5
――坂本くんの"卒業を待つ"ことになるのは一日千秋の思いではないのかい?――
そう言われ、斎藤は心の中で動揺した。
――どこまで知っているのか。
――恋人になれるだろうという根拠は?
様々な考えが巡る。しかし頭の中が整理される前に次の言葉が続いた。
「異性との交際禁止なんて烏滸がましいことだとは思わないかい?」
「…は?」
「他人を好きになるという気持ちを校則ひとつで抑圧されることはあってはならないことだと僕たちは考えている。短い青春時代、勉学やスポーツに励むのはとても褒められたことだ。でもこと恋愛に関しては否定的な意見が多い。なぜか。」
カエルはそこで言葉を切る。
――訊いているのだろうか。
斎藤はしばし考えるも、当たり障りのない答えしか出てこなかった。
「恋愛にうつつを抜かすことで、勉強が疎かになる…から?」
「そう、皆大体そう言うんだよ。でも両立できない前提で話を勝手に進められるのは癪に障らないかい?」
「…それが、結び屋が校則を破ってまで行う活動理由なんですか?」
「うん。間違いじゃない。大人たちが言う、今の時期が人生を大きく左右するということはもちろん理解しているよ。でも恋愛が人生にとってプラスにならないなんてことはないはずだ。」
尚もカエルから言葉が紡がれる。
「青春は、今青春を生きている者たちのものであり、誰かに縛られていいものではない。それに斎藤さん。君もこっち側の人間じゃないのかなっと思って。」
――確かに。仮に俊くんの方から告白を受けたとすれば断らない分、結び屋寄りの考えなのは否定できない。
――誰にも好きな人との時間を邪魔されたくはない。校則なんて関係ないと――。
「手伝いたいと言ったのはそれが理由。僕たちの目的は在校中のカップルを増やして、校則を撤廃させたいわけさ。」
「…学校を変えるなんて大それたこと考えているんですね。」
「不可能だとは思ってないよ。先生はもちろん風紀だとか、問題は山積みさ。でも君を“人柱”にすることはないと約束する。」
目的を達成するための駒としか見られていなかったらどうしようかと考えていた斎藤は、その一言でひとまず安心することができた。
一呼吸置き、最後の質問を問う。
「結び屋は対価を要求してくると聞きましたが?」
「僕たちはこうした活動を続けて実績と味方を作ることが当面の目的であって、特段報酬を貰っているわけではないんだ。敢えてそういう噂を流してはいるけどね。」
――生徒が押し寄せないように、ということだろうか。それにしたって――。
「依頼の仕方もわからないというのは…。」
「クライアントはこちらから探しに行くスタンス。信頼できるか否か、その人の人となりを理解していないとそもそもこの計画は話せないし、協力関係を築けないからね。」
「それてクライアント…なんですか?」
「そう思うよねぇ…、実際コラボレーターっていうのが正しいんだろうけど、一応依頼も受けているしってことで。…さて、まだ質問はあるかい?」
さっきので聞きたかったことは全部聞いた。実際は今後の結び屋の動きを知りたいのだが、信頼は
してくれているとはいってもそれはこちらが協力関係にならなければ話してはくれないだろう。
斎藤は首を横に振って答えた。
「では、斎藤美園さん。君の結論を聞かせてくれるかい?」
――――。