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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
1章 --終末世界に鬼が住む--
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城塞都市 8

 先ほどの大部屋にチュウジョウはまだおり、町を見せるために取り払った壁を元に戻して使用人の老人に肩を揉ませながらお茶を飲んで二人の到着を待っていた。


「おかえり、ジークルーン」


 その手にはタブレットが握られておりジークルーンたちの到着を見て銀色の液体に溶かして床へと流し床に吸い込まれるようにして銀色の水たまりは消える。

 机には先ほどはなかった銀色の塊が置かれていて、眉を吊り上げてジュンセイがチュウジョウへと近づいていく。


「私の到着が遅かったら危うくジークルーンが襲われるところだったじゃないか! 私は抗議するよ!」

「あんたは少し私のいうことを聞きなさい、感情のままに動いて気の赴くままに暴れて。しっかり見ていたよこの町は完全に我々が掌握している眼さえ届けばどこに居たってナノマシンを扱える。いつでも助けられたさ」


 遅れてジークルーンがチュウジョウの前に立つ。

 悪びれる様子もなくチュウジョウは彼女を迎えた。


「どうだった地下は? 楽しめたかな? 涙の一つでも見せればすぐに助けたんだけどね」

「チュウジョウ……レイショウさんが大怪我を負いました」


「自分の心配より先に一般人か、当然だが100年前の価値観を持ったままだな。今度はちゃんと話し合おう。あなたのナノマシンはそこに置いてあるからまずは服を着ることね。ジュンセイも落ち着いて席に付きなさい」

「流石に二度も騙されるほど自分も学習しないわけではないですからね」


「わかったわかった、ジュンセイを横に置いていていいから話を聞いてくれ。この100年のことを話そう。警戒を解いておくれ」

「いきなり襲い掛かってきた彼女を横に置くのも危険なんですけど」


 机に置かれたチュウジョウに取られたナノマシンの塊に触れてジークルーンは溶けだした銀色の液体を体に纏わせ服を作りだす。

 自分の作った服に不備がないことを確認するとチュウジョウに向き直る。


「体の方も動くようにしたよ。私らは本当にナノマシンに頼っりきりだ、戦術や武術の知識を与えられたとはいえナノマシンを失うとどれだけ我々アルケミストが無力かわかってもらっただろうか」

「もともと自分たちはナノマシンを使って戦闘の中で損傷を修復し船と同化して天翔艦を宙へと飛ばすための存在、身体強化などは反乱や艦内戦闘を想定したものではなく新技術を試すついでのようなものだったんでしょう?」


 老人にコップを返しチュウジョウの指示を受けて片付け始め、彼は台車を引いて部屋から出ていく。

 白い髪を持った金色の瞳の女性三名は席に付き向かい合う。


「そうさ、ただ船を飛ばし命令のままに方を動かす存在だったわたしたち。戦いが終わり星に降りた私たちに待っていたのは人々を襲う鬼の襲撃だった。艦長をはじめ私らの船のクルーはすぐに人々の救助に動き、その感染力の強さ殺傷力の強さの前に補給もままならず。物資のあるところに人が集まりそこに鬼がやってきて、その場は奪還が不可能な鬼の密度の濃い場所となり一か月と持たずすぐに物資が枯渇し疲弊した」

「チュウジョウはその間何をしていたんですか?」


「この町の先駆けとなる、防衛拠点の維持さ。ナノマシンは普通の建材より加工が圧倒的に楽で何より、自由に操作できるアルケミストの私たちは一人で建物を建てることができたからね。戦いの中で避難民を連れた他のアルケミストとも次第に合流していき拠点は町となっていった」

「そしてこの町ができたと」


 大机に触れると平らな机の表面が銀色になり建物の模型が生えてくる。

 プレハブ小屋の並ぶキャンプから倉庫や宿舎のある前哨基地的な物へと移り変わり、壁や金網に守られ銃座の備わった基地へと形を変えていく。


「言っただろう、すぐに物資が枯渇したと。水、食糧、生活環境など十分に用意できず衣食住で小さないさかいが町のいたるところで頻発し秩序はすぐに壊れた。あれは食料調達のために武器を持った主力部隊が出払っているときだった。書店内を自由に歩き回れることから拠点内すべての人間が私たちに武器を向けた。クルーを犠牲に助けた民間人たちの首を刎ねる感触、体は変われど今でも感触は残っているよ。なぁジュンセイ、あなたは鬼の襲撃で孤立し危険を冒して助けに行った家族にナノマシンで作った衣服の無い顔を切りつけられ首元を刺されたんだよね?」

