第8話〜腹が減っては戦は出来ぬ〜
「それじゃ行きましょうか。」
ん〜! と気持ちの良さそうな声を出してリサは身体を伸ばす。
俺も身体を伸ばそうと両手を上げようとしたところで、ぐぅという間抜けな音が聞こえた。
自分の音だと思って慌ててお腹に手を当ててみたがどうやら違うようだ。よく考えたら朝食はしっかり食べて家は出たし、腹はそこまで空いていない。
「っ!」
真犯人は顔を真っ赤にしてお腹を押さえ、弁明を始める。
「し、仕方がないじゃない! この2日間まともなものなんて食べてないんだから! 食べられそうな野草と水ぐらいしか口にした記憶がないわ…。」
ひ、悲惨すぎる。何か食い物があれば分けてあげたいくらいだが、今の俺にはそんなものは…
「いや、あるじゃねぇか! 母さんの手作り弁当が!」
俺はエナメルバッグをゴソゴソして目的の物を取り出す。
近くに座れそうな石を見つけたので、そこに腰を下ろす。横をポンポンして、リサにこっちに来るように合図する。
リサがちょこんと腰を下ろしたところで俺は高らかに宣言する。
「よし、ここで飯にしよう!」
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とまぁ、弁当箱を取り出すまでは良かったのだが…。
「ゴメン、母さん。盛り付けとか頑張ってくれたんだろうけど、見るも無惨なことになってますね…。」
あんな上空から落ちて弁当箱の中身が崩れないはずがなかったのだ。
卵焼きは唐揚げに潰されてるし、ご飯にはレタスにかかっていたドレッシングやら何やらが色々とかかりまくっていた。
この時ほど俺は二段式の弁当箱にしとけばよかったと後悔したことはない。
一応、食べられないこともないとは思うのでリサに勧めてみる。
「み、見た目より味が大切だから! 人間も食べ物も中身が大事!」
リサは何か言いたげな顔をしていたが、黙っている。その様子は、お預けを命令されている子犬のようだ。
「どうした?遠慮せず食べていいぞ。」
俺がGOサインを出してやると、箸をグッと握りしめ唐揚げに思い切り突き刺した。
箸の持ち方は今度教えよう。
唐揚げを口にすると、プルプルとリサが震え始めた。
「えっと…口に合わなかったかな?」
異世界人にこっちの料理が合うかなんて分からない。俺は、異文化の食事交流でお刺身が合わないなんて言ってる外国人を思い出して少しドキドキする。
「美味しい! この噛んだ瞬間に、中から肉汁が溢れて口の中から唾液が分泌される感覚。歯ごたえのある食感。そして、この肉を包んでいるものとかかっている調味料も凄いマッチしてるわ!」
「なんか急に食レポ始めちゃったよ、この人。」
そんな感じで残りの分もブツブツ言いながら、リサは美味しそうに全て平らげた。
「うん、とても美味しかったわ。優太のママは一流シェフね!」
「一流シェフは言いすぎだと思うが、ありがとう。お気に召したようで何よりだ。」
「今度はグチャグチャじゃなく、冷めていない出来立てのものを食べさせてよね!」
俺は水筒のフタを外し、それに麦茶を注いでリサに渡す。
満足そうな顔でお腹をさすっているリサは本題を切り出す。
「あ、そういえば! 優太の職業とかステータスとか何も見てなかったわ。ちょっと今から覗くけど、いいわよね?」
リサはローブのポケットからゴソゴソと目的のものを探す。
取り出したのは、懐中時計のような形をしたものだった。その蓋を開け、そこについている照準器のようなものを俺に合わせる。
しばらくすると、あのモニターに映し出された俺のステータス画面が蓋の中身のプロジェクターから投影された。
「凄いもんがあるんだな。それで敵の能力とかも読み取れるのか?」
「まぁ、モンスターにやったところで職業もステータスもないから意味はないんだがな。」
リサが投影されたステータスを見るのに集中していたので、代わりにグレンが答える。
