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第76話 ヒロインに秘められし力

「よぉクレア、無事だったか」


 ベルセルクとかいう悪魔に受けた攻撃は、俺は内蔵に大きなダメージを負ってしまった。まぁ今はサタンが作った魔力供給の指輪改があるためなんとかなる、俺は自身に【リカバリー】と【キュアー】をかけながらクレアにそう話しかける。

 クレアはところどころ汚れているが、俺が仕込んだ(・・・・)魔法が発動していないところをみると、特に大きな被害も受けていないらしい。実は俺はそれよりも、クレアが前みたく酷い有様になっていないか心配だったが、どうやら今回は大丈夫らしい、よく見れば眼鏡もかけてるし……ちょっとクマがあるのはご愛嬌か。


「ぶ、無事って……それはこっちの台詞だよっ!」


 俺がそう言うとクレアは怒ったようにそう言った。


「いきなり倒れて吐血はするし、ずっと震えてたし……熱だってあったんだよ!? 今日の朝だってまだうなされてたし……それなのにどうしてこんなところにいるの……!」


 クレアは涙を目に貯めて、心配したんだぞ、という感情をのせて睨むような視線を俺に向けた。


「どうしてって……そりゃあ、良くなったから?」

「そ、そんなの――」

「クレア? どうしたんだ、大声だして」

「クレアさーん……ってあれ?」


 クレアが何かを言おうとしたが、不意に後ろから現れたレイザック、マリアの2人によってその言葉は阻まれた。


「ア、アリスか? なんか酷い病気にかかったってクレアに聞いたけど……」

「んあぁ、大丈夫だ。なんとかなった、ソレはもう大丈夫だ」

「だから――」

「クレア、大丈夫だよ、心配すんな……強がってない」

「ほ、ほんとに……?」

「本当だ」


 俺は言いながら手をブラブラさせて元気良さをアピールする、きちんとアピールできているかは知らないが。

 クレアはそこまでいってやっと納得してくれたらしい、心配してくれるのは良いが……若干過保護気味だな、過保護はアンジェさんで十分足りてるんだが。


「それよりも気になることがあるんだけどいいか?」

「なんだ、レイザック」

「アリスって朝まで寝込んでたって聞いてるけど、どうやってここまで来たんだ?」


 おぉ、もっともな意見だな。


「そ、そうだよ! アリスは大丈夫だった!?」

「なにが?」

「アリスも今の街の状況は知ってるだろ?」

「あぁ、いろいろと酷いことになってたな……」

「数時間前にいきなり化物が攻めてきて大変だったんだよ、今は聖騎士たちがなんとか抑えているらしいけどね」


 俺はついでとレイザックからいまの詳しい状況を聞いた。

 まぁ状況と言ってもレイザックもほとんど知らないらしいし、取り敢えず俺が吹っ飛んできて止まった場所は校舎の城の壁だったらしい、化物……というか悪魔が攻めてきたらしいのが数時間前、つまり俺が目覚めたときにはまだ数時間しか経ってなかったということか……それであのザマか……聖騎士とやらは名前だけか。

 それは兎も角、クレアたち生徒は取り敢えず校舎や武道館に避難、一般住民も、街の中でも強固な壁を持っている学院内に避難、一般市民は訓練場に多くいるのだとか。というか……強固な壁とか言ってたけど俺さっき大穴開けたぞ……大丈夫か?

 クレアたちは偶然そこを通りかかったときに大きな物音がしたので見に来たらしい……パーティーを組んで行動するようにとは言われているらしいが……


「クレア、お前単独行動し過ぎだろ」

「え、えへへ~……」


 ジトっとした目をクレアに向けると照れたように頭をかいた。


「それで、アリスはどうやってここに来たんだ? 学院の外はまだ化物がウロウロしてるのに」

「あぁ、その化物の親玉に吹っ飛ばされてな。ほら、そこ見てみろ、大穴空いてるだろ? 俺そこから来たんだぜ」

「っ……!」

「なっ……!」


 下手に隠すとまた面倒なことになりそうなので、ここは素直に本当の事を言っておく。クレアは声にならないというような声を上げ、レイザックは驚愕し、マリアは口を押さえて機能停止した。


「お、親玉って……」

「言いたいことは分かってる、だけどな……あまり時間がねぇんだ、アイツはずっと待ってる」


 レイザックと話している間にもずっと感じていたあの悪魔の禍々しい強すぎる気配とその強大な魔力、位置は俺が遭遇した場所から殆ど動いていない。それどころか「俺はここにいるぞ」というようにずっと自分の居場所を俺に伝えているようにも感じた。


「何時こっちに来るかは分からない、今の俺じゃお前を庇いながらアイツと事を起こすのはかなり無理がある」


 俺は何事もなかったかのようにその場に立ち上がり、数歩だけ歩いてクレアたちと距離をとった。


「アリス、まさか……!」

「ちょっと行ってくる。クレア、無茶すんなよ」

「それもこっちの台詞だよ!」

「クレアの言う通りだ、俺もアリスがただ者じゃないのは分かっているけど……流石に今回は無事じゃすまない気しかしない」

「そうだな、今回ばかりは“大丈夫”だなんて軽口を叩ける相手じゃないのは確かだ」

「だ、だったら……!」

「でもな、アイツを止められるのは俺しかいねぇんだよ。俺が行かなきゃアイツは学院(ここ)にくる、そうすれば俺はお前を守れない、そんな余裕はなくなる」

「っ!」


 クレアは俺の言葉に驚愕の表情を浮かべた。


「お前は俺が守る……たとえ、この生命に代えてもな」


 俺はそう言い残すと、俺はオーラを纏い、【フライ】を発動させてその場を後にした。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 アリスが風を纏いながら飛んでいったのを、彼女――クレアはただ見つめることしか出来なかった。


