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第79話 死なせねぇから!

ダメだ、3人称難しい!

 それはまるで噴水の様だった。吹き出ているのは透明で澄んだ水ではなく赤い血液なのだが。


「アリス!!」


 倒れる間際に何かを言っている様だったが、結局何を言っているの分からなかった。ただ、それが残酷な内容であることを、クレアはある程度予想できた。

 エイフィスや各上位精霊から精霊魔法を学び、急いでアリスの元に駆けつけたものの、クレアがしたことはビーム型の無属性の中位魔法で魔王の気を散らし、アリスが攻撃する隙を作った程度だった。しかもその隙のせいで、今の現状があると、クレアは自己嫌悪に包まれていた。

 魔力も気配も感じ取れない、そして何より……“心の色”が見えなかった。寝ていても、気絶していても、心があれば色は見える。その色が見えないということは……


「アリス……!」


 目の前の血みどろになったアリスを見て、どんどんと視界が霞んでいく。

 ボロボロと涙がこぼれ落ち、目の前が真っ暗になっていった。


 だがしかし、その絶望は既のところで食い止められることとなった。




「アリィィス!! 勝手に満足してんなよ!!」




 その大音量の怒声に、クレアは声が聞こえた頭上に視線を向けた。

 視線の遥か先には、黒い点の様なものが見え、どんどんとこちらに近づいているのが分かった。近づいてくるにつれてその存在の姿がはっきりと見えてきた。白い肌に、それと真反対の少し青紫が入ったような黒のドレスを来た艶のある黒髪のツインテールの少女だった。そして何より、そのツインテールの結び目の下の辺りから生えているその頭とは不釣り合いなほどの巨大な角が、人間でないことをはっきりと主張している。

 少女は、焦ったような表情でこちらに目掛けて落下してくる。


「っ!!」


 その角を見てクレアの頭に真っ先に思い浮かんだのは先ほどまで、嫌というほど沸いていた“悪魔”という存在だった。

 次の瞬間には、クレアはそれが敵だと瞬時に思い込んで、僅かに回復しただけの魔力を全てつぎ込んで、ギリギリで完成した下位の無属性魔法を放っていた。


「邪魔!」


 しかしそれは少女が軽く放った左腕に少し触れただけで、まるで初めから無かったかのように消滅した。

 少女はほどなくして数メートルさきのアリスの亡骸の近くに降り立ち、右手を大きく振りかぶった。その右腕からには魔力が溢れんばかりに込められている。


「あ―」

「うるさい! そこでじっとしてて!!」


 少女はクレアが何かを言う前にそう怒気と焦燥が篭った声でそう言い放った。クレアはその迫力に呑まれ、蛇に睨まれたカエルのように動けなくなってしまった。


「うああああああああああああ!!!」


 そして、少女はその右腕をアリスの身体目掛けて振り下ろした。


 少女の右腕とアリスの身体が接触すると同時に、周囲には甲高い、何かが壊れるような音が響いていた。少女の腕は火の中にでも突っ込んだかのように焼きただれており、その顔は、先程までとは違い、穏やかな顔に変わっていた。


「ルシフェル、手伝え!!」

「わぁってるよ!」


 次に聞こえてきたのは聞きなれない声だった。ふと気付けば、いつの間にかアリスの傍に二つの影がある、アリスに治療を施しているようだった。

 片方は、数年前のアリスがナイフで刺されるという事件が起きたときにアリスの傷を治してどこかえ消えていった美女だった、クレアの記憶ではその肌は褐色だったはずだが、今は陶器のように真っ白になっている。そしてもう一人は、天使……だった。ただ、その背中から生えている翼は3対、6枚ほどになっているが。

 そしてもう1つ、すこし離れたところで周囲の様子を伺っている大きな人物、身長は、目測で測っても優に2.5メートル以上はあった。しかも、その人物の頭にも、少女と同じく、もしくはそれ以上に巨大な角が空に向かって伸びている。悪魔だった。


「ふむ……?」


 ガラガラと、すこし先の瓦礫が崩れる音が聞こえ、その巨大な悪魔はそちらの方向を、訝しげに見つめた。

 瓦礫の中から出てきたのは、先ほどアリスの一撃をくらい、死んだはずの魔王、ベルセルクだった。流石は魔王と言ったところだろうか、アリスの渾身の一撃を受けてもなお生き残り、さらには目立った傷も全て治療済みだった。ただ、流石に全快というわけにはいかず、特にアリスの一撃の傷は治りきっていないようだったが。