上から順番に見ていたリサが突然目を丸くした。俺とステータス画面を3度見くらいしてから、こう叫んだ。
「アンタ、勇者だったの!? ちょっと待って、理解が追いつかないから。え、本当に? 勇者なんて絵本の中だけの話だと思ってたけど…。」
「マジで勇者になれる奴って少ないみたいだな。」
「だから、私が最初にそう言っただろうが。」
お前だから信用に欠けたんだよと喉まで出かかったがグッと抑えた。
「だって、今までこの世界に勇者に適合する人は一人もいなかったのよ!? まさか、異世界転生者から勇者が出るとは…。もしかして、それが優太の祝福ってこと?」
祝福という聞き慣れない単語に首を傾げていると超ドヤ顔でグレンがリサに言い放つ。
「優太の祝福はこの私。ガイドピクシーであるグレンちゃんなのです! 勇者は優太の正真正銘の実力よ。」
グレンの言葉を聞き、ようやく俺=勇者という式が成り立ったのか急に珍しそうな顔でジロジロとリサは俺を見始める。
ニヤリとグレンがまたロクでもないことを思いついたような顔をした。
「じゃあ、次はこっちのターンだよね? さぁ! リサちゃんの恥ずかしいプロフィールまでさらけ出しちゃいましょー♡ ステータスおーぷん☆」
アホみたいな掛け声をかけ、グレンは俺の目の前にリサのステータスをプロジェクトした。
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名前:リサ・ブライト
性別:♀
年齢:19歳
職業:魔法使い
装備:黒衣のローブ、叡智のペンダント、LB-5100
[ステータス]
身長:158cm
体重:??kg(乙女のトップシークレット☆)
スリーサイズ:B:78 W:59 H:80
HP:D
MP:S
筋力:D
魔力:EX
敏捷:E
回復:C-
幸運:C+
耐久:D
知力:A
器用:B
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「なっ! ちょ、お前これ!」
「思春期の男の子ならスリーサイズとか色々と知りたいかと思って大サービスしちゃったよん!」
俺はハッとリサの方を見ると、モニターを見て数秒固まってから俺に向かって優しく微笑む。
「覚悟は出来てますよね、勇者さん?」
怖い怖い怖い! 目が死んでるもん! ハイライト入ってないよ、ねぇ!?
今、さっきのグレンの気持ちが分かった気がした。
とりあえずこの状況を打破するために何か言わなければ…
「り、リサって歳上だったんだね! いや〜ビックリしちゃったよ俺!」
「それは…私が童顔で幼児体系とでも言いたいのかあああああああああああ!」
「選択肢ミスったああああああああああ!」
そして、リサは背中に背負っていたギターケースのようなリュックからスナイパーライフルのような構造の愛銃"LB-5100"を鬼の形相で取り出す。
その瞬間に俺は父さんから受け継いだ秘技"スライディング土下座"を発動する。
「すいませんでした! どうか、許して下さい。リサ様の為に何でもしますから!」
チラッとリサの様子を伺うと、俺に銃口を突きつけた状態でフリーズしている。
数秒後にリサは、どうにか愛銃を納めてくれた。
「さっき何でもするって言ったよね?」
どんな恐ろしい命令を下されるんだろうか。判決を待つ罪人のような気持ちで次の言葉を待つ。
「じゃあ、またさっきみたいに美味しい食べ物ご馳走してよ。あんな料理は街じゃ食べられないからさ。」
その言葉が予想外過ぎて、俺は思わず笑ってしまった。
「ああ! いいぜ、いくらでも振る舞ってやるよ。」
何とも言えない気恥ずかしい雰囲気になってしまったところにグレンが一言こう言い放つ。
「リア充爆発しろ。」
こんにちは、マサヨシです!
今回はリサのステータスと装備が判明しましたね!優太のと比べてみると面白いかもしれません。