第1話〜気まぐれな神グレン〜
「……っ。」
どのくらい眠っていたのだろうか。気だるい身体を無理矢理起こす。
目が慣れていないのか視界が真っ暗で何も見えない。
そもそも今が何時なのか、この暗さから判断して夜だろうか? 少しずつ寝起きの脳を覚醒させていく。
「てか、俺って電車に轢かれて死ななかったっけ……?」
そうだ。だんだんと思い出してきた。
俺は、自殺しようとしていたサラリーマンの男を助けようとして自分が死んでしまったのだ。
しかも、肝心の男は死のうとふりをしていただけのかまってちゃん。つまり……
「完全に犬死にじゃねぇか! あー、もう! そんな死に方ってねぇよ!!!」
ここで感傷に浸っていても仕方がない。とりあえず、現状を把握しよう。
俺は死んだ。でも何故か生きている。というか実体と意識がある。そして、時間・場所ともに不明。
一般的に考えればここが死後の世界で天国とか地獄の可能性が高い。でも、それにしては何もないというか、それ以前に何も見えない。ここが地獄で真っ暗な部屋で永遠に過ごす系の罰なら説明はつくが……。
「でも、人助けして地獄行きとかあんまりだろ…。 日頃の行いとか考慮して天国確定ルートだと思うんですよ。ていうか、誰かいませんかー!! 状況意味不明だし、説明して欲しいんですけどー!」
俺は、SでもMでもない。こんな放置プレイなんぞ望んでいないのだ。すると突然、バチン! という音と共に視界が奪われた。
「っ! な、何だ!? クッソ眩し…。」
「もしも~し! 聞こえてますぅ~? てか見えてますぅ〜? グレンちゃんですよー!」
徐々に目が慣れてきたところで前を見ると、そこには大型のテレビモニターがあった。
映っているのは、顔を左右に動かしてこちらの様子を気にしているオレンジの長髪の女。アホそうだが、整った顔立ちは俺の好みだ。
「もう、あなたが全然起きないからお姉さん退屈で退屈で…。こほん。では、まず自己紹介。私は、グレン。娯楽を司る神様です。」
ん? 今、何て言ったコイツ。神様? こんなアホそうな奴が? まぁ管理者っぽいし、質問くらいなら答えられるだろ。
「俺は、鈴木優太。で、ここはまずどこなんだ?」
「んーとね、ここは私が臨時で作った仮想空間。あなたの魂が消滅する前にここに留めておいたってわけ。どう?凄いでしょ〜! 私に感謝しなさいっ! 崇めなさいっ!」
うぜぇ、ダメだ殴りたい。目の前にいたら確実に殴ってた。魂の件については感謝するが、このドヤ顔が腹立つ。
イライラを抑えつつ俺は冷静に質問する。
「俺の魂が消滅する…ね。やっぱり俺は死んじまったってことか。俺の肉体ってちなみにどうなったんだ?」
「崇めろって言ったのに…。神様にタメ口とか完全に私を舐めてるわね、人間。まぁ、いいわ。あなたの肉体だっけ? あー、もう火葬されて骨しか残ってないわねお気の毒に。」
終わった…完全に詰んだ。GAME OVERだよ。上手くいけば魂を肉体に戻せると思ったのに…。
「なにやら落ち込んでるわね。質問は終わり? じゃあ本題ね! 喜びなさい人間! あなたは、このグレン様の気まぐれによってチャンスを得られます。そのチャンスとは……。」
何がチャンスだよ…。俺の身体は骨と灰だけになってるんだ。もう詰んでんだよ……。
「なんと! "生き返るチャンス"でーす!」
……。ん? この女、今なんて言った!?
「生き返るチャンスだと!? 本当か! いや…、本当ですかグレン様!」
「なんか明らかに態度が変わったわね。今更敬語使っても何か逆に腹立つし、さっきまでの口調でいいわ。」
うおおおお!!やったぞ!イライラする女だと思ってたが、撤回しよう。
「それで、あなたには選択肢を与えます。1つ、異世界に転生しその世界を救って貰います。見事達成したらあなたを生き返らせることを約束しましょう。」
異世界に転生か。なんか、よくあるラノベ主人公っぽいし面白そうだな。しかも生き返れるとか最高すぎる! いや待て、落ち着け俺。コイツのことだ、何かしら裏があるかもしれん。
「2つ、生き返るチャンスは失いますが天国へ行くことが出来ます。」
はい、これ天国で安泰√(ルート)確定だ…
「しかし、天国といってもあなた達が思っている天国とは異なるわ。実際は、神様の下僕として働き賃金を得て生活していく世界。もちろん、働かない奴は死ぬというか生きていた痕跡すら消滅するわ。あ、ちなみにあなたは気に入ったから私の下僕としてコキ使ってあげる♡ さぁ、どうする?」
……。とりあえず、天国√にしないことは確定したな。
だってこの腹立つアホ神様の下僕だろ?しかも永遠に。死んでもゴメンだね!もう死んでるけどぉ!
もう一度2つの選択肢を思い出した上でグレンに問いかけた。
「なるほど…。つまり、天国は安泰に暮らせるが変わりに永遠に働かなければならない。一方、異世界は生き返るチャンスを得るというメリットだけがチラつくがそんな甘い話はない。絶対に何かデメリットがあるはずだ。そうだろう?」
ふふっとグレンは軽く笑ってから答えを返す。
「流石だね鈴木優太。こう見えて私は君を高く評価してるんだ。今までの奴らとは一味違うとね。今までの奴らは、即答で異世界転生を選んださ。その"危険性"も聞かずにね。
今までの奴ら、危険性…。何か嫌な予感がする…。
俺のその予感は奇しくも的中してしまうことになった。
「異世界転生でのデメリットはね、死ねば存在は抹消される。そして、その後死より苦しい拷問が待っている。永遠にね。」
ゾクリと悪寒が走った。
つまり、天国に行っても働き地獄の世界。異世界転生しても、死ねば生き地獄が待っている。天国は、消滅できるだけマシなのかもしれないが…。
ニタリと不敵な笑みを浮かべながら画面の中の神様は、こう言った。
「さぁ、君はどっちを選ぶ?」
今回は、気まぐれな娯楽の神様グレンが初登場いたしました!
天国と異世界転生、皆様だったらどちらを選びますか?そういった視点でも楽しんでくださると幸いです。
次は、優太がどう考え、どう決断するか。作者自身も悩んでおります(笑)