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晴れ晴れ雨

作者: けさわとう

 没になった短編をここに置いておこうかと思い。

 私の人生を振り返ったとき、昨日までの出来事が今日に起こ

っても大して変わりがないと思うときがある。昨日の夕飯のカ

レーライスは、今日の夕飯のポトフととっかえても私は困らな

いし、そこに必然性は介入しない。

たまたま母の気分で冷蔵庫の中身と相談してその献立に至った

だけである。だから、毎日は平凡で退屈であり、重要な一日を

待ち望んで過ごしているのだと私は思う。

 掌にあるこのピーナッツもヒマワリの種だったのかもしれな

い。そう思い、口に放り込む。7月も終わりに近づいてきてい

る。

夏の象徴がそこかしこに顔を出している。雨はここ一週間降っ

ていない。日照り続きの毎日だが、ミミズは懸命に命をアスフ

ァルトの上で散らしている。緑は濃さを増し、心なしか吸い込

む酸素が多くなった気がする。

 私はベッドに寝転んで、天井を彩る不規則な赤、青、オレン

ジの光に目を奪われていた。

サイレンは遠くで鳴いては、すぐにどこかに行ってしまう。斜

めに傾いた壁掛け時計は刻み込むように針を進める。カチッ、

カチッ、カチッ……。何か忘れていることはないかと自分に尋

ねてみる。サボテンの水やりもやった。無添加バターも買って

きた。木製ネジもちゃんと3本買った。お風呂の水垢も落とし

た。ほかに何が残っている。

 私はハッと起き上がる。明日が試験だったことを思い出し

た。大切な試験だ。私にとっても両親にとっても。学校に行く

ことはあまりない。

出席日数もギリギリだ。これで試験を落としてしまうと私はい

よいよ居場所を失ってしまう。そこまで手放したくない居場所

ではなかったけれども、母は違った。彼女は何よりも私が大切

だった。

 母の寵愛を体いっぱいにうけて育った私は、見事にその愛に

甘えてしまっていた。それでも母は私を一度として責めず、絶

えず愛を注いでくれた。だから、私は母の愛にこたえなくては

いけない。最低限の感謝をもって、返してあげないと良心が痛

む。こんな娘でごめんなさい。これからはもっとしっかりとし

た人間になって生きますから。

 いくら念じてみても、時間は残酷なほどに過ぎていく、あと

数時間で明日が来てしまう。窓ガラスに張り付いた羽虫が騒ぎ

立てる。あなたはもう終わりよ。こんなちっぽけな試験でこれ

からの道を凸凹にしてしまうのだから。

 すると、窓ガラスが砕け散り、一斉に羽虫が部屋に大挙して

きた。私は驚きのあまり飛びのいた。羽虫たちは私の寸前で焼

け焦げた。大量に積み重なった死骸がみるみる盛り上がってい

き、型を形成するとパッと猫となった。

 その黒猫は前足で頭をかくと、こちらを見つめた。そしてゆ

っくり話し始めた。

「私は神様だ」

 ガラスを擦ったような声色だった。

「君が困っていると思ってやってきたんだ。困っているでしょ

う」

「…あ、はい。そうです困っています」

「ふむふむ。知っているよ。言わなくてもわかるさ。時間が足

りないんだね」

「そうです。明日の試験に間に合いそうもありません」

「試験とな。実に些細な困りごとだが、その判断は私にはでき

ない。程度の大きさは人それぞれだからな。君にとっては重大

なことなんだろう」

「はい」

「わかった。じゃあ時間をあげよう。君だけの時間だ。そうだ

な、三日にしよう。三日だけ時間を前借りしてもいいだろう。

あくまで借りだからな?」

「ありがとうございます。感謝します」

「ふむ、じゃあ明日から三日間。時間を前借りすることの誓約

書を書いてもらう。えーと、ここに親指を置いてくれ」

