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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
1章 --終末世界に鬼が住む--
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城塞都市 4

 

 三人の目の前で茶が注がれ親受けの菓子とともに三人の前に置かれた。

 レイショウがお茶に手を伸ばすがジークルーンが腕を掴んでそれを止める。


「あの戦いからちょうど100年でまさかこんな客が来るだなんてね。残念ながら終戦一世紀記念の式典とかはやらないよ、それを目当てでここへ来たならがっかりしないでほしい」

「100年たっているのに、あなたたちの姿は変わりませんね。いくら我々が老化しにくい存在だとしても100年生きるだなんてできませんよね、クローンの体に記憶の転写を行っているのですか?」


「残念ながら、あの時代のクローンは問題点が多くてね。人の記憶を完全に移し替えるには適さなかった、研究者もいなくなり人体のクローンの研究は進んでいないよ。だから変わっていないというのはあなたの記憶違いだジークルーン・アインホルン」

「どういうことですか?」


「クローンは駄目だから自分が腹を痛めた子に私の記憶を移し替えてきているのさ、だから変わらないというのは間違っている。二代三代と世代を重ねているうちに背丈や顔つきは多少変わったよ」

「……それは人道的に大丈夫なんですか」


 チュウジョウが壁に向かって手を振れば、その壁は柱だけを残して銀色の液体となり溶けだし屋内から一転は町を見渡せるベランダへと変わった。

 吹き込む風を受けアルケミスト二人の銀色の髪が揺れる。


「駄目だろうね、その子の記憶を完全に上書きしている。私は自分の子を殺してその体をもらっている、これが正気ではない理由の一つだ」

「もう一つはなんですか」


「そう焦るな、昔と違って一分一秒が惜しい時代じゃない。知りたいことはゆっくり教えていってやる」

「知りたいんです、戦いはどうなったのかを、自分のいた時代にはいなかった鬼とは何かを、どうして自分は戦いに参加できなかったのかを」


 ジークルーンが尋ねるとチュウジョウはそれにこたえる前に湯気を上げる湯呑を掴み啜る。


「美味い、やっぱりあんたの入れるお茶が一番だよ」


 老人はありがとうございますといい頭を下げた。


「彼はこの体の母親の父親でね、ほらどことなく目元が似ているだろう? 自分で前の自分を母親というのにももう慣れてしまったな」

「そうですか、娘も孫も失ってこの方が辛いとは思わないのですか?」


「もともと私との婚約はそういう約束だからね、それに今までの私はそれぞれ子供は他に数人ずつ産んでいるよ。後で最近生まれたこの体の子も見せてあげよう。さて、ジークルーン、この町を少し見て回ったのだろう、この町はどうだった?」

「町の中の様子はまだ何とも、外と違い町の中は衣食住がそろっていて安全そうだとは思いましたね。まさかあなたがいるとは思っていませんでしたけど」


「この城塞都市を囲う壁は見たか?」

「赤黒くて血や錆びのようなあれですね。天翔艦が使われていることだけは遠目から見て薄っすら気が付いていましたけど、この大きさの町は一隻でできるものじゃないですよね?」


「その通りこの街は245打撃支援艦隊の生き残り巡星、宙城、恒河、彗連、銀流、昴星の船体を使って作り上げた」

「6名、あなたとジュンセイ以外の残りの皆はどうしてここにいないのですか?」


「もうこの町にいるのはジュンセイと私だけだ、後の4名は記憶の転写装置を使うことなく希望も未来も発展も終わりもない世界を私らに託して家族を作り天寿を全うして逝ったよ、私ほどには狂ってはいなかったのだろうね」

「そうですか、ですがここで知り合いに会えてよかったです。この100年のこと、鬼についてのことを話してもらえますか。どうして月に勝った自分たちの生活がこんなことになってしまったのか」


「長く退屈な話だよ」

「聴かないと自分は前に進みません」


 町を眺めチュウジョウはお茶を啜る。


「外にいたときに鬼を見たことはあるかい?」

「ええ、目覚めて半時もしないうちに出会いましたよ。後ろの彼、ヤソウレイショウさんに簡易的な説明を受けました。元人でゾンビのように歩き回っているのだと」


「ゾンビか、確かにあれのことを良く知らなければそれが一番当てはまる言葉だ」

「今の世界では鬼と呼ばれているんですよね、頭にある角、深海魚のようなトゲトゲの歯や鎌の様な爪を持っていた」


「えらく硬かっただろう?」

「ええ、自分の武器が弾かれるほどの硬度で、まるであの部分だけチタン合金の様でした。あれがなんだか知っているのですか?」


「まぁ、そうだね。私らもあれは調べたよ100年もあったんだ、鬼についてあらかた調べつくした。いろいろ分かったこともあるよ」

「教えてください考えていたんです、ただ人を狂暴化させるウイルス兵器ではあの角や爪は説明できません。あれはまるで……」


 お茶を飲み干しお代わりを要求するチュウジョウ。


「それを伝える前に聞いておきたいジークルーン。この世界をどう見た?」

「自分はまだ何も言える状態ではありません」


 湯呑を置きチュウジョウはジークルーンとレイショウを見ると、彼女はテーブルに肘を置き頬杖を付いて足を組む。


「さて準備もできた」

「何のですか?」


 チュウジョウが手をかざすとジークルーンの着ている服に亀裂が入り割れた部分が銀色に溶け始める。

 突然のことに驚き椅子から立ち上がると彼女の着ている服は割れて肌から離れ床に落ちて銀色の水たまりへと変わった。


「100年もあったんだ、こうやってパターンを解析し他国のナノマシンの制御を奪うこともできるようにもなるさ」

「なっ!!」


「身体の力も入らないだろう? 体内の身体強化の制御を奪ったから今のあなたはただの人と変わりはない」

「あなたもイカレていたか」


 銀色の水たまりを足で踏み床に手をかざすが何も起きない。


「あの時は戦いで私たちは目的のためにただ戦ってきていたが、私らが守ろうとした人というものがどういうものかを教えてあげようとね」

「どういうことですか?」


 席を立ち後ずさるジークルーンにレイショウが慌てて駆け寄り上着を脱いで彼女に羽織らせた。

 客人二人が一か所に集まったところでチュウジョウは床を溶かして下の階へと落とす。


 足場を失い二人はどうすることもできず落下する。

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