表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本気を出さない勇者さま  作者: 霊雨
第6章
80/90

第72話 決勝戦

ちょっと、スランプかな?

 俺とジェニーの試合が終わり、次はC、Dブロックの代表の試合だ。なんとCブロックの代表はレイザックらしい、俺は知らなかったが。

 観客席はほとんどいっぱいだったため、俺たちは観客席の後ろのほうで立ってみることを余儀なくされている、強いられているんだ。


「はぁ、まったく……あんなの無茶苦茶よ」


 ジェニーは先ほどの試合に少々ご立腹の様子だった。ジェニーの奥の手とも言える【ウィンドスピア】の乱射を俺が受けきったあとは瞬殺だったからな、ジェニーはあの攻撃に残っていたほぼ全ての魔力を注ぎ込んでいたらしいし、あと近づいて【ファイヤーソード】2本を振り回していたら終わった。【ファイヤーソード】は他の攻撃魔法とは違って発動している間は何度でも攻撃できるからな、そういう意味では手数は多い。まぁ、そのために近距離限定という大きすぎるデメリットがあるんだがな、それに威力もさほど高くない――あくまで俺基準、この時代ではそれなりの高火力――し、実戦では使うことはないだろう、普通の剣振り回したほうが手っ取り早いし。

 そんなこんなで時間が過ぎ、ようやく次の試合が始まるようだ。


「ん?」

「なに? どうかした?」

「……いや、アイツは……」


 片方はレイザックだったがもう片方は、俺が“マルチ”に参戦する原因となったあの貴族だった、名前は忘れた。しかし、その貴族がどこかおかしい、どこか、というか主に目がおかしい、焦点があってないしどこか血走ったような目をしている。それにチョロっと魔力眼を使って魔力を見たところ、俺はあることその貴族の身体の異変に気がついた。

 魔力が暴走しているのだろうか、普段は僅かだが一定量ずつ身体全体から煙が登るように放出されている魔力が、いまの貴族からは、まるで壊れた蒸気機関のように、あちこちから魔力が噴出している、まるで自分の許容現界以上の魔力を手に入れて制御できずに暴走しているみたいだ。


「なぁジェニー、魔力を増やす薬って……知ってるか?」

「なによ、急に。魔力が回復する薬なら聞いたことあるけど……?」

「そうか……」


 ジェニーも知らないのか、ということはやはり合法なモノではないということか。魔力を増やすクスリ、おそらく法外なモノなのだろう……大事にならなければいいが……

 そんな俺の心配を他所に、試合は通常通りに始まった。

 しかし、そこで会場中の、おそらく全員が貴族の異変に気がついただろう。


「ガアアアァァァァァ!!!」


 まるで獣の雄叫びのような大声をあげた貴族は、何かを感じとったのかレイザックはすぐさま【ファイヤーバレット】を使って貴族を牽制するが、貴族はその無数の弾が飛んでくる魔法をすべて避け切った。会場がざわめいた、俺は一応【ストーンウォール】で数を大分減らしていたからな、あれくらいなら避けられる奴をそれなりにいるだろう、しかしアレはない。

【ウィンドバレット】しかり【ファイヤーバレット】しかり、俗に【バレット】系と呼ばれる魔法は、まるで散弾銃のように弾を飛び散らせる魔法だ、しかも散弾銃よりも射程距離は大分長い、つまり、遠ければ遠くなるほど、弾と弾の隙間が大きくなるが攻撃範囲も大きくなる。

 レイザックと貴族の間はかなりあいていたため、レイザックの放った魔法は、貴族に届くころには、弾と弾のあいだがおおよそ70センチほどにはなっていた。しかし並の反射神経では、その後ろにも続く大量の魔法の弾を避けきることは難しい、しかし貴族はすべてステップだけで避け切った。さすがに残像が見えるような高速移動ではないのだが、それでもおかしいスピードだ。

 見たところ強化魔法がかかっている様子はない、補助魔法や、身体能力に作用してくる魔法、魔法道具は、試合会場に入る前に全て外されてしまうため、あの身体能力はあらかじめ、魔法以外の手段で底上げされているということになる。魔力に加えて身体能力もクスリで強化しているのか。


 それから数十分、レイザックと貴族の攻防が続いた。貴族の方は詠唱破棄が出来ないのか、それほど魔法の手数は多くなかったが、いざ放つときは直接近づいて近距離で放ってくるため、レイザックも避けきれていない。対して貴族は、自分が攻撃するとき以外は距離をとって、的が定まらないよう常に動き回っており、レイザックの攻撃はほとんど当たっていない。加えてレイザックの魔力もそろそろ尽きる頃だ、この勝負、レイザックの負けだな。




 休憩中、少し落ち込んだ様子のレイザックとも会ったが、それはさておき、これから魔法科“マルチ”の決勝戦だ。対戦相手はアンディ・シシナンティ……だったかな、多分それで合ってたと思う。

