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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
1章 --終末世界に鬼が住む--
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町へ向かう 2

 村では城塞都市に行く準備が進められていてジークルーンはレイショウに尋ねる。


「さて今日ですよね」

「ああ、準備はできたし外の安全確認が出来ればすぐに出立できる」


 二人は村の出入り口であるバリケードの前へと向かっていた。

 村についてから数日たち白い髪は目立ち視線を向けられることから、彼女はフード付きの迷彩服を着てさらに帽子を被って長く白い髪を隠している。


「しかし、あれ以降自分は特に何も言われてませんね」

「特に問題を起こさなければ何も言われないさ、ジークルーンは美人だし」


「レイショウさんが自分の監視をしているからでは?」

「まぁ、それもあるかな。他の誰にもこの役割は任せられないし、俺がずっとジークルーンと一緒に居られる」


 バリケードの前に鉄屑が積まれたトラックが止まっている。


「やっぱりまだ早かったな、半分くらいしか載ってないか、もう後一週間あれば山にはできたなぁ」

「場所さえ教えてくれれば一人で行くので、自分の予定に合わせてくれなくてもいいのですけどね。あれで行くんですか?」


「ああ、そうだ。さすがに奴らの居る場所を大荷物抱えてみんなで歩いてはいけないからな。町までの道は瓦礫も撤去してあるし奴らが道にいても車はとても追いつける早さじゃないからな」

