかげってきたし」

「ああ、まぁ護衛もいるし移動中に一本角が出てこなければ無事に村に付けるだろう」


「一本角、聞いたことはあるが本当にいるのか? 大きな鬼だって話だが?」

「ああ、普通の鬼より二回りほど大きく頭には太く長い角が生えている。でかいから遠くからでも大きさで分かるな、足が速く怪力で夜にしか現れない」


 車両からはオレンジから紫色の染まる空に浮かぶ星を覆っている輪が見え、兵士の男はそのさらに遠くも見て呟く。

 空の果てに見えるのは丸い月。


「今日は満月か、満月の日は奴らの動きが活発化するからできれば外には出たくなかったなぁ。昨日も大きな規模の戦闘があったばかりなんだ」

「ああ、この町に入るときその片付けをしているところを通った。話に聞いていたが出くわしたのは初めてだった、ああいうのはよくあるのか?」


「たまにだ、満月が近くなると夜は数十の鬼が集団で壁の近くをうろつき始めるんだ。奴らが集まってこちらに来る前に排除が始まる」

「あんたらの持ってる銃やあの壁の武器なら簡単に倒せるんじゃないのか?」


「最初は、数十匹なんだ。集団を率いてどこかにいる三本角を倒さないと後からどんどん増えてくる、それに一本角が厄介なんだよ遠くからだと弾が弾かれる。でかい分当てやすくはあるんだけどな」

「一匹、二匹の鬼に出会うだけで悲鳴上げてる俺らとは別世界の話だ……、あいにく鬼は今のところ二本角しか見たことが俺にとっちゃ幸運なのか」


「だろうな、二本角以外は夜しか出てこないし昼間だけ行動している、お客人は見る機会もないだろう。会わないに越したことはない、武器があってもな」

「そんな立派な武器があってもダメなのか?」


「どれだけ強力な武器を持っていても弾切れは起こすし、このくそ重たい厚着も助けが来なきゃゆっくりを死を待つだけだ。弾切れで奴らの波にのまれた仲間を何人も見たけど、あの悲鳴は何日も耳に残る」

「武装された町も大変なんだな」


「外で暮らしてるお客人よりかはマシさ、最近じゃ昨日まであった村が満月のたびにいくつか消えて言っているって話だ。おっと、そろそろ言われた場所に付くな。荷物とお客人を下ろしたら俺らはすぐに帰る、見送りはいいからさっさと村に行きなよ。着く頃には既に夜だろう、村の前に置いておくから荷物の回収は明日に回した方がいいかもしれない」

「ああ、そういうことならそうさせてもらうよ」


 装甲車は赤紫の空から紺色の夜のとばりが降りてくる空の下を進む。



 食事を終えたジークルーンたちが食器の片付け終わった長机を小さなテーブルと大きなソファーへと変えるとジークルーンたち三人はソファーに深く腰掛けくつろぐ。

 不意に窓の外を見上げたチュウジョウがつぶやいた。


「そういえば今日は満月か……」

「月が良く見えますね……あんなにきれいなのに、あそこにまだいるんでしょう私たちの仲間のアルケミストが。彼女たちは月の町を改築して暮らしているのですか?」


「そうじゃないんだ、ジークルーン」

「何です、どういうことですか?」


 チュウジョウはカーテンを作り外の景色を隠す。


「満月は月が鬼を補充する日なんだ。3本角の鬼が仲間を引き連れて事前に場所を調べて把握している村を襲う。鬼が100年たっても動き続ける理由さ、素体が死者だからね、ナノマシンで劣化を防いでも鬼としての活動にも時間はある」

「何ですかそれ! ならここでくつろいでいる間に誰かが死んでいるということじゃないですか、何か止める手立てはないんですか!」


 ジュンセイは残った酒を呷りジークルーンたちに背を向ける。


「いつも襲撃される場所は不明、前もって村の場所を調べているから一晩のうちに何か所もやられてる」

「この町から村を守るために護衛を置いたりは」


「したりしないよ、人手が足りないからね。町を守るために兵隊を置いて、町を生かすための最低限の人数しかこの町にはいないよ」

「……レイショウさんは無事なんでしょうか」


「もう彼のことは忘れなさい。ここで暮らしていればすぐに忘れる、私たちには時間があるからね。男が欲しいならこの町でいいのを見つけてあげよう、私らの子だっていい」

「待ってください? 町を存続させるための最低限の人数って? 地下にいた人たちは? 彼らは追放にはならないんですか? 彼らを追い出せばもう少し人が住めるはず」


「彼らも必要さ、上ではできない負傷の恐れがある危険な作業や労働時間を多少無視した働きをさせても問題ないからね。それでいて闘技場と酒さえ与えれば喜ぶのだから、彼らはほんと便利だよ」

「人道はどこへ行ってしまったのですか」


「国とともに消えてしまったよ。今や旧支配方式、ではないか。我々アルケミスト頂点を一人置き技術に革新なく停滞こそが美しさと、自由を奪い安全を与える世界になった」

「悲しい世界ですね」


「水槽の中の魚に毎日餌を寄るようなものさ。そこに人同士の殺し合いはない、我々アルケミストが徹底管理をすることでこの世の終わりまで彼らは生き続けることができる。大気汚染、温暖化、生き物の絶滅、人の活動で起きる自然破壊は止まりこの100年は改善の方へと向かっている」

「鬼は、それに怯える外にいる彼らは見殺しですか?」


「もう数十年で彼らも消える。そういう計算だ、最後には我々が作った町のみが残る、そうなることが私たちと月の彼女らの望みだ」

「チュウジョウ……?」


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