第7話〜いざ始まりの街へ〜
「落ち着いたか?」
だいぶ落ち着いてきたのか、リサのグスンと鼻をすする頻度も減ってきた。
「うん、ありがと。さっきは見苦しいとこ見せちゃってゴメンなさい。」
照れくさそうにリサは微笑んだ。涙をローブの袖でそっと拭う。すっかり腫れてしまった目をこすり、気持ちを切り替えるために頬をパチンと叩く。
よしっ! と声を上げ、しゃがんでいたリサは勢いよく立ち上がる。
その表情は清々しいものに変わっていた。
落ち着いたところで、リサは優太にある疑問をぶつける。
「ところで、さっき1回死んだとか人間がどうとか言ってたけどアレってどういうこと?」
しまったあああああああああ!!さっき熱くなりすぎて口を滑らせてしまったぞ…。
「あ、あー!えっと…それは…。」
どうしよう。1回死んで異世界転生しました!イエーイ☆とか言っても信じてもらえなさそうだし…。
返答に困ってると、横にいるグレンが俺の代わりに代返した。
「んーとね、優太は異世界で死んでこの世界に転生したのよ。転生者って言った方が分かりやすいかな?」
「ちょ!おま…。」
こんな馬鹿正直に言って大丈夫なのか!? 普通こういうのって秘密にしとくもんだろ!
「転生者か…それなら納得。生で見るのは初めてだけど。」
……納得しちゃったよ。こんなあっさりでいいのだろうか。
「しかし、転生者がどうしてこんな外に? 街から出るなんて普通しないはずなのに。」
「なんでソイツらは外に出ないんだ? 別に外に出るくらい普通のことだろ。」
溜め息をついて、つまらなそうにグレンが答える。
「あの腰抜けどもは、外のモンスターと戦闘して死ぬのを恐れてる。必要最低限の食料とか金は簡単な街中でのクエストとか普通に働いて稼いでる。本当につまらん奴らだ。」
そうか! その手があったか!!
娯楽の神であるグレンにとっては、そんな刺激のない毎日は見ていてつまらないことこの上ないだろうが、そういう生活をしていれば、安全に異世界生活を謳歌出来る。
俺は素直に感心してしまった。
「死んで存在が消えるリスクを考えれば街で引きこもって生活するのが1番安全だからね。転生者にだけは蘇生魔法は使えないから、死んだらソコで本当におしまいってわけ。」
「そうか。確かに生き返らせようにも蘇生対象を忘れちまうんだから、そうなるな。」
つまり転生者は、RPGで1回も死ねないという縛りプレイをやっているようなものである。
まったく、どこまで鬼畜なんだこの世界は。
「で、転生者の優太は何で空から降ってきたの?安全装置とか対策も何もせずに。もしかして、馬鹿なの?」
「俺だって、落ちたくて空から落ちてきたんじゃねぇよ! 転生先が雲の上だったの! 転生先がランダムとか頭おかしいわ、マジで。」
リサはプッと吹き出し、腹を抱えて大笑いする。
「それは災難だったわね。笑いすぎてお腹痛いわ。私がいなかったら消滅最速記録だったんじゃない?」
目の前で涙を流して大笑いされた時は、どうしてやろうかと思ったが助けてもらった件について言われると何も言えない。
俺はふてくされながらもお礼を言った。
「…その件については感謝してます。で、とりあえず街まで行きたいんだが1番近い街はどこなんだ?」
「ここから半日ぐらい歩いた先に"始まりの街"と呼ばれる冒険者が集う場所があるわ。転生者も基本的にそこに転生するわ。」
「ちょっと待て。今、転生者は基本的に始まりの街に転生って言ったか?」
ギロリと横で明後日の方向を向いているグレンを睨みつける。
「おい、お前。転生先はランダムじゃなかったのか?」
「い、いやー皆さん運が良いんですよ。決して私のせいではありませんのよ? 信じて下さいご主人様!」
「テメェのその口調の時点で信じられねぇから。ほら、絶対怒らないから話してごらん?」
逆に笑顔なのが怖いのか、グレンはビクビクと怯え、両手の人差し指をツンツンしながらグレンはボソボソと白状し始める。
「私って神様じゃん? それをガイドピクシーに変換処理したのね。で、その弊害で "転生先がランダムになりますけどよろしいですか?" って注意画面出たわけ。でも、面白そうだから思わずYes!って押しちゃった☆」
「やっぱりお前の仕業だったんじゃねえかああああああああああああああ!!」
思いっきりグレンの頬を鷲掴みし、全力で横に引っ張る。
「いひゃい! いひゃいから!! はにゃひてくだひゃい!」
俺は頬を引っ張るのをやめて、グレンの胴体を鷲掴みにする。
そのまま、元神様を思いきり地面に叩きつけた。ぎゃふ! とか変な声が聞こえたが知ったことか。
なんだか少しスッキリしました。
「なんだか凄く個性的なガイドピクシーね…。」
リサは困惑した表情で、地面に大の字で叩きつけられたグレンを一瞥する。
「それで、これからどうするの? 街に向かうとしても貴方転生したばかりで武器も防具もないじゃない。それにLV1の優太にとってはこの辺りのモンスターでも結構キツいわよ。」
今の俺は徒手空拳。装備はバックと制服のみ。スライムですら倒せるか危うい。
「んー、どうしよう。まさか街に辿り着くのすら難しいとは…。」
これは本気で困った。一難去ってまた一難。どうして、次から次へと問題ばかり浮上するんですかね…。
それにしても、さっきからリサがやたらソワソワしているのは何故なんだろうか。
リサはわざとらしい咳払いしたり、定期的にチラチラとこちらを見ている。
「……うか?」
俯いてリサが何かを呟いたが、小声過ぎてよく聞こえなかった。
「え?スマンがもう一度言ってくれ。」
すると大きく息を吸い、リサは頬を赤らめて叫んだ。
「だからぁ! 私が街まで送って行こうかって言ってんの!!」
なるほど、だから何か言いたげに先程からモジモジしていたのか。全く気付かなかった。
コイツ、実は結構いい奴なのでは?
「本当か! だとしたら非常にありがたい! むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。」
優太の発言を聞き、思わず顔がニヤけたリサだったが、わざとらしく咳払いをして必死に笑みを隠す。
「ふ、ふーん。そこまで言うなら送ってあげないこともないけど?」
その言葉を聞き、俺はとても舞い上がってしまう。こんな右も左も分からぬ異世界で、頼れる奴ができたのは非常に心強い。
俺はリサの手をしっかりと握りしめて、こう言った。
「ありがとうリサ。これからよろしくな!」
「か、勘違いしないで! あくまで始まりの街まで送り届けるだけだからね!」
ぷいっとリサはそっぽを向いたが、握りしめた手は決して離さなかった。
そんなリサを見て、ついつい笑ってしまう。ついさっきまで泣き喚いていた奴と同一人物とは思えない。
いつの間にか優太の肩に乗っていたグレンは心の中でこう思っていた。
「(この娘、チョロすぎる)」
こんにちは、マサヨシです!
リサが優太を送り届けることになりました。
それにしてもこの娘、ツンデレである。