 傷だけが治った血だらけの魔王は、アリスやクレアが居る場所に視線を移すと、ニヤァと不敵に笑った。


「クハハハ!! 何をやっているのか知らねぇが、そいつはもうダメだぜ!」

「っ!?」


 ベルセルクはアリスに治療を施す2つの存在に向かってそう言い放つ。しかしそれに対する返答はなく、代わりに巨大な悪魔がベルセルクにつまらなさそうな視線を向けた。


「……こんなのに負けたのか? ヤレヤレ、随分と弱っているようだ」

「んだテメェ……」


 ベルセルクは彼に向けられた視線が気に入らないのか、コメカミに青筋を浮かばせながら彼を睨んだ。


「それはこちらのセリフなのだよ。スマンが、おれは貴様のようなザコに構っている暇はないのだ、そこらを飛び回る羽虫どもを駆除しなければならないのだよ」


 落ち着いた雰囲気で、ゆっくりと話す彼に、痺れを切らし、上位魔力(エーテル)を纏って身体能力を強化して勢いよく襲いかかった。


「余裕カマしてんじゃねぇ!!!」

「……ヤレヤレ――」


 身長差もそうだが、クレアの目には酷く滑稽な画に見えていた。それはまるで、巨大な獣に飛びこむ、力のない一匹の蟻のようだった。

 彼はふぅ……と溜め息を吐くと、ベルセルクが突っ込んでくるタイミングに合わせてがっしりとした腕を横になぎ払った。すると、ボッという聞いたこともないような音とともに、ベルセルクの姿が消えた。よく見れば彼の周囲には、()が舞っていた。


公爵(・・)如きが、魔王であるおれに歯向かうなど烏滸がましいのだ」

「そいつ……魔王だよ」

「なぬ……?」


 彼が言った言葉に、瓦礫を背にもたれ掛かって休んでいた少女が訂正した。彼がベルセルクを『公爵』級の悪魔と間違えるのも無理はない、なぜなら彼は1000年近い間、アリスの作った空間のなかで眠り続けていたのだから、1000年前と今ではその基準すら大きく違っていた。昔では『公爵』であった悪魔が現代では『魔王』と名乗れるほどになっていた。


「……まぁ、仕方がないのだ」


 それを聞いた彼は、そうは言いながらつまらなさそうな顔をした。


「ところで、先ほどからこちらを向いているそこの……良く分からないのは何者なのだ?」


 ふいに、視線を向けられて、クレアはビクッと身体が震えた。それは緊張ではなく、恐怖だったが。自分の全身全霊を賭しても歯が立たなかった相手を、たったひと振りで沈めた相手だ、そうなるのも無理はないだろう。

 そんな彼の疑問に答えたのは、アリスの治療を続けている、美女……つい先日までは幼女の姿だったバハムートだった。


「その娘はアリスの友人だ、確か……クレアとか言ったか」

「あ……はい」


 バハムートがそう言うと、次は少女が納得したように頷いてクレアの方へ近付いてきた。


「そう警戒しないでよ」

「お前からにじみ出るオーラに怯えているのだよ」

「うるさいなぁ、それをいうならアンタのほうがよっぽど怖いよ」

「そんなことはないのだよ」

「ないのだよじゃないのだよ、あるのだよ」


 外見からは想像もつかないようなコミカルなコントを魅せつつ、少女は再度クレアに向き直った。


「あぁ、ごめんね。私の名前はクレセリオット。気軽にクレセリアって呼んでね」


 そう言って差し出された手に、クレアはつい普通に手を差し出してしまった。握手したときに感じたその感触は暖かく、軟らかい普通の少女のものだった。


「よし……これで一先は安心だな」

「しっかし、あっぶねぇマネするねぇ、アリスは」

「全くだ、自分の身体のことを考えろと何回も言ったのだが」


 足音と共にこちらに近づいてきたのは、アリスを抱えたバハムートと、ルシフェルと呼ばれた天使の男だった。抱きかかえられたアリスには血痕一つついておらず、綺麗な元の状態に戻っていた、服は破れていたが、どこから出したのか、天使の男と同じ様な雰囲気の服を身にまとっていた。


「あの!」

「あぁ、心配するな」


 アリスを視界に入れるや否や安否を確かめようとするクレアに、バハムートが微笑みながらそう言った。


「もう大丈夫だ」


 その一言を聞くと同時に、クレアは力が抜けるようにヘナヘナと地面に座り込んでしまった。


「そういえば、自己紹介がまだだったな。私の名前はバハムート、古龍種だ。周囲からは“竜神”とか言われている」


 バハムートが微笑みを崩すことなくそう言った。

 それを見た周囲も、バハムートに続くように自己紹介を始めた。


「俺の名前はルシフェル、一応……第一席天使長っていう地位についてる。って分からないか」


 ルシフェルと名乗った天使はガシガシと頭を掻きながら適当に言い放った。


「うむ、最後はおれか。おれの名はディアボロス、一応は魔王だが……さっきのザコのような魔王ではないから安心するのだよ」


 最後に巨大な悪魔、ディアボロスがそう言った。


「よし、取り敢えずアリスを寝かしたいのだが、クレセリア、どこかいい場所はないのか?」

「うん? それなら学院を使えばいいんじゃないかな、あそこにはベッドがあったはずだし」

「おれはあとから行くのだ、その前に羽虫どもを駆除しなければならないのだよ」

「そうか、じゃあそっちは任せたぞ。それと……クレアだったな」

「は、はい!」

「話したいこともあるし、一緒に来るといい」


 そうして一行は一先、学院に向かうことになったのだった。

ナンダコレ、という意見は受け止めます、作者も同じ気持ちです。

いきなり主人公の1人称に持っていくとすごい時間飛ぶし、かといってSideはあまり使いたくないので3人称にしたんですが……ダメみたいですね。

次回からはキチンと主人公視点です。


次回は4日後、ストックが溜まらないんじゃ~!!

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