クリスマスの雪の日に
クリスマス。聖夜、などと称されるその日は、キリストの生まれた日とされており、海外では正月とはこちらの事を指すという。曖昧且朧気な説明が指すのは12月25日のことであり、まかり間違っても12月24日ではないはずである。ある。
まあ、前夜祭後夜祭などといって文化祭で騒ごうとするお祭りだいすきな日本人的には何もおかしくはないが。しかしその場合別の疑問が生まれる。“あれ? 26日は何で何もないの?”
さあ、前置きはここまでにしておこう。別に目を背けたいことなんて無いのだ。後ろめたいことも無い故に胸を張って時間を進めてゆこう。
「はあ、父さん、今日も帰って来なかったな」
湯気一つ立っていない夕餉をテーブルに手を付け始める少女は、サンタのように真っ赤な服を見やってまだ帰らぬ父親に思いを馳せる。
少し濡れた髪の上には服と同じように真っ赤なリボンが結ばれていた。
「あの日みたいに急に帰ってくるかも、って3日前から準備していたのに」
思い出されるのは昨年のクリスマス。あの日もこんな風に全てを覆う雪が降り注いでいた日だった。
「ただいま」
「お父さん? 今日は帰らないって」
「今日くらいは帰ってやれって課長が言ってくれたんだ。今度の飲み会は奢らなきゃいけなくなったけど」
照れくさそうに笑う父親はとても素晴らしくカッコよかったことを少女は覚えている。思い返してもとても素晴らしい人だ。
「―――――」
「お前に言われなくてもわかっているさ。ほら、プレゼントだぞ」
そういって少女に手渡されるのは青い包装とピンク色のリボンで包まれたクリスマスプレゼント。
「あんまりこういうセンスが無くってなぁ、若い女の子が喜びそうな色彩とかってわからなくって」
「――「うれしいよお父さん! ねぇ、開けてみてもいい?」
「いいに決まってるさ。お前のプレゼントだぞ?」
「やったぁ!」
少女は父親の声に応えて、ピンクのリボンを解き、青の包装を丁寧にはがすと、そこには真っ白な箱があった。その箱を開けると、その中にはしわ一つ無い真っ白いリボンがロールにして巻かれていた。
「アクセサリーの方が年頃の娘は喜ぶって課長にいわれてなぁ。お前も明日には15歳だし似合いそうなものって言ったらあんまりジュエリーではないよなって思ってさ」
「―――――」
「うぅ、悪かったよ。ほら、まだあの時は学生だったし」
父親の横顔を見ながら少女は言う。
「本当にありがとう、お父さん。お父さんが私にくれたプレゼント、大事にするね?」
「……あぁ、ま、気に入ってくれたなら何よりだ」
少女の満面の笑みから告げられた言葉に、父親は頬を書きながらはにかむ。
そして今に戻る。
「ああ、帰ってこないなら後片付けしなくちゃなぁ。お父さんが気付くと色々迷惑かもしれないし」
プレゼント袋を抱えたサンタの人形や、鉢植えに植えられたモミの木をオーナメントに飾りつけたクリスマスツリーなどの飾りを見回しながら少女はため息をつく。
「大型ごみは来月だし、腐るものは山に捨てに行かないと。切って埋めれば自然に帰る、よね?」
少女は天井の向こうの雪空を見て、未だ帰らぬ父親を思いながら頬を染めて呟く。
「お父さん、メリークリスマス」
この話を読んで何か考える節のある子持ちのお父さんは今年のクリスマスくらいは帰ってあげてください。そう思ってこの話を書きました。
短いのは仕様です。こんな経験のない若造の自分では色々とぼろが出そうでしたので。