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プロローグ 2

生徒会室――。月に一度、委員会を含めた者たちで会議が行われる。

広さはクラスの教室の半分もないにも関わらず長机がロ型に並べられ、PCやコピー機は空いたスペースに。戸棚には過去の資料がファイリングされたものがところ狭しと積み重なっており、隙間さえ見受けることはできない。

そこに役員は勿論、各委員長を含めた総勢20名ほどがすし詰め状態で座っているのだから、圧迫感は皆が感じていることだろう。


(早く終わってくれ…。)


これが参加者の共通認識だった。


「――はそれでお願いします。他に何かある人は…。」


そう発言した人物――佐久間春臣(さくまはるおみ)――が生徒会室を見渡すが、誰も手は挙げないし、声も出ない。


二期連続で生徒会長に就任した佐久間はミスター青麗とまで評されている。全国模試一桁の常連、スポーツをやらせれば、部に所属している者以上の成績を叩き出す。神童、天才――と。

あまりやる気の無さそうな目(最近ではジトと揶揄されるのだろうか)を除けば端正な顔立ちでもあるため、天は二物どころか三物を与えたもうたとまで言われているが、本人をよく知っている者はなぜか渋い顔をする。


佐久間はそれほど間を置かずに締めへと入った。


「ではこれで今月の月例会議を終了します。お疲れさまでした。」


我先にと席を引く音が響くも、この狭さだ。背もたれが壁に密着してしまうため、ドアに近い者から順に出ていかないといけないため渋滞が発生する。


佐久間は出ていく最後のひとりを見届けると盛大にため息を吐いた。


「いい加減、この部屋も改築してくれないもんかね。」


机に頬杖をつきながら愚痴る。先ほどの威儀のある装いはどこへやら、完全に疲れ果てだらけきった顔がそこにはあった。

見据える相手は会計を担当している舘川李未(たてかわりいみ)だ。


「そんな目で見たって生徒会室のリフォーム代なんて捻出できるわけがないでしょう。学校に言ってよね。」


一刀両断――。剣道をしている舘川に言われればまさにその言葉が似合っている。

一重だが鋭すぎない眼光に姿勢の良い立ち姿。長すぎず短すぎない髪を後ろで纏めたポニーテールが彼女の特徴だ。――凛――。彼女を一言で表すならこれ以上に相応しいものはないだろう。


容赦のない返しに首をすくめる佐久間。

別に佐久間も本気で言っているわけではない。舘川の方から顧問などに掛け合ってくれないだろうか、という淡い期待を込めて言ってみただけである。見事撃沈したわけだが――。


だよなぁ。と今度は突っ伏した佐久間の横を副会長である相葉紗希(あいばさき)が通り抜けて行く。

清潔感のある石鹸のような香りが仄かに近くにいる者の鼻をくすぐる。

一度も染めたことがないだろう腰まである自然で艶やかな黒髪には誰もが目を奪われ、本人の柔らかな物腰も含めるとまさに大和撫子を体現しているといっても過言ではないだろう。


相葉はどうやらドアの鍵を閉めにいったらしい。

カチャリという音が室内に響いた。


「…さて、では"裏"月例会議を始めていいか。今月の初めから――。」


間を置いて広報委員長、烏丸文弥(からすまふみや)の第一声でそれは開始された。

常に無表情であり、冷静沈着、呆然自若を地でいく烏丸。根暗そうな雰囲気を醸し出してはいるものの顔立ちとしては整っている方である。掛けている瓶底眼鏡がまたそれを台無しにしてしまってはいるが…。

因みに彼は委員と新聞部、アマチュア無線部を掛け持ちしている。


烏丸はPCに向かいながら抑揚のない話し方で、現在校内に流れている噂に関することを淡々と述べていく。

簡単にまとめると結び屋という組織が恋愛を成就させてくれるようだが、詳しいことはわからない――と。


「うんうん。うまく広まってくれてるみたいだねー。」


そう発言するのは椅子の背もたれを前にして座る少女。体育委員長の近藤鈴(こんどうすず)だ。

快活そうな声、仕草、格好から本人のバイタリティの高さが窺える。陸上をしているせいもあってか肌も程よく焼け、女子にしては短い髪もよく似合っている。


「それにしても結び屋、ですか。可愛い名前で呼んでもらえてよかったですね。」

「もっぱら、ひばり辺りでしょ。そんな名称つけたの。」


ふふふ、とお淑やかに笑う相葉。それに舘川は冷静に返し、答え合わせの意味を込めて烏丸を見る。


「ああ、そうだ。」


――逆井(さかい)ひばり――。現在ここにはいないが烏丸の所属する新聞部の部長であり、"裏"の活動をこの5人以外に知る唯一の人物である。彼女の情報網にかかれば青麗の生徒及び教師の秘密なぞ無いも同然とまで言われている。生粋のジャーナリストだ。

5人でスタートした今回の活動ではあったが、こいつにはどうせバレると先手を打って協力を仰いだのは佐久間である。今では噂の情報規制、反対に提供などを行ってくれている。

本人曰く、面白そうだから――だそうだ。


「仕事が早いことで。でも、いいんじゃないか――結び屋。」

「あたしもさんせーい。」

「裏生徒会よりはマシよね。」

「私も賛成です。」

「異議なし。」


佐久間のあとに近藤、舘川、相葉、烏丸が肯定の意で挙手をする。

それを見て佐久間は勢いよく膝を叩いた。


「よし、裏生徒会改めて結び屋の発足といくか。活動内容は変わらないが、今後はもう少し噂が落ち着くまで待ってから動くことになると思う。あとクライアント候補になりそうなやつは各々目星を付けておいてくれ。――何かあるやつは…。」


佐久間が締めに入るため一呼吸置く。ここでも意見、質問等は出ない。

ただ、皆の顔は――模範生徒――へと戻っていた。

先ほどまで校則に真っ向から対立する活動を話し合っていたとは思えない。切り替えの早さと、ジャンルは違えど青麗の代表とも言うべき面々がこのようなことをしていることに今更ながら佐久間は苦笑が漏れそうになる。


「――解散。」


――後に青麗始まって以来、最も波乱に満ちていたと伝えられる一年間が始まるのだった。

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