 私は差し出された神様の肉球に親指を押し付けた。

「うん。これでいい。それじゃあね。頑張るんだよ。私は神様

だから、仕事が詰まっているんだ」

「仕事ですか?」

「昨日は三人救ったよ。一昨日は小さな井戸に水をもたらした

よ。大変だった」

「それだけ…ですか?」

「それだけだよ。それだけの力しかないんだ。神様も万能じゃ

ないんだ。じゃぁね」

 そう言い残すと神様は煙とともに消えてしまった。割れた窓

ガラスだけが私に「これは空想なんかじゃない」と教えてくれ

るのだった。

 机に向かった私は5時間ほど集中して勉強した。すると、そ

れだけで自信がつき満足してしまった。ベッドに倒れ込みタバ

コを吸う。

「案外、すんなりといくものね……」

 朝がやってきた。私はキッチンで目玉焼きを作っている母の

横を無言で通り過ぎた。母は心配そうにこちらを見つめていた

が私はやることはやったのだからと心で強く念じた。背の高さ

くらい伸びた観葉植物にコップで水をやる。母はテーブルに二

人分の朝食を並べていた。丁寧にフォークとナイフの位置を整

える。朝は私と母、二人だけだった。長方形のテーブルの端っ

こと端っこ。対角線になるように座る。一言も話さないまま食

事を終える。これが私の家庭の風景だった。これだけ冷え切っ

ていてもお互いに愛情は忘れていない。ただ心地良い距離感だ

から続けているだけであった。暗黙の了解というものである。

TVから流れるどうでもいいニュースを後に、私は歯を磨き顔を

洗い、小さな声で「いってきます」と呟いて家を出た。

 街の風景は変わらない喧騒を保ち続けていた。吐き捨てられ

たガムは時間とともに黒く歪んでいき地面に貼り付く。昼間か

らハイネケンビールを飲んでいる公園のサラリーマンの姿は今

日はなかった。代わりに幼稚園児が水鉄砲で遊んでいる。白い

檻に囲まれた砂場の中ではしゃぎまわる彼女らは純粋さと、若

草を思わせるしなやかさを持っていた。地面を透かしたガラス

の破片。それを拾い上げ太陽に透かしてみると、付着した砂が

時の流れのように私の額に零れ落ちた。

「これも現実……」

 私が今生きている時間は私が特別に与えられた固有の時間な

のだ。しかし、それは紛れもない現実で、いつか過ごす時間な

のだ。だから、時間の流れは留まることはない。こうしている

間にも私の時間は失われていくのだ。肌に触れる空気も、髪を

撫でる風の軌跡も、全てが私という存在をすり抜けて去ってい

く。私自身も例に漏れず…ね。

 ロノウェ通りを過ぎ去ると、大麻ハウスの前に出る。ここは

昔、大麻を栽培して捕まった大学生が住んでいた。だから大麻

ハウスと呼ばれている。かつては振り切れんばかりの電気メー

ターも今や静止したままであった。地元の不良はまだ大麻が隠

されているんじゃないかと思っているらしい。門を開けると雑

草の生い茂った庭に出る。入り口が見えない。寂れたかつての

大麻ハウスは今やホラースポットと化している。

 私は電車に乗り、中心街へと向かった。

 電飾がランダムに文字を描き、下品な色使いの広告がそこか

しこに立てられている。この街に長くいると洗脳されてしま

う。そんな気がした。

 レコードを探していると、汗で色落ちした黄色いキャップを

被った店員が声をかけてきた。

「なにかお探しで?」

「いいえ、特に目的はないの。ただレコードをこうしてつまみ

上げてはジャケットを見るのが好きなの」

「試聴してみます?」

「そうね。それじゃあ、これとこれと、これね」

 ジョー・ミーク『アイ・ヒアー・ニュー・ワールド』、サ

ド・ジョーンズ『マグニフィセント・サド・ジョーンズ』、フ

ランク・ザッパ『アンクル・ミート』だった。

 三枚とも最初の数トラックだけ聞いて、そのうち二枚を買っ

