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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
1章 --終末世界に鬼が住む--
11/102

町へ向かう 3

 

 鬼と戦っていた六名がトラックのもとへとやってきて鉄が積みあがる二台へと乗りあがった。

 建物の中からも奴らが集まってきてたまらずレイショウが声を上げる。


「みんな乗った。もう出発するぞ! ジークルーン!」


 刺股を衣服に戻しジークルーンが助手席へと戻ってきた。

 助けた探索者が運転席の後ろを叩いて叫ぶ。


「待ってくれ、まだ二人いるんだ!」


 辺りを見待たせば建物の中から二人が出てくる。

 レイショウはトラックを後ろ向きに走らせ残った二人の方へと向かう。

 最後に先に建物へと逃げた若い二人の回収しトラックは全速力でその場を離れる。


「あー、死んだかと思ったぜ」

「ありがとうございますレイショウさん。逃げずにいてくれて、おかげで全員を助けることが出来ました」


「いつもより鉄の量が少なかったから、加速も早かったのが良かった」

「危険な目に合わせてしまってすみません」


「もうあんなことはやめてくれよ」

「それはできません。自分は一般人を守る存在として生まれたのですから」


 鬼が集まってきた場所から大きく離れ、探索者たちの村の場所を聞いてその村の近くへと車両は向かう。


 探索者たちが下ろすのはこの辺でいいという言葉を聞いて、トラックは廃墟の真ん中で停車する。

 停車すると探索者たちはトラックの荷台を降り、何名かは近くの大きな建物へと走り廃墟のどこかにある彼らの村へと戻っていく。


「だいぶ時間がかかったな、早くしないと帰りが夜になるかもしれない……。宿泊は高いからできればすぐに買い物を済ませて出ていきたいなぁ」


 レイショウは太陽の位置を見ながら小さなため息をつく。


「レイショウさん、自分少し出てきます」

「待ってくれ俺も行く」


 助手席に座っていたジークルーンが降りていき、レイショウも大きな座席の下の置いてあった折り畳みのナイフをポケットに入れてトラックを降りる。

 先に降りたジークルーンは探索者のリーダー格の大男へと話しかけていた。


「ありがとう、おかげで助かった」

「いいえ、当然のことをしたまでです」


「もうだめかと思ったが、こうしてみな無事に村へと戻れたのは君らのおかげだ。ありがとなじょうちゃん」

「皆が無事でよかったです」


「よかったら村に寄っていかないか、お礼がしたい」

「自分たちは急いでいるので、すぐに出立します」


「そうか、本当にありがとう。近くを寄ったときは尋ねてくれ」

「ええ、機会があればそうさせていただきます」


 ごつごつとした手を差し出されレイショウとジークルーンはその場に残った探索者たちと次々と大振りな握手をする。


 背中を叩かれながら最後に助けた若い二人が前に出される。

 一人はジークルーンの顔を見て顔を赤らめながら手を差し出した。


「あ、ありがとうございました。このご恩は忘れません」

「自分の仕事ですから」


 若い二人のうちの一人が握手をしていると、隣にいたもう一人が突然血を吐いて倒れた。

 口を押える手の間から割れた歯がポロポロと零れ落ち血とともに地面に落ちていく。


「あ、がっ、アア!! ぐっ、がっがッがっ! ああああアぁぁ!」

「どうしたんですか!?」


 その声を聴いてその場にいた皆が彼から距離を取るように離れ、レイショウに手を引かれ心配するジークルーンも引き離される。

 遅れて彼の指の爪の下が血豆のように黒ずんでいくのが見えた。


「ア、ガァァ、いやダ。イタイイタい!!」

「感染していたのか、糞! せっかく助かったってのによぉ……」


 探索者の一人が近寄りながら血を吐き倒れる若い男へと向かって斧を振り上げる。


「待ってください!」


 レイショウに強く手を掴まれ振りほどくの時に間のかかったジークルーンの言葉もむなしく若い男へと向かって斧が振り下ろされた。


「親になんて言ってあやまりゃいいんだ……」


 首の帆へを破壊し若い男が静かになり動かなくなるのを確認すると、その場にいた探索者とレイショウは手を合わせ黙とうする。


 ジークルーンはその光景に理解が追い付かずただ死んだ男を見て立ち尽くす。


「なんなんです……」


 暗い空気のまま別れを告げトラックは探索者たちと別れ城塞都市を目指し走り出した。

 再び静かな廃墟るトラックの助手席でジークルーンはぽつりとつぶやく。


「……感染してすぐなら、助かるんじゃないんですか?」

「薬が効くのは傷を負った最初の段階だけだ、変化が出たら助からない。助けたいのはわかるけど変化が起きてしまったら手遅れなんだ。あいつはすぐに薬をもらうべきだった、薬は高価で村に大きな貸しを作って家族に迷惑がかかるとしても命には代えられないから」


「……よくあることなんですか」


 運転をしながらポケットに入れていた折り畳みナイフを元の場所へと戻す。


「どうして武器を持って降りたのですか」

「もしものためだ」


 今回は感謝されたが人によっては鉄屑の乗った車両を奪おうとしてくる可能性もあった。

 ジークルーンには伝えなかったが。


「……知らないことばかりです」

「役に立たなくてごめん」


「謝るのはいいです、教えてください」

「わかった……」


 移動中、時折奴らと遭遇するがそれは使わない細い道や遠い道の先で、トラックが先に見つけては奴らが両手を広げて走ってくる前に迂回する。


「見えてきた、あれが城塞都市だ」

「どれですか?」


 迂回している道の途中廃墟のビルの合間からちらちらと見える赤黒い鉄の壁。

 鉄の壁の周りには鉄の杭や有刺鉄線などが張られ、壁には銃座や砲台の姿が見える。


「すごいだろ、あれぐらいしないと奴らから身を守れないとはいえ遠くからでもその堂々とした存在感。村長が言うには奴らが現れ始めてから作られた最後の楽園なんだそうだ」

「あの砲台、天翔艦の飛来物に対する迎撃機銃の……? それにこんな大きな巨大建築ができるだなんて」


 巨大な壁の上に載っている砲台を見てジークルーンは首をひねった。


「もうじきつくよ、もしかしたらそこでお別れになるかもだけど会えてよかった」

「お別れには早い気もしますけどね」


「向こうに付いたら手続きやら検査やらでごたごたして、お別れを言う暇もないだろうから」

「そうなんですね?」


 城塞都市に向かうため大通りの角を曲がるとそこには多くの人が倒れていた。

 広い道のいたるところに倒れるそれを見てトラックはブレーキを踏む。


「人か? いや、奴らか、夜中に襲撃でもあったのか返り討ちにしたみたいだけど」

「夜は動かないって言いませんでした?」


「さっきも言った夜に動いている奴が建物で隠れている奴らを呼び起こすんだ、すると軍勢を作って押し寄せてくる」

「鬼は昼間にいるのと夜にいるのの二種類がいるんですね?」


「そうそう」

「で、夜は数が少ないけど朝より危険なやつがいると。そいつは夜間は動かない鬼も起こして襲ってくると」


「それであってる」

「ここにきてようやくちゃんとした情報になってきましたね。これはまだまだ知るべきことが多そうです」


 トラックが止まっていると城塞都市の方から消防士の様な厚手の服を着た人がやってきてトラックに向かって手を振った。

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