第80話 話し合い
役者は……揃った!
目覚めると天国……ではなく、いつも通りの天井だった。俺の部屋か……いや、なんでだよ。
「お目覚めか……」
俺が素朴な疑問を抱えていると、横から聞きなれた懐かしい声が聞こえた。俺の傍で椅子に座っていたのは白い髪に褐色の肌をした美人だった。
「バハムートか? なんでお前」
確か……封印やらなんやらで出てこれないとか言っていた筈だが……
「あぁ、それか。それならお前を封印した張本人が直々に解きに来たぞ」
「張本人……魔王か?」
「そういうことだ、お前の封印は一応……完全に解けている」
封印が解かれた……? ということはルシフェルとディアボロスも出てこれるってことか。
ちなみにルシフェルは、俺に例の天罰をいきなり撃ってきた阿呆で、その後、俺にボコられてからいろいろあって……最終的に契約をした第一席天使長だ。頭が悪いわけではないが、行動と言動が阿呆っぽくてそう見える、実際にそういうところもあるのだが、基本適には約に立つ。
ディアボロスは魔界でも有名な『魔王』級の悪魔の1柱で、身長が3メートルに届こうかというほど高く、ついでに頭の両側から生える2本の角も1メートルを越える長さを持つため、角も入れて4メートルほどにもなる巨大な悪魔だ。
「アリス!!」
壊れそうな音を立てながら、木製の扉が勢い良く開けられた。おい、ここ俺の部屋。
俺の名前を呼びながら入ってきたのは案の定クレアだった。
そしてその後ろには俺よりも小さいくらいの少年がいた。
「クレア……と、ディアボロスか」
ディアボロスも竜と同じような“人化”もどきができる、普通にしていれば4メートルの巨人だからな、この部屋、というか建物に入るにはそうするしかないのだろうが。いつみてもギャップがひどいな、身長が半分以下になってるぞ。
「アリス、身体は大丈夫? 変なところとか無い!?」
クレアはすぐさま俺のそばに来ると、肩をもってぐわんぐわんと揺らした。少なくとも怪我人の扱いじゃねぇな。
しかし、なんか変わったな……こう……凛々しくなったというか……正直に言えば阿呆っぽくなくなった、賢そう。
「アリス……なにか失礼なこと考えてない?」
「いや、考えてないです」
「それよりも! アリス無茶しすぎだよ!!」
「おぉう……」
「おぉうじゃないのだ、嬢の言う通りなのだよ。我々、特に竜神と天使長が居なかったら死んでいたのだよ」
そういえば、マナ変換やって全身から血を吹き出したんだっけ? よく知らないけど、全身が痛かったから多分そうだと思う。
「そうか、じゃあバハムートとルシフェルには感謝しないとな」
「え? なに、よく聞こえなかった、もう一回言って?」
いつからそこにいたのか、開けてあった窓の隙間からそんな声が聞こえた。そこには金髪の青年がニヤニヤとした酷く苛立つ顔をしてこちらを覗いていた。
「誰だおまえ」
「ひっでぇ! ほら、オレだよ、オレオレ」
「バハムート、ディアボロス……知り合いか?」
「知らないな」
「知らぬのだ」
「うぉぉい! 1000年ずっと一緒にいたじゃん!」
「うるさいぞルシフェル」
「いやアリスのせいだろ!?」
この喧しいのがルシフェルだ。酷く阿呆っぽいが……一応天界のトップだ。
「おーい……アリスが目覚めたと聞いたのじゃが」
そんな事をしているとさらに開いていた扉から一人の黒髪の少女が部屋の中に入ってきた、少女の頭には2本の角が生えていた……悪魔かこいつ。と、いうか……この部屋小さいんだけど、どれだけ詰め込むつもりだ。