た。アイスクリーム屋に寄って、ペパーミントアイスを食べ

た。2年前に死んだペットのハムスターが大好きなフレーバー

だった。名前をデンヴァー。私はその丸々太った体躯と、回し

車の一度として乗らなかったことを称して、偉大なる愚か者デ

ンヴァーと呼んでいた。そんな彼も平均的なハムスターの寿命

には抗えなかった。苦しむことなく、死んでいた。あまりに

堂々とした死体だったから、私は気づくのに三日かかった。

 ロドアルドバーガーでチーズバーガーを食べて、私は向かい

の飾り窓の娼婦に目を奪われていた。艶かしく足をくねらせ、

ガラスにぴったり陰部を押し付ける。引き寄せられた男が隣の

扉に入るとカーテンが閉められる。私は彼女たちを観察するの

が好きだった、日毎に顔ぶれは変わる。上手な娼婦は次々と客

を取っていく。一方、そうでない娼婦はというと全く寄り付か

ず、飽きてしまって椅子を持ち出して本を読み始めるのもい

る。本のタイトルは決まって『男性心理学』『聖書』。彼女た

ちは敬虔なキリスト教徒でもある。聖なる女は差し出す穴は決

まっている。金を生み出す魔法の穴だ。

 ニューイヤーと打った古びた電子看板。その地下に行きつけ

のピンボールパブがあった。珍しいピンボールが置いてある。

マスターのベディに会釈をすると、彼女はいつも通りビールと

ピーナッツを出してくれた。

「来たわよ」

「そう。あなた学校いってないでしょ最近」

「余計なお世話よ。これでも学校では優等生で通っているの

よ」

「嘘ばっかり」

「わかる?でも、今回ばかりは頑張ったのよ。たくさん勉強し

たわ」

「まぁ、私はあなたくらいの歳には学校を辞めていたから、偉

そうなこと言えないけど…」

「いいの。私はこれでいいの。それにまだ処女なのよ」

「はしたない…」

「まだ汚れを知らないわけ。だから、街中に溢れている清純ぶ

った女より美しいってわけ。セックスのいろはもわからない

わ。どうするのかってのはよく知っているけど」

「あなたは子どもなのよ。進んで子どもで居続けようとしてい

る」

「そうよ。私は変わることが怖いの。世間のグチャグチャ混ざ

り汚れた色に染まりたいと思う?空気を吸っているだけでも頭

がおかしくなりそう」

 水晶でできたグラスの表面に水滴が垂れはじめ、ラジオから

は流行りの歌が流れようとしていた。

「この悪趣味なDJの番組、まだ聞いていたの?」

「そう、私は好きだけど」

「雰囲気にあってないよ。それにこのDJ、ムカつくし、セン

スないよ」

「程よく、メジャーとシャッフルしていて好きよ」

「受け売りばっかり。マイナーって言っても評価の高いのばっ

かり。まず、こいつのプロフィールにあったけど、好きなアー

ティストがU2よ?センスの欠片もないわ。私は社会派を気取

った資本主義の犬が大嫌いなの。ダブスタもいいところだわ。

まだ頭空っぽな流行歌手のがマシだわ。ボノも吊るして、もち

ろんこのDJもね!」

 つい熱くなって話しすぎた。時間は9時半を回っていた。ま

ばらな客が出入りし、私も酔いが回ってきたところだった。そ

んな中で、隅に置かれたピンボール台に張り付いてずっとプレ

イしている女の子がいた。歳は私と同じくらい。

「凄いね、こんなスコアはじめて見たよ」そう言ってコーラを

差し出す。

「ありがとう。でも、本来はこんなもんじゃないわ。今日は調

子の悪い方」

「へぇ」

「調子のいいときはボールが重力から解放されたように宙を舞

い続けるのよ。レーンを右から左へ動き回るの。バンパーが弾

ける音がずっと鳴り止まないよ」

「ピンボールの魔術師ね」

「そうよ。凄いんだから」

 あどけない笑みを浮かべた彼女はエレナという名前だった。

その後も閉店まで私はエレナと話した。学校のこと、音楽のこ