 数日前、大好きなアリスが倒れたのをみてクレアは案の定慌てふためいた、慌てすぎてその時はほとんど何も出来てはいない。アンジェさんと院長であるレザードが早急に部屋に運んで手当をした、その間のクレアはずっとジェニーに宥められているだけだった。

 その後は過去の失敗を繰り返さないと、アリスから貰っていた魔眼を抑制するというトンデモ眼鏡をかけ、たまにチラっと“心”が見えて気分が悪くなりながらも学院には通い。アリスの看病もきちっとしていた。

 だが、さきほどアリスがさり際に放った言葉でクレアは自分がどれだけアリスに甘えていたかを思い知った。


 ひたすらに自分の守ることしか考えていないアリスに、自分は対価として何をしてきただろうか。アリスは自分が何をしても特に怒ることはなかった、たまに怒られるときもあったがすぐに呆れたように溜め息を吐いていつものアリスに戻った。

「アリスの事が心配だった」といつも、先ほども口では言っていたが実際はどうなんだろうか。アリスの横はどんな場所よりも落ち着いて心地が良い、その空間がなくなると思うとクレアは怖かった。だから、実は「アリスが心配」なのではなくて「アリスがいなくなることによってあの空間がなくなることが嫌」の間違いなのではないだろうか、要するに自分の為、アリスの為の心配なのでは無かったのではないか。


 実際、アリスが冥界に連れ去られる事件が会ったときも、自分はなにも出来なかった。ただ依存しているだけだった、結局自分がしたことといえばアリスに負担をかけ、無駄な心配をさせただけ。


(ほんと……自分勝手だなぁ……それに、今更こんなことに気付くなんて……遅すぎるよ)


 アリスの事が好き? その感情への自身ももう失われている、本当に好きなのかどうかすら既にわからなくなっていた。


 ――あれ? 諦めちゃうんですか?


 ふと、そんな声が聞こえた。


「だ、誰……?」

「どうかしたの?」

「う、ううん……なにか聞こえたような気がしたんだけど……」

 ――貴方があの人を思う気持ちはその程度なのですか……ガッカリです。


「っ!?」


 また声が聞こえてきた。

 しかしクレアが反応したのはその声にではなく、その声がいった言葉の内容だった。


(その程度……? 私がアリスを思う気持ちが、その程度?)

 ――えぇ、だってそうじゃないですか。貴方は結局どこまでいっても自分勝手です、あの人の気持ちを考えてません。

「そんなことっ! ない……!」


 クレアは周囲に人がいることも忘れて大声で叫んだ。いきなり叫んだクレアに、周囲の人々――レイザックとマリア、ついでにたまたま通った通行人もギョっとしたような顔になっていた。

 しかし当の本人はそんなことは気にも止めず、姿も見えない謎に声との会話を続ける。


「確かに……私は自分勝手だけど、それでも! アリスのことは本当に……大好きだよ」

 ――……心からそう言えますか?

「言えるよ」

 ――神に誓って?

「誓うよ。……ずっと守られっぱなしだったんだ、でもアリスを守る人は誰もいない、私もアリスを守る為なら――」


 命だって賭けてみせる。


 ――ふふふ……その言葉を待ってました。


 世界が白く染まった。


 しばらくは眩しくて何がなにやら分からなかったが、やがて目が慣れてきて、瞼を持ち上げるとクレアの視界にはただっぴろい真っ白な空間が広がっていた。

 そして自分の前には大きな6つの影と1つの小さな影。

 1つは、全身に炎を纏い、頭には大きな前向きの角が2本生えている獣のような顔をもつ大男。

 1つは、全身が青い肌で、上半身が筋骨隆々の渋い男性で、下半身が骨のない、俗にいう軟体動物、この世界では認知度は低いがタコの足を持った大男。

 1つは、全身が緑色で、布のような衣服と多少の宝石を身にまとった、すこし透け気味の大男。

 1つは、全身が土色の甲殻で覆われ、鋭い眼光と牙、爪に大きな角をもった巨大な獣。

 1つは、全身が黒いローブのようにフワフワと浮かんでおり、ローブのなかは闇が深く何も見えない。おそらくは大男。

 1つは、全身が薄く発光して、さらには後ろが見える程に透け、手には無数の光が漂うカンテラを持った大男。

 それぞれが上位精霊と呼ばれる、現界で大きな力を持った精霊たちであった。


 そして最後の小さな影は――


「似てる……」


 小柄な体格に鮮やかな緑色の髪、同色の全てを見通すような瞳、そしてその尖った耳。それはハイエルフである証拠だ。

 そして彼女は名乗りをあげた。




「初めまして、クレア・フェイシスさん。私の名前はエイフィス・エレア、よろしくお願いします」




自分の思い描いた最後に近づいていることに果てしない感動を覚えている作者です。

80部くらいの間を置いてエイフィスさん、姫様の再登場です。

ヒロイン覚醒、クレアはめんどい系ヒロインから卒業します!


次回は4日後、連休入るので早くなるかもです。

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