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第75話 狂剣

「っ……つぅ……!」


 目が覚めると同時に襲ってきたのは全身を万遍なく襲う鈍痛、度々激痛。

 俺が倒れたのは夜だった筈だが、既に外は明るい。俺は自室のベッドに寝かされていた見たいだが、周囲には水が貼られた桶やらなんやら、とにかく甲斐甲斐しく看病をされていた跡が残っている。普通に考えても昨日倒れて翌日の朝目覚めた……という訳じゃなさそうだな、少なくとも数日経っている。


「……なんだ? 外が騒がしいな」


 外からは獣の鳴き声ともとれる甲高い鳴き声が聴こえてくる、小鳥のさえずりにしてくれ、こっちは一応病人なんだ。


「なんなんだ一体、歌劇団でも来てんのか?」


 あまり騒がしい外の音を不審に感じて、俺はそうボヤきながらも窓を開けようとするが窓は鍵がかけられたようにガタガタと音を鳴らすだけで一向に開く気配はなかった。


「んだこれ……結界?」


 なぜか俺の部屋の窓には結界が……というか部屋全体に結界が張られているようだった。結界魔法なんてものは今の時代にはないので、恐らく魔導具か何かを使っているのだろう……身体の不調のせいで上手く魔力が探れないがそれでも焦らずに根気よく探っていると、ベッドにしたに結界を張るための魔導具が設置してあった。

 全身に走る痛みに顔を顰めながらも俺はベッドの下に潜りこんで魔導具を切った、するとしばらくして結界がじわじわと薄くなっていくのが分かった。

 結界が消滅したのを確認してから窓を開くと、今度はすんなりと開くことが出来た。


「なんだこりゃ……」


 窓を開けて空を見ると、先ほどまで青色だった空が点々と黒く染まっていた。

 そして次の瞬間、俺が感じたのはこの身体になってからは初めて感じる圧倒的な強者の気配、濃密な魔力だった。


「くそ……挑発してやがんのか……!」


 俺が魔力を感知できるのはせいぜい数十メートルほどだ、しかし感じた魔力はかなり遠くまで続いているようだった。明らかに意図的に飛ばしている……しかもこの魔力、大まかな位置しか把握できないが……おそらく発信源はシルバニアの街だ。


「狙いは、クレアか?」


 どっちにしろ、脅威が迫っているのは違いない。行くしかないだろう。

 しかし現在の俺の身体はボロボロだ、外傷はないが内蔵が……な。このままでは学園まで移動することさえ至難の業だろう……ここは薬に頼るしかないか……

 そう思い、俺が“倉庫”から取り出したのは小さな小瓶、1000年前にとある種族から貰い受けた“霊薬”と呼ばれる幻の薬だ。

 飲めばどんな傷でも病でも癒すというトンデモ効果を持っている、まぁ……なんでも治る訳じゃないし、完全に治る訳でもないが……一種のキャッチコピーだな、幻とか言っているが、薬の原材料が希少なだけでそれなりに生産もされている、それが人間の市場に流れてくることはまずないがな。


「っぐぅ! にっが……」


 良薬は口に苦しとは言うがまさにその通り、馬鹿みたいにまずい“霊薬”を飲み干すと、さっきまでの身体中の痛みは大分マシになった。

 俺がいま着ているのは寝巻きといっても良い服だったので手っ取り早く“倉庫”から服と靴を引っ張りだしてきてそれを着込んだ。冒険者用に買っていた服だったので非常に動きやすい格好になった。

 いちいち玄関から出るのも面倒なので俺はそのまま窓から庭に出た。そういえば周囲に俺以外の気配を感じないな……


「ギギッ! ギギギッ!」

「ニンゲンダァ!! コロセコロセェ!」


 外にでると、すぐに頭上から甲高い声が響いた。そちらを向くと、そこにいたのは空中で蝙蝠のような羽根を羽ばたかせて空中を浮遊する2体の悪魔だった。

 どちらとも『騎士』級だろう……おそらくはそれよりも下、爵位無しか……どちらにしても面倒だな、バハムートを呼ぶか……? いや、でもあいつもかなり弱体化してるんだよな、この程度の悪魔程度どうってことないとは思うが……


「ギギギ!!」

「ヤッチマエ!」

「チッ……」


 考えてる暇はないな……取り敢えず目の前のこの悪魔2体をどうにかしないと……!

 だが、その悪魔を俺が相手にすることは無かった。

 気がつけば俺の目の前にいた悪魔は細切れになり灰と化していた、つまりは死んだ。

 そして直後に俺にかけられた声は、聞き覚えのある声だった


「ふふ、なにやら面白いことになっているな……アリス?」

「ハーメルン……?」


 声が聞こえた方向に立っていたのは、長い赤髪を靡かせる長身の美女、手には鞭のような剣を持っている。『魔王』級の悪魔、“女帝”の異名を持つルミナス・ハーメルンその人だった。