「やっぱりこれで道にいる鬼を撥ねたりするんですか?」


「いいや無理だ、奴らは固いし下手すると爪で車体を傷つけられて壊される。動く車両はすごく高いし数里もかなりお金と時間がかかる、できるだけ避けて走って移動してる」

「そうですか、それはまた荒っぽい運転での旅になりそうですね」


「準備もできたみたいだし、予定よりすこし早いけど行くか城塞都市に」

「いいんですか予定通りじゃなくて?」


「いつ出発しても奴らがいるときはいるからな」

「鬼は夜行動しないって言ってましたよね? 夜は行かないんですか?」


「ほとんどのやつは夜になると建物の中でじっとしているけど、中に入るんだよ夜に行動するやつも。そいつに会うと助からない」

「また新しい情報ですね。まったく困ったものです」


 レイショウが運転席に乗りジークルーンが助手席に座りシートベルトをつけると、そこへミカドがやってきて運転席の窓を叩く。


「ミカド、もう出発の準備は出来てるでいいんだよな?」

「いや、少し待ってくれ。外を見に行った奴らからは安全の指示が出てるけど、まだ買い出しの紙をみんなの分集めきってない」


「わかったけど、どれくらいかかりそう?」

「今急いでとりに行ってるから戻ってきたらすぐにでも行けるはず。バリケードも鎖を取りはってもう開く」


「わかった。それじゃぁ、またハジメのことは頼んだ」

「ああ、任せとけちゃんと無事に戻って来いよ」


 ジークルーンはボロボロの車内を見回しレイショウに尋ねる。


「やっぱり自分がいたころとあまり技術に進みがなかったんですね。ところで城塞都市にはどれくらいで着くんですか?」

「奴らに出くわさなければ車で一時間もかからないからすぐ着くよ」


 村の奥から走ってきた村人がレイショウに分厚い髪の束を渡し、紙をダッシュボードに入れるとトラックを発進させた。

 バリケードの扉が開かれ車両は村人たちに見送られ暗いトンネルを進み表に出る。


「日の光は眩しいな」

「そうですね、ずっと地下にいましたからね。でもやっと日の下に出られました、空気もよどんでいなくて眩しくても日差しが気持ちいいです」


「そうなんだよな、それだからハジメも」

「ぜんそくの様でしたけど、薬で治るものなんですか?」


 トラックは川沿いを走り途中で坂を上がり出て上の道路へと上がり廃墟の街へと向かう。

 道路も長い時間を経て劣化しひび割れそこに草木が生えている。


 車両は死角の多い細い道ではなく多少の瓦礫があっても余裕をもって躱せる広い道を進む。

 虫の声も鳥の声も聞こえない静かな道中をレイショウは鬼と出くわさないように周囲に気を配りながら車両を走らせた。


「ジークルーンもよかったら奴らがいないか探してくれ、うっかり撥ねてタイヤをパンクさせられたら困る」

「ええ、見ていますよ。そういえばレイショウさんはすっかり自分のこと呼び捨てですね」


 不気味なほど静かな町をトラックは走り同じように辺りを見ていたジークルーンが尋ねる。


「大きな通りなのに車などはないんですね」

「俺が小さいころからこんな感じだったけど、昔はこの廃墟も車がたくさんあったらしいな。大半は解体されて城塞都市に運ばれていったんだと思うけど」


「その城塞都市というのは金属だけを集めているのですか?」

「ああ、そうだな。いろんな金属をただひたすらに集めている」


「なんでだかわかりますか?」

「壁を強化するんだと思うけどわかんねぇな、考えたこともない」


 どこかレイショウたちの近くで廃墟に大きな音が響いた。

 音はトラックの走っている場所に近く通りの交差点から音の発生源が見える。


 大きなリュックを背負ったボロボロの服を着た八人の探索者が、背負った荷物を捨てて鉈や手斧を構え廃墟の影から襲ってくる鬼に向かい合っていた。

 彼らは若い二人を建物の中に逃がし数の増える鬼を食い止めようとしている。


「他の村の人間か。奴らに見つかっちまったようだな、あの数は……助からないだろうな。ここから離れよう。いったん戻るここは危ない」


 交差点の近くならトラックで助け出すこともできたが、彼らは曲がった道の先にいて倒れた建物のがれきの上で戦っているため車両が接近できない場所。


 目を伏せ車両を発進させたレイショウにジークルーンは声を荒げて止めた。


「待ってくださいレイショウさん。自分は彼らを助けます、下ろしてください!」

「やめておけって、最初に会ったとき三人でも手こずっていただろう。それに俺らにも聞こえた大きな音が鳴っただろうすぐに数が増える。俺らまで危険になる」


「ならここでお別れです。彼らを助け自分は彼らに城塞都市の場所を教えてもらいます」

「うぅぅ、わかった。彼らを助けたら、また一緒に来てくれよ」


 トラックはUターンをし直し鬼に襲われている探索者のもとへと戻る。

 瓦礫で通れなくなる場所ぎりぎりまで近寄ってからジークルーンを下ろし、車両は小さくクラクションを鳴らし鬼と戦う探索者たちに存在を知らせた。


 音を聞き何人かが振り返り奴らと戦いながら瓦礫の山を下りてトラックへと向かってくる。

 音を聞いたのはお飲み一緒で、クラクションの音で一瞬鬼の動きが止まり逃げていた人たちが安全に逃げる時間を稼いだ。


 瓦礫の山を登っていったジークルーンは刺股を作り鬼をひっかけると、ナノマシンで身体を強化し持ち上げ力任せに投げ遠くへ飛ばす。

 奴らは音を聞きつけすでに鬼は八人ほどが集まってきており、探索者が斧を首に叩き付け二人ほど倒すがすぐに廃墟の影から五人現れた。


「助かったが、切りがないぞねーちゃん、斧はあるか? 首を落とせ」

「自分は大丈夫です、早くトラックへ逃げてください」


 そういって鬼を遠くに投げ飛ばし集まってきた他の鬼へとぶつける。


「怪我しても痛みを感じていないようですね、本当にゾンビの様でっ!」


 瓦礫の上にいたすべての鬼を逃げながら斧で首を刎ねて殺すかジークルーンが刺股で投げ飛ばすかして、大きく探索者たちから遠ざけたことを確認するとジークルーンも瓦礫の山を下り始める。


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