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3

坂本の事を意識しだしたのは、物心がついた頃からになる。その時はあくまで意識、好意というだけであって、そこに恋愛感情というものは存在していない。思春期特有のもの、幼馴染みだから贔屓目で見ているだけ。そのような言い訳が自分の中で通用しなくなったのはあることがきっかけだった。


中学一年生の冬だったと記憶している。

同級生に誘われて陸上部に入部したはいいが、ほぼ一年間練習に没頭するもなかなか芽が出ずにいた。

並みの体力と瞬発力しかない自分には何ができるのか。悩んだ斎藤は主に取り組んできた長距離から一念発起し、種目転向を考えた。

部長や顧問に相談して、走り幅跳びと高跳びの練習を軸にメニューを組んでもらう。が、走ることだけを追求してきた斎藤にとってそれはとても難易度が高く感じた。

砂場に尻餅をついては、はたまたバーを落としてはひどく落ち込んだ。

その時だ。坂本から意見というか、感想をもらったのは。


「綺麗だな。」

「え?」

「綺麗に跳ぶなぁって。宙に浮いてる時間が長く思えるよ。泳いでるみたいだ。」


久々だった――。幼馴染みというのを周囲に知られたくない思いから、同じ部なのにも関わらずそれとなく距離を置いていた斎藤に坂本は声を掛けてきたのだ。

アドバイスでもなんでもない、ただの感想。でもそれは斎藤にとって心に響くものだった。


人が恋に落ちるのに必要な過程などない。些細なことで惹かれ、気が付いたらその相手のことだけを考えている。



――好き。



気持ちを認識したあとの行動は早かった。元から待つのは苦手なタイプなのだ。

やらないで後悔するよりもやって後悔した方がいい――を持論としている斎藤は、自分が二年生に上がる前に告白することを決意した。


――そして、作戦決行当日――。


友達の助力もあり、部活後に二人きりで帰れるシチュエーションをなんとかしてつくったのだ。


「…ねぇ、アイス買ってかない?」


しかし、なかなか踏ん切りがつかない。苦し紛れに道すがらそう提案したところ坂本は二つ返事で了承してくれた。


買い物を済ませたコンビニの前、会話もなく棒アイスを食べる。

言葉数が少ないのは仕方がない。照れ臭いのもあったがなによりも二人きりなのが久々すぎたのだ。

だが、この時間も有限ではない。――意を決して口を開く。


「あのさ。」


が、先に発言したのは坂本だった。


「な、なに?」

「俺さ、青麗に行きたいんだ。」

「青麗!?」


唐突な逆告白により声が上ずった斎藤。今さっき言わんとしていたことが一瞬にして頭の片隅に追いやられてしまう。


今の坂本の成績に関しては詳しくは知らなかったが、青麗が難関だということはよく知っていた。


「俊くん、そんなに頭よかったの?」

「どういう意味だそりゃ。…まぁ、平均ちょい上ぐらいだよ。あと一年根詰めるしかねぇな。」


――勉強に集中するということは…。


「部活は…?」

「陸上はやめねぇよ。両立して受かるような高校じゃあないのはわかってるけど、やるだけやってみようかなって。」


それを聞いて少しホッとした斎藤だが、そこでようやく頭が整理され思考が回りはじめる。


――これってもう遊んでいる暇なんてないってことだよね。

今告白してもそれを理由に断られるのはほぼ確定…。


余計なことを考えさせて坂本のやりたいことの妨げになるのだけは、一番望んでいない。

この日斎藤は、頑張ってね――と声を掛けるだけにとどまった。



後に青麗について詳しく調べてみたところ、思っていた以上に校則の厳しい学校だと判明。卒業後の告白を考えていたものの、それも実行に移せなかったのだ。




そして、三年後の現在。二人して青麗に入った今も想いは伝えられずにいた。


原因のひとつとして、――不純異性交遊の禁止――これがネック過ぎた。

不純じゃなければいいんでしょ。などという考えは坂本にはないだろう。

妙に真面目で、堅物なところもよく理解している斎藤だった。



最後にため息を吐いたあと、重くなった腰を上げる。

今の心境は微妙だ。嬉しさと憂鬱、半々ぐらいだろうか。

とりあえず今は校門で待たせてしまっている坂本と合流しなければならない。


部室を後にし、ドアに鍵を描けようとしたところ――。


――紙?


一枚の紙が落ちていることに斎藤は気付いた。

手にとってみると、カエルの可愛らしいイラストが描いてあるメモ帳の切れ端のようだ。


――こんなのさっきあったっけ?


悪いとは思ったが、落とし主は誰かと内容を確認する。

裏返すと、そこにはこう書かれてあった。



あなたの恋、成就させます。

――結び屋――

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