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卒業文集より

作者: 我輩

桜が舞う季節となりました。


門出を祝ってくれている様な、けどどこか儚げなこの桜は、私の高校生活3年間を象徴している様です。





よく学校とは、小さな社会と例えられます。


ほとんどの生徒は自分の社会的役割がどうとか、責任とか、そんな事は意識していないでしょう。


しかし無意識のうちに、学校という小社会において実践的に、本物の社会への適応力を身に付けているのです。


だから同じ学校の中でもそれぞれ一人一人、異なる環境の中に身を置いていて、しかしそれぞれが役割を果たしているからこそ、学校という小社会が成り立っています。





そんな中、私はいわゆる『不良』とか『ヤンキー』と呼ばれる周りから疎ましく思われる存在でした。


授業をサボる、煙草を吸う位の事は当たり前。

夜になっては友人と街へ行き、朝まで遊び歩く。

そんな生活を送っていました。



私も、悪い事をしているという位の自覚はありました。


しかし、私が自ら踏み入ったその環境は、私を簡単に離してはくれなかったのです。



1度付き合い始めた友人達を否定する事になってしまうという恐怖。


今まで反抗してきた人達にどんな顔して接すれば良いのかという戸惑い。


そんな事がいつも頭をよぎり私の判断を鈍らせました。


目先の快楽へと逃げて、再び自己嫌悪。


その悪循環は簡単に抜けられるものではありません。


そしてそれを繰り返す度に、次第に罪の意識は薄れていくのです。





しかし少しづつ、友達の【遊び】がエスカレートしていきました。


それまではまだ、お酒や煙草でとどまっていたのですが、遂に万引きや集団でのカツアゲなどもする様になったのです。


友達はそれを【遊び】と呼んでいました。


行動を共にしていた私が言えた事ではありませんが、それは世間的に、そして私も、【遊び】ではなく【犯罪】に分類されるものでした。


まだ友達と酒や煙草やで馬鹿騒ぎしているうちは楽しかったのです。


勿論それも犯罪と呼べるものでしたが。


しかし、自分の身体の事なんだからと、高を括る事が出来たのです。


それが出来ないレベルになってしまった友達の【遊び】に、私の心はより強い抵抗をもち、しかし前述の理由で、離れる事も出来ない状況になっていったのです。






その様に、私が理想と現実との狭間で苦しんでいる時に、一人の教師と出会いました。


病気で短期の休養に入った担任の代わりに来た、非常勤の先生です。


担任の専門が国語だったため、勿論専門は国語でした。





ある日、私はその先生に呼び出されました。


少し話がしたいとの事でした。


場所は毎度お馴染みの生徒指導室。


話の内容も想像していた通りの内容でした。


つまり、日頃の生活態度やら喫煙飲酒に関する話。


投げかけられる質問に「あぁ」「別に」等と、適当に相槌を打ち、出来るだけ早く話が終わる様に、心の中で願っていました。


まさか「自分だって続けたくて続けてる訳じゃない」なんて事は言えませんでした。


それが例え本音であってもです。


理解してはもらえないのです。

仕方のない事なのですが。


そんな本音を心に封じて我慢していたらなんとか質問タイムは終わりました。


万引きやカツアゲには直接参加していないから、という理由でその時は不問とされました。




そして次の話に移りました。


こちらもお馴染み、【反省文】。


飲酒喫煙に関する反省文が400字原稿用紙3枚。


その他生活態度に関する反省文が原稿用紙2枚がいつものパターンでした。


しかし、その時は違いました。


先生は既に何か書いてある原稿用紙を数枚、渡してこう言いました。


「これに書いてあるお話をじっくり読んで。明日ここに書いてあるお話について質問するから」


お話、というのは有名な童話、おおかみ少年でした。


狼が来たと騒いで村人達を何度もからかっていたら、本当に狼が来た時に信用してくれなかった、というお話。



今まで反省文は提出した事がありませんでした。


書いて現状が変わるわけでもないので書かないでいたのです。


そもそも小学校の頃から作文は、大の苦手だったのもありますが。


しかしこの時は精神的に追い詰められていた事もあってか、やってみようという気になったのです。


何より書かなくて済むのは楽でしたし、どんな質問がくるか興味もありました。






次の日の放課後、生徒指導室に行くと既に先生が待っていました。


「ちゃんと読んできた?」


「まぁ、読んだけど。元から知ってるし」


「良かった。知らなかったらどうしようかと思ったよ」


先生に少し馬鹿にされた後、質問が始まりました。


「この少年はなんで嘘を繰り返したと思う?」


「村の人を馬鹿にして遊びたかったんでしょ」


「どうしてそんな遊び方するのかな。普通に遊べば良いのにどうして?」


「知らないよそんなの。性格悪かったんじゃない?」


「それじゃ答えにならないよ。考えるんじゃなくて感じてみるんだ。自分が少年の立場になって」



しばらく経っても答えは出なかったので、答えはまた明日、という事になりました。





家に帰って、もう一度読み直し。


少年は何故嘘をつくのか。


そして何度か読み返していくと、ふと、感じる事がありました。




少年はきっと寂しいのだ。


友達はきっといないのだろう。


家柄のせいか何かは分からないけど、村の大人たちからも最初から良く思われていない。


だから毎度、嘘をつくのだ。


毎度毎度、同じ嘘を。


そして村人のリアクションを見て笑い、寂しさを紛らわし、村が落ち着くとまた虚無感に襲われるのだろう。


それから逃れる為にまた、嘘をつく。





そんな事を感じたのです。


そして、

自分に似ているとも。






次の日、先生にそれを話すと合格と一緒に、一冊の本をもらいました。


小さな子供向けの童話集でした。


また馬鹿にされた気がしましたが、家に帰って目を通してみると何故か面白くて、止まらなかった。


載っているお話は、桃太郎とか赤ずきんとか浦島太郎とか、とにかく知ってるものばかり。


けれど、その時読んでみると、全く知らない物語な気がしたのです。


今までは気が付けなかった、文字として書かれていない部分を読み取る事。


それを知った時、本がとても面白くなり、ただの童話に共感し、親近感を覚え、苦しい環境から抜け出す為の勇気を学ぶ事が出来たのです。


これをきっかけに私は、物語の世界へと、のめり込んで行きました。






あの後、休養していた担任が戻ってきたので、先生がこの学校にいたのは二週間程でした。


その間に、今までの生活や友達とケジメをつけ、先生お勧めの本を読むのに没頭しました。






そして今こうして、文章を読むのではなく、書く機会を得ました。


あの課題をきっかけに私は、一つの物語、一つの文章に何回も救われる事になりました。


きっとこれからもそうでしょう。


私にはまだ、人を救う文章は書けません。


しかし、もし卒業文集の中の、この一つのお話を誰かが読んで、何かを得て頂けたら幸いです。



物語達との

素敵な出会いをくれた先生へ

この7枚の原稿用紙に感謝を乗せて



3年5組 西嶋 直美

最後までお読み頂きありがとうございました!


この作品が初投稿となります。

至らぬ点も多いと思いますが今後ともよろしくお願いいたします。


感想やアドバイスも是非!お願いいたします!

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