「そんなことがあったんですかジュンセイ」


「私たちアルケミストは一人一人の役割と重大さから倒れないよう、優先的に食料と水が配られていたから。人々の不満が集まりやすかった。それと日々増える民間人に物資を振りわけかつかつの生活をしているのにどこかに食料や水が備蓄されているというデマも町の中に広がり。どんなに説明をしても理解してもらえなかった。結果として多くの血を流し建物の維持にほとんどナノマシンを使ってしまって私らは自衛しかできず、アルケミスト以外の基地に残っていた天翔艦のクルーたちは守るべき市民にやられてしまった」


「この基地はすべてナノマシンだったからどこかに手を伸ばせば武器はすぐに調達できたのでは?」

「分断されたんだよ、クルーと私たちは。だから我々は自衛し彼らが亡くなっていることに気が付いたのはあとからだった」


「人は守るべき存在、私たちアルケミストが彼らを正しく管理しなければならない。残った我々は指揮官を失い憔悴しきり保護対象に対して冷酷な判断を下すことで一致した。そしてアルケミストによる粛清と弾圧の恐怖政治が始まった」

「理解できないわけではないですけど、後半は意味わからないです。自分はもちろん皆を助けたいのですがそのようなことがあったら、わかってくれている人々と行こうとはしなかったんですか? その……外に出ている主力部隊の方とか?」


「彼らは帰ってこなかったよ。いや、帰ってきたか、すでに言葉が通じる状態ではなく希望となる物資ではなく絶望的な災いを引き連れて」

「ああ……」


「だから、力を見せつけ押さえつけることにした。のちにわかったことだが、ひどい仕打ちを受けながらも残念ながら我々は人を恨むことはできないし、敵対することもできない。私たちは守る対象に嫌われながらも彼らを生かし続けなければならない」

「どういうことです?」


「鬼の正体はアルケミストのナノマシンだからさ」

「えっ! そうなんですか!」


「破壊した月の土地に残ったアルケミスト、アンジェリカ・ヴィクトール、アケホシ・ゲッカ、ジュピター・クリスタルの弩級天翔戦艦クラス三隻と天翔巡洋艦二十隻が戦いの果てに人に失望しクルーを殺して星を攻撃し始めた」

「攻撃って」


「簡単に言えばクルーにナノマシンを撃ち込み、そのナノマシンで脳の制御を奪い最初の鬼を作って地上に返した」

「とめなかったのですか、彼女らの行動を」


「言っただろう、後で気が付いたことだと。私も他の町と情報が共有できるようになって知ったことさ。ことが広がった後で、倒した鬼の体に金属部分がありそれを調べた結果が我々アルケミストのナノマシンだったというわけさ。よその国のナノマシンを解析したといっただろう、ジークルーンのナノマシンの制御を奪ったのもこの時調べて得た技術さ」


 ジークルーンはチュウジョウの言うナノマシンが、鬼のあの爪や歯それと角のことだと気が付き暗い表情をする。

 手をかざしテーブルの上の町をすべて溶かし机の上を平坦に戻すチュウジョウ。

 ベルを作りそれを小さく振ると部屋の外で待機していた使用人たちが料理の乗ったワゴンを押してくる。


「それに町を創るため天翔艦を失った私たちには止めようがない。話をしようにも通信機をナノマシンで作ったとしてもあの時は電力設備が足りなかったし、戦いで軌道上基地が重点的に攻撃を受け通信網は壊滅、もう月への通信手段は失われていた。彼女らもこちらと話をする気はなかったのだろう。この国だけでなく他の国にも我々と同じように城塞都市を作っているという話を何十年か前に聞いた、私は連絡を取ったことはないけどね。おそらく彼女らも月への連絡は出来ていなかっただろう。さて、食事にしよう」

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