「なんでお前がここに……」

「うん? あぁ……まぁいろいろと向こうでもいろいろあってな、その結果……だよ」

「そうか」

「おっとそうだ、アリスにと糞羊から預かっているものがあるんだった」

「羊……? サタンのことか? 男嫌いのお前がどうしてサタンの……」

「アレもそこまで馬鹿ではない、持ってきたのはアイツの配下の女兵士だったよ。取り敢えず……ほら、これだ」

「なんだ、指輪か?」


 サタンからの預かり物だと言ってハーメルンが俺に渡してきたのは6個の指輪だった。


「魔力供給の指輪? らしいぞ、私には良く分からん」

「……なるほどな」


 試しに1つを指にはめてみると、自然の口から笑みが溢れた。

「凄い」の一言に尽きる、たった1年で性能をここまで上げてくるとは……指輪に貯蔵してある魔力の量、そしてそれが身体に流れ込んでくる速度、どれをとっても試作段階のものとは段違いだ。それが6個もあるのか……これなら少しくらい無茶をしても大丈夫かもしれない、兎に角、学園までの道のりをどうやって行くかどうかの問題は解消された訳だな。


「さてと、渡すものは渡した。本当はアリスとイチャコラしたいんだが……そんな暇はなさそうな顔してるな」

「暇があってもイチャコラしないが」

「ふふ……そうツンツンするものではないぞ?」

「……うるさい」


 俺はハーメルンの冗談を軽くあしらったあと、自分に【エアエンハンス】をかけてから全力で【フライ】を使用して飛翔した。この速度で行けば数十分で学園までは行けるだろう……


 その時、俺の頭の中には姫様が死んだときの光景がフラッシュバックしていた、今のこの状況はあの時とよく似ていた。


「無事でいてくれよ……!」


 そう呟いたあと、俺は飛ぶことに集中した。




「チッ……やっぱりこっちにもいんのかよ!」


 既に学園があるシルバニアの街が見えている、もう数分で街の中に入れるだろう。しかしそこからは地上の道を行くしかないようだった。

 街の空だけが暗雲が立ち込めたように黒い、ノクタスの街とは大違いだ。あの雲の様にみえるのは悪魔だろうか......そこから羽虫が飛ぶ様にして悪魔が地上へ降りて行っている。

 街に近付くに連れて市街地で、悪魔と騎士、兵士、冒険者のような人々が戦っているのが目に入った。


「ギギギッ!」


 街の近くに寄ると俺目掛けて数匹の悪魔が攻撃をしかけてきた。


「チッ…!」


 此方に来た悪魔が雑魚だったのがせめてもの救いだった、オーラを使えば手っ取りばやいが、魔力の方が今は余裕があるため、俺は悪魔に比較的効果がある中位光魔法【ディバインランス】を悪魔目掛けて放った。

 悪魔はそのまま光の槍に胸を貫かせて苦しんだあと、灰になった。少し残ったな、いや、追いかけて来ないならそれでいいか。


 俺は身体能力を強化する補助魔法【ブースト】を使用して街中を疾走する。時々悪魔と出会うが必要のない戦闘は全て避け、出来るだけ無駄な魔力は使わないようにした。

 街中を走る俺だったが、周囲を見ると無惨な有様だった、つい先日までは活気に溢れていた街は屋台や家屋が燃え、潰れ、瓦礫の山に変わっている。所々には敗れた人間の遺品や遺体が転がっていた。


「そこの君ぃ、ちょっと遊んでかないか?」


 街を走る最中、そんな声が聞こえた。ナンパに付き合っている暇はないのでそのままスルーしようと思ったが、俺に向かって黒い剣が振り下ろされたことによって阻止された。

 とっさに回避行動をとったが横腹を少し掠ったみたいだ。


「おいおい......無視はないだろう? なぁ、勇者(・・)さま」


 その方向をみると、金髪長身の青年がいた、肌は浅黒く、耳が少し尖っており、額には刃物のような角が生えていた。悪魔か。


「......誰だテメェ」

「クハハ! 俺か? よくぞ聞いてくれた!」


 青年のような悪魔は俺がそう聞くと、上機嫌になって持っていた剣を肩に担いだ。


「俺の名は“狂剣"ベルセルク、これでも一応『魔王』だぜ?」


 言い終わると何が面白いのかクククとベルセルクと名乗った悪魔は笑い始めた。


「あぁ……すまねぇ、最近骨のある奴と戦ってなくてな、これから“勇者”とも呼ばれたお前と戦えると嬉しくってよぉ!」

「チッ……!」


 ヤベェな……勝ち目がない。取り敢えず俺が感じたあの気配はこいつのものだろう、しかし他にも悪魔はいる、危機が去った訳ではない。


「おいおい……そうカッカすんなって。あいつの命令だから一応来てはやったが俺も完全に言いなりにはならねぇぜ、俺は全力のお前と戦いてぇんだ」


 ベルセルクがそう言った次の瞬間、俺の腹にはベルセルクの腕が刺さっていた。

 突き抜けているわけではないのだろう、吐き気がこみ上げてくる。


「飛べ」


 俺は猛烈な勢いで後方に吹き飛ばされた、咄嗟にオーラを纏ったため、飛ばされる最中に身体と衝突した瓦礫からのダメージはかなり防げた。

 そして数十秒の間俺は飛び続け、強固な壁のようなものに背中からぶつかって止まった。

 ガラガラと落ちてくる破片からして、どうやら学園まで吹き飛ばされたらしいな。


「ア、アリス!?」


 ふと声が聞こえて顔を上げると、そこには驚愕を顔に浮かべたクレアがいた。

どうもみなさん、お久しぶりです!

さてここからは戦闘続きです、うひゃあ。きちんと書けるか心配です。

頑張ります!


次回4日後になると思います、それでは!

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