と、ピンボールのこと。

 次の日はいつも通りやってきた。エレナとデートの約束をし

ていた。昼過ぎに、紫の公園で集まった。エレナはタンクトッ

プというラフな服装だった。おっとりとしたタレ目の印象とは

違ったその快活で、正直な性格を私は気に入っていた。

「待った?」

「いいえ。行きましょう。そうね、どこに行きましょうか」

「私ね。決めているんだ」

 そう言ったエレナに連れられてやってきたのは地下水族館だ

った。都会の地下に作られた旧世代の施設だった。今では客足

は遠のいてしまっている。

 薄暗いエレベーターで降りると、ポルノ映画館のような受付

で料金を払うと手の甲に判子が押される。時間が来ると判子が

消える仕組みになっている。暗幕に覆われた通路には星々が散

りばめられ、足跡は青白く発光した。避難案内を除けば、幻想

的な空間であった。

「ここにはよく来るの?」

「えぇ」

 私達の目の前をエイが通った。天井から人工的な色とりどり

の光を照らすことで水槽は隔離された宇宙空間のように見え

た。特別、珍しい魚がいるわけでもないが、この視覚効果は陳

腐な表現だが美しいと感じた。

「綺麗ね。私、生まれ変わるとしたらエイになりたいの。気持

ちよさそうでしょう。からだいっぱいに水をうけて、ゆらゆら

と泳ぐのって」

「そうね。なにも考えなくて幸せそう」

「海はここと違ってどこまでも続いている。それって素敵じゃ

ない?」

「どこまでも行ける…ね」

「もし南の温かい海に生まれたとして、望むなら冷たい冷たい

北極海にだって行くことができるのよ。そこではそれはそれは

息を呑む広大なオーロラが見れるの。海は繋がっているのよ、

どこまでも。もし耐えれなくなって心臓がキュッと締まって死

んでしまって、海の底に沈んでいってもそこから眺める世界は

きっと美しいに違いないわ。それって素敵なことじゃない?」

「素敵ね」

「あなたは?」

「私?…そうだね……難しいなぁ……」

「いいのよ無理に言わなくても」

「ごめんね。好きな人と一緒にいれるならどこでもいいかな」

「素敵ね」

「でしょう」

 その夜は彼女とずっと一緒にいた。また明日会える。私はそ

う願った。

 目覚めると彼女はいなかった。置き手紙には「ちょっと行く

ところがあるから。ごめんね」と書いてあった。そうか、今日

は一緒に過ごせないか。

 家に帰ると買ってきたレコードを聞きながらエレナのことを

考えていた。彼女の胸の形、肌、腋の匂いまで思い出せる限り

の情報を掘り返していた。唇が触れ合った瞬間を枕にたとえて

キスをした。それほどまでに私はエレナに囚われてしまってい

た。夏の思い出と共に過ぎゆく感傷は、私の三日間に彩りを与

えた。

「やぁ」

 瞬きのうちに猫の形をした神様はそこにいた。

「あぁ…」

「どう?試験勉強はできた?」

「えぇもちろん。それよりもっと充実した時間を過ごせたわ。

ありがとう」

「感謝はいらないよ。これは前借りなんだから返して貰えれば

問題ないさ」

「そうだったわね。問題ないわ。返すわ」

「うんじゃあ、はい。……これでいいよ」

「終わったの?」

「うん。これでキミの寿命は三日縮まったわけだ」

「いいわよ。それくらい」

「…………それじゃあ。またね」

 そう言うと消えてしまった。

 私は明日、エレナに会いに行こうと思った。

「彼女、来てる?」

「彼女って?」

「ピンボールの娘よ」

「知らないわねぇ」

「まぁ、いいわ。部屋は知ってるし。ありがとね」

 エレナの部屋に向かうと、そこは空き部屋だった。痕跡すら

残っていなかった。真っさらな部屋。切り取られような空虚さ

だけが残った。ここに私は存在して、彼女は存在しない。それ

は事実なの?幻想なの?

