第77話 ヒロイン覚醒
なんか説明文多い……
「あの……大丈夫ですか?」
「っ……は、はい!?」
自身と同じ風貌をした少女、エイフィスを見て若干の間呆けていたクレアに、エイフィスは目の前で手をヒラヒラと振って意識をこちらに向くように仕向けた。
クレアはハッと我に返り、もう一度目の前の少女とその後ろの6人の大男を見上げた。少女は兎も角、その大男たちが何者なのかは、クレアには大体だが想像がついていた。
「私の中の……精霊?」
「あれ? 知ってたんですか?」
クレアがそう呟くと、さも意外というような顔でエイフィスは驚いてみせた。
「あ……はい、アリスから一応は聞いていたので……詳しくは知らないですけど」
「なるほど、じゃあそこは大丈夫ですね。貴方の言う通り、後ろの方々は火、水、風、土、闇、光の属性を司る上位精霊たちです」
「上位……精霊」
上位精霊とはどういうものか、そもそも精霊という存在自体を大まかにしか把握していない今の世界では十分な知識があるはずもなく、そんな世界で育ってきたクレアにも精霊の知識はほぼ無いに等しいものだったが、その外見と上位とつくことから、それ相応の力があるだろうことは容易に把握していた。
「えぇ、そして貴方はこの方々と私の子供なんです」
「……は?」
エイフィスから放たれた言葉によって、クレアの思考は今一度ストップした。
「こ、子供って……どういう」
「ちょっと飛躍しすぎましたね、子供といっても私が産んだ訳ではありませんよ?」
「そ、そうなんですか?」
「えぇ、そもそも精霊が基本どうやって産まれてくるか……貴方はご存じですか?」
「い、いえ……」
「精霊は俗に精霊の森と呼ばれる場所のどこかに存在する“精霊の泉”で誕生します、精霊は肉体を持っていませんから、こう……フワッっと出てくる感じです」
「フワ……ですか」
「えぇ、エルフとその上位種であるハイエルフは精霊の中でも肉体を持っている稀有な存在ですが、その場合も泉から生まれるみたいですね」
「みたい……ですか?」
「はい、先ほども言ったとおり、エルフは肉体を持っている精霊ですから、生物として繁殖することもできます。肉体を持つ精霊を産みだすにはかなりのエネルギーを必要としますので、おそらく救済処置のようなものなのでしょう」
「は、はぁ……」
なぜこんな話になったのか、すでに両人とも忘れかけていたが、饒舌なエイフィスの言葉はほとんどクレアの頭に入っていないことだけは確実だ。
「エイフィス殿、その話しはその辺りにしておいて、要件を済ませないか……?」
「そ、そうでしたね!」
後ろの炎の纏った……その外見からおそらく炎の上位精霊……イフリートと分かる大男がエイフィスにそういった。エイフィスはイフリートの言葉を聞いて何かを思い出したかのように慌ててそう返した、大事なことを忘れていたためか、その頬はほのかに赤い。
「え、えー……コホン。それでは……時間もないので手っ取り早く要件だけ先に言いますね」
「……はい」
軽く咳払いをして、クレアに向かってそう言う彼女に、クレアは胡散臭そうな視線を向けるが、次の瞬間に、急に真剣な表情に変わったエイフィスを見て、クレアも何かを感じ取ったのか、自然と真剣な顔付きになっていた。
「ではまず、アリスのこれからについてです」
「アリスの?」
「はい、ほんの少し前からですが……私もある程度は外の状況を貴方を通じて感じ取れるようにしていましたが、その時に私は強い気配と魔力を感じとりました。それは確実に、今のアリスよりも強大なものでした……」
「そ、それって」
「……あの人は、貴方の封印を破ったということはゼクトオーラを使えるのだとは思います……これは私の憶測に過ぎませんが……まず勝機はないでしょう、引き分けになる確率もいまのままではほぼゼロです。アリスの現在の身体では満足に戦うことすら出来ないでしょうし……憶測とは言え、それに似た結末になることは明らかです」
「そんな……!」
「ですがまだ方法はあります、先ほど言ったのはあくまで“アリスが1人が戦った場合”の憶測です、貴方が参戦すれば……」
「でもアリスでダメな相手に、私の魔法なんかが通用するんですか?」
「ふふ……そこは大丈夫ですよ、言ったでしょう? 貴方は我々の子供だと。実際には妖精たちもいますが……貴方は私たちの魔力を元に生まれた、ティリス最後の精霊なんですから」
エイフィスの言葉に、クレアは生唾を飲み込んだ。
「では、アリスを助けるにはどうすればいいのかを説明しますね?」
「はい!」
「ふふ、いい返事です。精霊の起源は神の使いとも呼ばれて……いや、そこは省略しましょうか。簡単にいえば、精霊は協力な魔法やそれに似た“精霊魔法”と呼ばれるものを扱いますが、精霊は種ごとにそれぞれ一つの属性しか扱うことができません、炎の精霊なら火魔法のみ、水の精霊なら水魔法のみ……といった具合です」
「……もしかして、私の中には6つの属性を持った精霊がいるから……それをどうにかするという事ですか?」
「察しがいいですね、そのとおりです。エルフは精霊の中でも肉体をもった稀有な存在だと言いましたが、それは魔力の面でも一緒です、本来属性を一つしか待つことの出来ない精霊ですが……エルフは全属性を扱うことが可能です、さらには肉体を持った現界の生物固有の“オーラ”を扱うことも」
