最終話 本気を出した勇者さま
俺がぶっつけ本番で作り出した【輪廻転生】という魔法は、過去の自分の肉体を、現在に持ってくる魔法だ。ヒントになったのは魔王から渡されたあの辞典のような本だ、あの中には俺が知っているアラン語のルーンでは再現不可能な効果をもつものが多数存在していた。あとはあいつが使ったという封印魔法と身体を変化させていたあの妙な技、どちらも“転生”という能力を応用しているらしいが、逆に言えば“転生”というものを再現できればどうにかなると思ったわけだ。
そこで出てきたのが俺が元いた世界での知識、輪廻やら六道やら、うろ覚えだったが漫画やらなんやらの影響で薄々だが覚えていたのが助かった。俺はその知識を元にして【輪廻転生】という魔法を作り出した。その魔法の正体は“過去の自分の身体を現在に再構築する”魔法だ。即ち、今の俺は、女になる前の……男だった、チート時代の俺の身体だというわけだ。
懐かしの底なしの魔力とオーラ、空寸前だった魔力も既に半分ほどは回復した、そしてなにより身体が軽い。
「な、なんだその姿は……!」
「あぁ? この姿のほうがお前は見慣れてるだろう?」
「ぐっ……!」
教皇は膨れ上がった俺の魔力を感じとったのだろうか、呻き声を漏らしながら半歩後ろに下がった。
だが教皇はにやりと薄い笑みを浮かべ、右手を掲げた。
「キ、キハハ……そうですか、君も元の姿に……魔力も増えていますし、力もある程度は戻っているのでしょう。ですが! 私も戦力の補充を怠るほど馬鹿ではないのです!」
ザワザワというざわめきとともに、周囲の地面から黒いものが立ち上っていく。全部悪魔か、しかも全て『伯爵』級以上か。軽く見積もっても数千……いや、もしかしたら万をも超えている可能性もある。
「君の、アリスという戦力については私もよく知っている、昔は私が運用していたのだから。だからこそ、ここで徹底的に潰しておく!」
「なぁ教皇、あんたは何でそこまでして俺を消したがるんだ?」
右手を掲げて語っていた教皇に、密か不思議に思っていた疑問を投げかける。
俺は教皇とは、人間と悪魔として出会ったことは一度もない。俺が初めて教皇にあったのも俺が封印される最後の1年の間だ。恨みを買っていたならわかるが、魔王とぶつけたりしたり、そこまでして俺を消したがる理由が分からない。
「キハハ、簡単なことだ、君は邪魔なんだよ」
「邪魔?」
「そうだ、君のその力はいずれ邪魔になる。だから早急に消したいんだよ」
教皇は右手を掲げたまま、俺に邪魔そうな顔でそう言った。教皇が何をしたいのかは分からない、世界征服がやりたいのかもしれないが……どっちにしろ、俺と俺の知り合いに被害が及ばなければ俺は何もしないだろう。正義感の強い英雄じゃあないんだよ、俺は。
「キハハハ! わかったかい? じゃあ早急に死んでくれたまへ」
教皇が掲げていた右手を振り下ろした。と同時に周囲の黒い影、無数の悪魔たちも俺に向かって動き出した。
「そうか、やっぱりお前は俺の敵か。いや、仮にそうじゃなかったとしてもクレアに手を出したから結末は一緒だがな」
俺は指一本動かさず、そのままの体勢のまま、魔法を唱える。
『【アイシクルフォース】』
魔法が発動すると同時に俺の周囲から無数の氷塊が悪魔たちに向かって飛んでゆき、そのまま空中に氷の華を咲かせ、やがて、氷塊に接触して凍結した悪魔も一緒に粉々に砕け散った。
「なにっ!?」
今ので悪魔の1割ほどを倒した。やっぱり多いな、元々【アイシクルフォース】は1対1で使うような魔法だし、やっぱり不向きだったか。
「すまんな、悪魔。操られているだけなんだろうが――」
もう身体が壊れる心配のない俺は、身体に本気でゼクトオーラを纏わせて、大回りに右手をぐるりと一周振り回した。振り回した腕からはゼクトオーラが広範囲に拡散しながら悪魔に向かって真っ直ぐに進んでいく、操られているせいなのか、悪魔たちは避けようともせずにそのままゼクトオーラに突っ込んだ。
拡散したとは言っても、俺の全力のゼクトオーラは、たかが数キロで薄まるほどヤワなものじゃない。
「死んでくれ」
周囲の黒い影は、晴れた。
サンサンと空からは明るい光が降り注いだ。
「……!!」
教皇は信じられないものを見たというような表情で口をパクパクとさせていた。
「力がある程度は戻ってる? 何を言ってやがる、全部戻ってるに決まっているだろう。俺から漏れ出ている魔力は、俺が抑えた上で漏れ出しているものだ。と、いうか教皇、お前は俺の本気を見たことがないだろう?」
既に戦意が失われてそうな教皇の前で俺はそんなことを言った。