 

 あの水族館ではエイは変わらず優雅に水槽内を泳いでいた。

影が生まれて、私は一瞬だけそこに隠れる。すると驚くほどの

平穏に包まれる。そこでは海馬に巣食う雑音もいない。無駄な

情報が削ぎ落とされた空間。

「エレナ?そこにいるの?」

「いるよ?」

「よかった。また会えたのね」

「えぇ、これからはずっと一緒よ。ずっと……」

「素敵ね。嬉しいわ」

「存在を証明するとき、その証拠は何が適切かしら?」

「何を言ってるの?エレナ」

「写真?映像?それとも文章?答えはなんでもいいの。私たち

は記憶に生きているの。記憶の中にこそ永遠の命が存在する

の」

「永遠の命?」

「そう。目眩がしそうな街の灯りの中にも、棚に並べられたメ

イプルシロップの瓶の中にも、どこにもないわ。魂は…命は記

憶の中にこそ宿るのよ」

エレナは薄く微笑む。

「ピンボールですぐ落っことしちゃってもね。救済措置がある

の知ってた?ボールが補充されるの?あれは、いい機能だけ

ど。実際はそうはいかないわ。チャンスは一度きり。落っこと

しちゃえばそこで終わりなの。だから縦横無尽に駆け巡るボー

ルに翻弄されながらも、私たちはフリッパーから手を離しちゃ

いけない。いくら点数を重ねていても0になっちゃうから。あ

なたには見える?私が」

「見えるわ…エレナ…」

「それじゃあ私は生き続けられるわね。嬉しい。これからもよ

ろしくね」

 私はエレナを抱きしめた。

「私、まだエレナとしたいことたくさんあるの。書ききれない

ほどに」

「私もよ。ずっとずっといましょうね」

「ここは素敵な場所ね」

 

 三日はたった三日かもしれないけれど、私には永遠のように

感じられた。夏は陰りをみせ、もう9月も終わろうとしてい

た。私とエレナの思い出は一瞬の邂逅のようなものだったけ

ど。今でも私にはエレナがいる。一つ先の椅子にも、ほら、こ

っちに向かって手を振っている。神様が与えてくれた前借りの

時間は些細な時間ではあったけれど、固有の記憶を形つくり、

私を溢れ出る幻想に閉じ込めた。

 だから、スターダストは私の頭上に降り積もり、それは王冠

のようだった。哲学者はみんな餓死し、私は小さな出来事から

無限へとアクセスに成功した。不思議な磁場を抜けて、魂のふ

る里に帰ろう。ほら、もうそこまでやってきている。奇跡を司

る劇団が。宇宙の音色をマーキュリーギターで奏でている。あ

ぁ、麗しの楽団よ。私を連れて行ってくれ。

 ハンバーガーショップには男がいて、合図をすると私を隣の

古ぼけたハイツに連れていく。そこで3人の男にレイプされ

た。

「ねぇ、エレナ。私達ってお似合いのカップルだと思わな

い?」

「そうね。そう思うわ。世界で一番幸せなカップルだと思う

わ」

「やっぱり?そうそう、このネックレス見て見て。いいでしょ

う」

「あら、素敵ね。貝殻が星屑みたい」

「でしょう?エレナのぶんもあるわよ。これでおそろいね」

「ありがとう。かわいい。嬉しいわ私。幸せよ。あなた以上

に」

「私はエレナ以上に幸せなんだから」

「負けず嫌いね。それじゃあ二人とも同じくらい一番幸せ」

「素敵ね」

「素敵でしょう」

「人生は嫌なことばっかりだったけど、エレナと出会って、見

つめ直すことができたの」

「私もよ」

「輝きが必要なんだなって。マイナスの感情を打ち消す、大き

な大きな輝きを胸に灯すこと。これでなんにも怖くない。光が

不安を飲み込んでくれるもの」

「しあわせそうな顔」

「エレナこそ」

「あぁ……世界ってなんて美しいのだろう。私はここにいて、

エレナもここにいる。それ以外、何が必要なのかしら?」

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