「……誰だ」
「知らないのか?」
「いや、全く」
今度はルシフェルの時の悪ふざけではなく、本当に誰なのかが分からない、そもそも黒髪の少女に知り合いとか居ないし。
「お、おい……儂じゃよ、クレセリオットじゃよ」
「知らん」
「アリス……お前……」
なんだバハムート、俺に可哀想な者を見るような目線を向けて。流石にこれは俺のせいじゃないだろう、知らないものは知らないんだ。
「……そうか。そういえばアリスと会ったことがなかったのじゃった」
「?」
「ちょっと待っておれよ……昔の姿に戻ってやろう……」
「は? 何言って……」
「あ、そうだ……絶対に、殴るんじゃないぞ?」
謎の少女はそう言うと、何かの魔法? を使った、聞いた感じ、アラン語ではない……というか聞いたことない言葉だったな。魔法に使われていたルーンも意味不明な動きしてたし。
俺が少女に使っていた魔法に気を取られて気がつかなかったが。ふと、気がついたときには……俺が男だった時代に最後にみた人物の姿があった。
2メートルを越える巨漢、長い角、そして燃えるような紅い髪。
「魔王……?」
「久しぶりだな」
「あ、あぁ……」
「殴りかかってこないんだな」
「一応事の顛末を知ってるからな」
「そうか……」
部屋の中に酷く居心地の悪い空気が流れた。バハムートとディアボロス、ついでにルシフェルはなんともないようだが、魔王とクレアは酷く微妙な顔をしている。
「そ、そろそろいいだろう。元の姿に戻るぞ」
魔王はそういうとまた、黒髪の少女の姿になった。
「戻る……ってことはそれがお前本来の姿なのか?」
「いや……これが今の儂の姿なだけじゃよ、前はあの姿じゃった」
「前?」
「そういえば知らないんじゃったな、改めて名乗ろうか、儂の名はクレセリオット、“転生者”の異名を持つ魔族の王じゃ。そしてその異名から分かると思うが……儂は“転生”と言う固有の能力を持っておる」
「転生、か」
「そうじゃ、記憶と魔力を引き継いで、死んでもまた生き返る……というものじゃ。ついでにいうと、お主に使った封印も、この能力からヒントを得たものなのじゃよ」
「そういえば、あのとき俺はお前に胸貫かれたんだけど……」
「あれが封印魔法なのじゃよ、あの魔法は“魂”に間接的に作用する魔法じゃからな。とは言っても、実際に貫いているワケじゃないがの」
「そうか……で、それはともかく。なんで封印で俺の……」
性別が変わるんだ、というところで俺は言葉を出すのを躊躇い、チラッとクレアの方を向いた。
クレアは俺が元男だということを知らない、クレアのことだから大丈夫かもしれないが……万が一拒絶された時には――そんな事を考えると心臓が握りつぶされるような感覚に襲われる。
「大丈夫だよ、私はアリスが男の子だったって言うのは知ってるから……」
「え、マジで……?」
「大丈夫だよ」
クレアはそう言いながら俺に向かって微笑んだ。やっぱり……変わったな、どこか安心できる雰囲気を纏ってる。
「そうか……じゃあ質問を続けるぞ。なんで封印で俺の性別、ついでに能力の制限やら身体能力の低下やら魔力量やオーラノードが少なくなったりするんだ?」
「うぐ!?」
俺がそれを聞くと、魔王は呻き声を漏らしながらタラタラと冷や汗を流し始めた。
「おい」
「クレセリオット、話すのがお前の義務というものだぞ」
「わ、わかっておるのじゃ! ……ふぅ、アリス……こころして聞くのじゃ」
そういうと魔王がゴクリと生唾を飲み込んだ。それ、俺のリアクションじゃないのか?
