第3話〜俺、勇者になります〜
「じゃあ少し待ってて、色々と準備がいるから。」
そう言ってグレンは一度モニターの画面を切り替えた。Sound onlyと書かれた画面だけが映し出されている。
ふんふーんっと馬鹿丸出しの鼻歌も聞こえてくるが無いよりはマシだ。また、暗闇の中で待っているのは退屈すぎるからな。
思ったよりも早く準備は整ったようだ。何やらカチャカチャとプラグのようなものを差し込み、グレンの鼻歌も聞こえなくなった。
モニターには、真っ黒な画面の中央に青い円が映し出された。
「お待たせ! じゃあ、今から君の職業が決まる重大な儀式を始めるよーん。優太には、今からモニターに向かって手を当ててもらう。今までの自分の人生とかを振り返りながらやってね〜。その時、出来るだけ強い感情を込めてね☆」
なんかグレンの奴、いつの間に名前呼びになってるし…。
「俺の人生ねぇ…。思い出とか振り返ってるだけでいいのか?」
「そうそう!あの時は楽しかったー!とか、アイツのこと好きだったなぁ…みたいな感じで大丈夫よ〜。ムフッ、もちろん童貞卒業したかったなとかの無念さとかもね♡」
「…っ! ど、童貞は今関係ねぇだろ! 畜生! 集中してんだから黙ってろよな!」
クソ! アイツが要らんこと言うから雑念が混じっちまったじゃねぇか! こっちは大事な異世界生活かけての大事な儀式だってのに。
すると突然、ピロンという機械的な音と共にアナウンスが始まった。
「鈴木優太さんの解析が終了致しました。適正職業を検索します。」
モニターには、Searchingの文字とぐるぐる回るローディングアニメーションが映し出されている。
これで、俺の職業が決まる。ぶっちゃけこの儀式で今後の冒険がどう左右されるかが決定されると言っても過言ではないと思う。
俺は不安に思いながらも少しワクワクしていた。だって、RPGの主人公みたいじゃんか! 戦士とか魔法使いとか! 男の夢じゃん? 魔法ぶっ放したり、剣でドラゴン斬ったりしてさ!
間違っても旅芸人とか商人とかどうしようもなさそうな職にだけはならないでくれよ…。あ、やっべ。今のフラグだった気がするぅ!
「適正職業が見つかりました。鈴木優太さんの適正職業は…」
急なアナウンスにビクリとなる。唐突すぎない? 心の準備がまだなんですけど! なんて俺の心境はお構いなしにアナウンスは俺の職業を発表した。
「"勇者"です。鈴木優太さんを総合的に判断した結果、勇者が最適な職業となります。」
「勇者……。あの勇者か! よっしゃああああああああああ!! 良かったぁ…本当に良かった。最初から変な職に就いてたらと思うと…。とにかく良かった!」
俺は心の底から安堵した。いつも余裕をかましてるグレンだが、この時だけは面食らっていた。
「勇者ね…。正直驚いたわ。童貞だし、魔法使い見習いとかになるかと思ったわ。いや、優太って本当に生前何でも出来たのね。この職業システムは、生前の優太の記録とさっきの自分の中での記憶を総合的に判断して決めるんだけど、よっぽど日頃の行いが良かったのね。」
「じゃあ、勇者に今までなった人って…」
「いないわよ。データを見る限りだと優太が初めて。だからこんなに私が驚いてるんじゃない。」
どうやら誰がどの職業に就いたという記録は残らないが、どの職業に何%割り振られたなどのデータは記録されているようだ。
「いや〜、これは予想外だわ。あ、そろそろステータスがモニターに映るから見ておきなさい。」
俺はモニターを凝視する。勇者のステータスとかめっちゃ気になるし!