エイフィスは話を続ける。
「精霊が扱う魔法の中には“精霊魔法”と呼ばれる魔法が存在します、説明が難しいですが……簡単に言えば自分が好きなように好きなだけ、魔法を操れるといえば分かり易いですか?」
「えっと……それは、炎の精霊のものだと、炎を自在に操れるってことですか?」
「そういうことになりますね」
エイフィスは段々と頭の回転が速くなってきたクレアを見てニコリを微笑みながら、さらに話を続ける。
「さて……ここで一つ問題です」
ピンと人差指を立てて、エイフィスはクレアに問いかけた。
「火、水、風、土、闇、光……精霊の存在するこの6つの属性……この属性全ての“精霊魔法”を同時に扱い、かつ一つに纏めた場合……どうなると思いますか?」
「……消滅する?」
「惜しいですね、正確には、魔法の属性が無くなるんです」
「それって普通の魔力に戻るってことじゃないんですか?」
「いえ、お互いに干渉しあって属性特有の反応がでないだけで、一応属性は存在しますよ……名づけて“無属性”」
「それって強いんですか?」
「えぇ、とっても。“無属性”は全ての属性の特徴を持ってますから……取り敢えずは“無属性”の初級で並の上位魔法はたやすく打ち破れると思いますよ?」
「そ、そんなに……」
「ただし、魔力の消費が大きいので、今の貴方には中位クラス一回が限度でしょう。さらには各“精霊魔法”を習得しないといけませんから……」
「つまり……私は」
「そうです、いまから貴方には……6属性の“精霊魔法”を習得してもらいます」
エイフィスは真っ直ぐ、クレアの瞳を見てそう言った、クレアも視線をそらすことなく、エイフィスを瞳を真っ直ぐに見つめた。
やがて、2人はクスッと笑みを零した。いつの間にか……クレアの纏う雰囲気は、以前とはまるで違うものに変化していた。
「アリスを助けるためなら……私はなんだってしますよ」
「頑張って下さい、私にはもう……直接あの人を助けることはできませんから。あ、でも――」
「死ぬのはダメ、ですか」
「ふふ、分かってるじゃないですか」
「当たり前ですよ、アリスを守って私が死んだら意味ないです」
「では早速……火の“精霊魔法”から習得していきましょうか」
エイフィスはそう言ったあと……少しだけ悩んで、クレアにこう問いかけた。
「そういえば……貴方は知ってるんですか?」
「? ……何がですか?」
「えっと……アリスが……」
「アリスが元々は男の子だったってことですか?」
「……知ってたんですか?」
「いえ、さっき気付きました。なんでしょうね、いま凄く頭が冴えてるんですよ、それでですかね?」
「……貴方は、女の子のアリスが好きなんじゃないんですか?」
「いえ……私は“アリス”が好きなんですよ。男だろうが女だろうが、どんな種族だろうが……それがアリスである限りは……愛せます」
「……ふふ、良いですね、青春って感じです」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「――さん、レ――ん、クレアさん!」
「あ……」
目が覚めると、クレアは自分が地面に倒れていることを理解した。
(ベッドまで運ばれていないってことは……そんなに時間が経ってないってことなのかな? そういえばあの場所では時間が進むのが遅くなるとか言ってたっけ?)
「マリア、私ってどれくらい倒れてた?」
「え? えっと……大体数分です。それよりもお身体は大丈夫ですか? いきなり独り言を叫びだして倒れたときはどうしようかと思いましたよ」
マリアは心底安心したというようにそっと胸をなでおろした。そんなマリアに、クレアは既視感を覚えていた。
そんな時、街の方で大きな爆発が起きた。
「っ!」
「な、なんかこっちに来てますよ!?」
クレアが驚いたのは、先ほどまでは感じることの出来なかった強大な気配と魔力、一つはおそらくエイフィスの言っていた敵なのだろう、アリスのものは感じ取れない、戦っているということはまだ生きているという証だ、クレアはほっと息をついた。
「ク、クレアさん! 中に避難しましょう!」
「え?」
マリアが焦っているため、クレアのマリアが指差すほうを見てみると、そこにはこちらに向かってくる敵が見えた。クレアは悪魔を見たことがないが……この状況からしてあれが悪魔なのだろうと感じとった。
「ダメ」
「えぇ!?」
「アリスが向こうにいる、行かないと」
「ダ、ダメですよ! 行っちゃうとクレアさんが死んじゃいます!」
マリアに悪気はないのだが、そんな一言にクレアはムッとした。まるで自分が守られるだけの存在のような言い方。
「大丈夫だよ……見てて」
クレアがそう言うと、クレアの周囲に光の球が現れ、悪魔の方に向かって飛んでいき、その身体を灰に変えた。
「えぇ!?」
「大丈夫、私はもう……守られるだけの存在じゃない」
クレアはそう言い残して、アリスがいるであろう方角に目を向けた。
どうもみなさん!難産が続く作者です!
バトル展開まっしぐら、あぁ、コメディが書きたくなってくるんじゃ^~
4日に一度の投稿じゃ9月末には終わらないかもしれない……! これはヤバイ、ちょっと更新スピードあげな―――
次回は4日後だと思います、それでは!