「まず、お主の“魂”への直接的な干渉は出来ない、そうじゃったな?」
「あぁ」
確かに、俺は……俺が持っていた固有の能力で“魂”やら“記憶”やらに干渉することを防いでいた。
「儂の持つ能力“転生”は魂に作用するものじゃ、だからその能力を使ってどう魔法を作っても、“魂”に干渉する限りはお主には使えないのじゃ。だから儂は思いついたのじゃ……」
「“魂”がだめなら“身体”に使えばいいってことか」
「まぁ、そういうことじゃよ。 お主に使った封印魔法というのは、一度お主を解体してからまた一から作り上げるというモノなのじゃ」
「解体? なんでそんなことをする必要があるんだよ」
「アリス、お前……あの時魔王……ややこしいな、あの教皇とか呼んでた奴に洗脳されてたんだぞ」
「そういえばそうだったな、それでそれがなんで俺を解体することに繋がるんだ?」
「簡単に言えばその洗脳を解く為じゃよ、あやつも伊達に“幻惑”の異名持ちの魔王ではないからの。魔法を使わずに洗脳されておったから魔法ではどうにもできんし、記憶に作用する魔法が使えたとしてもお主には効かぬじゃろう?」
「……いや、なんでだよ。解体して洗脳が解けるのか?」
「いや、解体した理由は単に封印できる期間を伸ばすためじゃ。普通の封印魔法じゃともって100年くらいじゃからの、流石にそれではいけないのじゃ。1000年も使う必要はなかったのじゃが、流石に1000年後の世界に降り立てば、少しは頭が冷えるじゃろう……と思ってな」
「無理だったらどうしんだ?」
「その時はその時じゃ」
でも、確かに頭は冷えたかな、1000年も経ったんじゃあ恨むものも何もないし。どっちかっていうと俺の身体が女に変わったことによる動揺のほうが大きかったとは思うが。
「待て、そこのどこに俺が女になる原因があるんだ。解体して組み立てるだけなら俺は男のままのはずだろう?」
「う、うむ……それはだな……」
「なんだ?」
魔王はしばらく唸り声を上げたあと、意を決したように話し始めた。
「えっと……じゃな、1000年後にお前の封印が解けたときに“幻惑”の魔王がおったらマズイと思って取り敢えず亡き者にしようと思ったのじゃがな? なんというか、強くての……油断してちょっとお主の魔力とかいろいろ封印を解く鍵を奪われてしまった……」
「は?」
「だ、大丈夫だよ! それのせいであいつも封印されたから、あいつの封印を解いたり殺したりすれば戻ってくるよ!」
「クレセリオット、素が出てるぞ」
「はわぁぁ!?」
魔王の素はどうでもいいが……これってもしかして……
「全部お前のせいじゃないのか?」
「うぐ!? 」
「で? なんで俺は女になったんだ?」
「え、えっとじゃな……お前の身体を解体したときに、その身体を魔力に変換して蓄えておったのじゃが、“幻惑”の魔王に奪われてたことによって不具合が発生しての……お主の身体を生成する分の魔力が足りなくなったのじゃ……そして最終的に……お前のもつ能力の多くは封印が解けぬままになり……魔力が足りなかったせいで、封印魔法は男よりも軟弱な身体をもつ女の姿で……できる限り年齢と身体能力を高くした状態でお主の身体を再構築したのじゃろう……」
「能力の多くは封印が解けないまま?」
「そ、そうじゃ……」
「さっきバハムートからお前が直々に封印を解いたって聞いたんだけど、しかも完全に」
「うぐぅ!!」
「魔力が足りないせいって……結局はお前のせいだよな」
「うぐぅ!!!」
「お前が教皇相手に油断しなかったらこんなことにならずに済んだんだよな?」
「うぐぅ……うぅ、ひっく……」
「もうやめだげてよぉ……」
遂に魔王は啜り泣きを始め、クレアはオロオロとしながら俺にそう言った。というか……魔王のイメージが以前の巨漢の俺にとって、魔王が泣いてるとあの巨漢が泣いてるように思えてきて違和感すごいんだが。
「クレア、こういうやつにはキッチリとやっておかないと後々調子に乗るからな」
「うわー、凄い既視感」
「そうだよルシフェル、お前のことだ」
取り敢えず一旦、落ち着こうか。
説明回って感じでしたね。
そろそろ9月が終わりそうです……8月に「今月中に終わらせます」とかいって終わらず9月にも同じことを言いましたね、2度あることは3度あるとはよく言ったものですよ(白目
次回、4日後になるかもしれません。ストックを……貯めるんや……