パッと画面が切り替わり、モニターに俺のステータスが映し出された。
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名前:鈴木優太
性別:♂
年齢:18歳
職業:勇者
初期装備:高校の制服(ブレザー、Yシャツ、ズボン)
エナメルバック(体操服、筆箱、弁当、水筒)
[ステータス]
身長:170cm
体重:58kg
HP:B
MP:B
筋力:B
魔力:B
敏捷:A
回復:B
幸運:C
耐久:B
知力:S
器用:A+
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な、なるほど分からん。なんかパッとこない。そもそも基準値がいくつなのかが分からないから判断しようにも出来ないし。
「グレン、これってスゴいのか? なんかステータスがほぼBランクばっかりなんだけど。」
「優太、このステータスは間違いなく全職業で最強よ。まず最低ランクであるEランクが存在しない。それにほとんどのステータスが平均以上。トータルで見ると間違いなく最強のステータスだわコレ。」
俺には凄さが分からないが、グレンがスゴいと言うのだから凄いのだろう。とりあえず、最高のスタートダッシュだということは確実だな。
「まぁ、私としては最弱職で貧弱なステータスで異世界で頑張る優太が見たかったんだけど、コレはこれで面白そうだし良しとしましょうか! とにかく、優太。あなたは勇者よ! 誰も勇者なんて職業にはなったことがない。勇者としてのあなたを私に見せて! 楽しませて頂戴♡」
ピロンとまた機械音がなる。
「最後に、優太さんの異世界転生特典を決めるルーレットを行います。お手元にボタンが出現すると思います。今から特典が書かれたルーレットを回しますので、好きなタイミングで押して止めて下さい。それではスタートです。」
ルーレットは多くの項目が書いてあった。えーと目についたところだと…
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·所持金がMAXにする。
·上級魔法を1つ覚えられる。
·伝説の剣を手に入れる。
·いきなり、ラスボスに挑める。
·サキュバスに筆下ろしさせてもらえる(童貞限定)
·商店街での買い物が1年間20%OFFになる。
·馬車を手に入れる。
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何個か悪意の塊みたいな特典があるな。特に、いきなりラスボスに挑めるとか自殺行為だろ。
他にも色々と書いてあったが、ルーレットが高速回転し始めたため分からない。
「めっちゃ怖えけど、とりあえず押すしかねぇか! ふんっ!」
俺は意を決してボタンを押した。ポンッ!と音がなりルーレットが動きを緩める。
「頼む、ラスボスだけはやめてくれ。最悪、サキュバスと筆下ろしでもいい。むしろ、変なのに当たるよりはそれで。」
「こんな勇者で大丈夫なのだろうか。」
グレンが珍しくまともなことを言った気がするが気のせいだ。
ルーレットの勢いが無くなり、いよいよ止まり始める。
「っ!! よしそこだ!てかそれで! お願い止まってくれええええええええええ!」
今止まりかけてるところは間違いなく絶対に当たり枠。というか、異常に範囲が狭い時点で大当たり確定。
その内容は、"一度だけ死んでも一瞬で生き返ることができる"。
この異世界生活で、一度でも死ねるというのは大きな保険にもなる。絶対にGETしたい。
「止まるなあああああああああああああああああ!! 過ぎろ! 過ぎ去れ、ハズレ行け! こんな死んでもいいなんて保険あったらつまらん! 神様権限で無効にしてやるううううううううううううう!!」
コイツは後で絶対に殺す。人の不幸を願う神とか絶対に許さん。
ルーレットは、動きを止めた。その針が示していたのは……。
「転生特典が決定しました。転生特典はガイドピクシーです。」
一度死ねるの1つ隣のガイドピクシーに止まっていた。
「嘘だろおおおおおおおおおおおお!」
俺はモニターを凝視する。確かに1mmくらいの差でガイドピクシーに止まっている。そのまま俺は膝から崩れ落ちた。
「流石は幸運C! ギリギリのところで幸運を逃してしまうのだ!そこに痺れる憧れるぅ〜☆」
絶対にコイツの息の根はいつか止めてやる。
そんな俺の人生2度目の殺意は、アナウンスの声で遮られる。
「転生特典のガイドピクシーは残念ながら品切れとなっています。どうなさいますかグレン様?」
「品切れ? ってことは特典なし!? ふざけんなよグレン! どうにかしろ! っていうか、もう一回ルーレットでいいんじゃね? てか、むしろソレで。はい! もう一回! もう一回!」
俺は必死でもう一回コールを続けた。人生でここまでもう一回と連呼したことはなかっただろう。
するとグレンは俺のもう一回コールに表情を歪めていたが、悪戯な笑みを浮かべた。
あ…ダメだ、もう嫌な予感しかしない。
「あ、じゃあさ! 私がガイドピクシーになるよ! 優太の冒険を手助けするの! もちろん、異世界では神様としての力や権限は一切使わない。どうよコレ?」
「頼む! 頼むからNOと言ってくれええええええ!」
「グレン様をガイドピクシーに。システム上問題はありません。承認しました。優太さんのガイドピクシーにグレン様を登録します。」
あぁ…終わった。俺の順風満帆な異世界生活はグレンによってグチャグチャにされること間違いない。
「ふふっ、これからはずっと一緒だよ優太♡」
嬉しくねぇええええええええ! 俺の中で恋人に言われたいセリフNo.1だけど全然嬉しくねぇ! むしろ死刑宣告レベルだよ!
そんなブルーな気分の俺を差し置いて、物事はどんどん進んでいく。
「では鈴木優太さんを異世界へと転生します。良い異世界生活になることを心からお祈りしております。」
こうして俺の異世界生活は幕を開けたのだった。
こんにちはマサヨシです!今回は、長めの内容になってしまいました!
いよいよ、優太が勇者となりましたね!まさかのグレンをお供に連れて(笑)
次回からは一章へ突入!異世界での優太活躍をご期待下さい。