やられたらやり返すのが通りだろう、俺は抑えていた魔力を開放して、ゼクトオーラを纏い、全力で威圧しながら教皇に近づいた。
「は、ハヒ……ハ……!」
「さぁ、言い残すことはあるか?」
「そ、そうだ! 私が世界を獲った際には君に世界の半分を――」
「在り来たりな台詞だな」
俺は教皇の言葉を遮って、右手を向けた。それだけで教皇は悟ったかのように地面を這いずりながらも逃げ出そうと必死になっていた。
「塵すら……いや、魂すら残さねぇ」
俺は詠唱を開始する。
「い、嫌だ……! 私はここで死ぬべき存在ではないんだ! 私は、私はぁぁ!!」
『――――――――、全てを無に帰す、【消滅】』
魔法が発動すると同時に、右手からは教皇の身体を覆い尽くすほどの太さの白い光線の様なものが放出され、教皇の身体を飲み込んだ。【消滅】はなんでもかんでも消滅させる魔法……ではなく、光線が出るような光属性の魔法だ、行き過ぎた浄化は消滅になるらしく、はじめは浄化……みたいな名前だったが、効果を知ってからこの名前に変えた。
教皇の身体は既に無く、俺が宣言したとおり、塵すら残ってはいない。魂がどうなるかはしらないが、そこらへんは天使やら神やらの領分だ、俺は知らん。
教皇の最後を見届けると、俺は少し後ろに座っているクレアへと振り向く。
「終わったの?」
「あぁ、終わったさ」
クレアにそう返して、近付いて行ったが、そこので【輪廻転生】の効果が切れたらしく、俺の身体は薄い光に包まれ、身体の表面がボロボロと崩れ落ちた。
「アリス……男の子に戻ったんじゃなかったの?」
「うん? いや、アレは時間制限付きだ、1分と少しくらいしか持たねぇんだ」
その中からは、銀髪で小柄な少女な俺が現れた。
「それに、今の俺は女だ、男じゃない」
「……そっか」
「うぉっ!」
「アリス!?」
男に戻ったときはなんともなかったが、元に戻って筋力が落ちたせいで俺はバランスを崩した。クレアはすぐに反応して俺の身体を抱きとめてくれた。
「すまん」
「ふふ、男の子のアリスもかっこいいけど……女の子のアリスの方がやっぱり落ち着くね!」
「はは、凄い微妙な気分なんだけど」
クレアとの懐かしいテンションの会話をしていると、空の遥か彼方から巨大な影が近付いているのが見えた。見た感じは竜の様だった。
「何あれ」
「バハムートだな」
「バハムートさん? たしか古龍種っていう竜なんだっけ」
「そうだぞ、普段はあんな感じだが、本体は馬鹿みたいに巨大だからな」
恐らく居なくなった俺を追ってきたんだろう、契約によって曖昧だが俺の位置も分かるようになってるしな。どうでもいいが丁度いいところにきた、このままアイツに乗せて帰ろうか、俺の魔力もまだ回復してないしな。
「さて、クレア……帰るか」
「そうだね」
俺とクレアは空を見上げながら笑いあった。
こうして俺は、これからどんどんと昔の力を取り戻して行くんだが……出来れば本気なんて出したくない。
俺はクレアと、静かに穏やかに暮らしたい。
完
さて、思うところも多々あると思いますが、「本気を出さない勇者さま」これにて完結となります!! みなさま本当に有難うございました!!
気がつけばもう10月、投稿開始が去年の11月の24日ですから、大体10ヶ月くらい……大雑把に言って約1年の連載となりました。正直ここまで長くなるとは思いませんでしたね、はい。長くなりすぎて設定もおかしくなっていましたし……まぁ、それらは次回に生かすことにしましょう!!(汗
さて、ここで現時点でのこの小説のブクマ数やらなんやらを記入しておきましょう!
総合評価 5,057pt
評価者数:161人
ブックマーク登録:1,831件
文章評価 平均:4.3pt 合計:686pt
ストーリー評価 平均:4.4pt 合計:709pt
文字数 356,786文字 全90部
感想は108件もいただきました!!有難うございます!!
そして総PV数は……1,534,011アクセス!!
ユニークは236,985人!!
150万PV、ユニーク23万人を有難うございます!!
初投稿でここまで行ってくれるとは思いもしませんでした……あれ、画面の解像度が……このPCも遂に寿命か……
最後になりますが、これまでの間、拙い文章と雑なストーリーでも読み続けてくれた皆様、何度言いますが本当に励みになりました。最初の方から感想を送ってくださった人も何人かいらっしゃいます。
ちょっと何言ってるかわからなくなってきたので締めますね……
まだまだ執筆活動は続けて行こうと思っています、それについては活動報告にて述べるのでそちらの方のご確認をよろしくお願いします!
それでは皆さん! またどこかでお会いしましょう!!
See you again!