 まぁ、確かに身体能力は強化されてるし、魔力も多くなってはいるが、はっきり言って敵じゃない。もともとあちらが売ってきたんだ、キッチリ10倍くらいにして返してやろう。


 会場は歓声に包まれている、その内容は主に2つ、一つは俺に対する声援だ、「がんばれ」とか「相手の貴族ブッ潰せ」とかいろいろ聞こえてくる。人気になったものだなぁ、俺も……あぁ、面倒くせぇ。

 そしてもう一つも俺に対するもの、ただし内容は俺への妬みとかそう言ったものなのだろう、周囲からは痛い視線が向けられている。そしてここまで言うと分かると思うが、相手のシシ……貴族への声援は一切なかった、哀れだな。

 そんななか、相手の貴族は俺の方を向いて、その血走った目をさらにクワっと見開く、そして息も荒くなった。どちらかというと獣というよりゾンビっぽいな、チュートリアルに出てくる強そうにみえるけど体力低いタイプの敵かな。


 〈――始めッ!〉


 そして、審判の合図で試合が開始される。

 貴族はさきほどのレイザックの試合のように突っ込んでは来なかったが、さっきからブツブツとつぶやいている。


「ガァ……コロ、シテヤルゥ……アアァ!」


 わぉ、発狂してんじゃないのアイツ。

 そして――


「ガアアアアァァァァ!!」


 例の如く突っ込んできた、しかし魔法を使う気配は微塵もない……どうやら本気で殺す気らしいな。

 確かにその速度で、加えて強化された筋力で殴られれば普通の人間なら死ぬかもしれない、ただ……普通の人間ならな。

 俺はもうスピードで殴りかかってくる貴族の攻撃を避け、そのままガラ空きの懐を拳を入れた。


「ガァっはッ!?」

「それ、骨までは強化されてないだろう? 殴ると骨が折れるぞ」


 腹を強打されて嗚咽をあげる貴族の耳元で俺は忠告をして、そのまま押し切った。貴族は腹を抑えながら後ずさった。


「クハッ……バかが……物理攻撃は反則負けだぜぇ」

「馬鹿はお前だ。俺がそんなミスする訳ねぇだろ」

 〈おぉっと!? エステリア選手どうしたぁ! 魔法以外の攻撃は反則のはずだがぁ!? これはまさかの反則ま……え、大丈夫なの? 魔法で攻撃されてる? 大丈夫……はい、大丈夫だそうです! エステリア選手、一体どんな手を使ったのかぁ!? 私には普通に殴ったようにしか見えませんでしたが!〉


 貴族は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、自分の腕輪をみると、ギョっとしたような顔を作った。


「ナんで減ってる!?」


 貴族は訳がわからないといったように叫んでいる。

 あの腕輪は魔法を防ぐのではなく魔法道具じゃない、それじゃ剣術科の試合にあの腕輪が使われていないはずだからな。剣術科の試合でつかう武器は、魔力を剣のように放出させる特殊な魔法道具を使っているらしく、そこから疑問を抱いた俺は、腕輪を試合中に調べたところ、この腕輪は魔力を伴った攻撃を防ぐことができる腕輪だということが分かった。魔法は元が魔力だからな。

 ということで、つまり腕輪は魔力を通して攻撃すれば、ぶっちゃけ物理攻撃でも大丈夫なわけだ。

 初めは、殴る瞬間に魔法を使おうと、思ったのだが、それだと殴ってしまうと、どちらにしろ腕輪が感知して俺が失格になってしまうので、まどろっこしいので、筋力が上がる補助魔法の【ストロング】を使って、その上から全身に薄く魔力を纏わせるという形に落ち着いた。


「ふふ、どうした? かかってこないのか?」


 俺がそう挑発すると、分かりやすく顔を真っ赤にして、必死になって魔法を使ってきた。

 しかし使ってくる魔法の殆どが下級だった、おそらく中級だと詠唱破棄ができなくて手数が足りないのだろうか、たまにレイザックとの試合でも見せたように、俺に近づいて魔法を当てようとしていたが、その度に俺は貴族にカウンターを決めて、着々と相手にダメージを重ねていった。


「ウ……あ……」


 試合が始まってから10数分が過ぎただろうか、そのあたりから、貴族の挙動がおかしくなってきた。

 意識が混濁しているのだろうか、おそらくクスリの副作用だろう。見たところ、レイザックとの試合よりも酷くなっていたし、俺との試合の前に追加でいくらか打っていたのだろうか。

 貴族の様子に会場がざわめくなか、遂に貴族が暴走し始めた。


「ガアァァァッアアアアア!!!!」


 目は完全にイってしまい、口からは泡を吹き、苦しそうに首を自分の爪で掻きむしっていた。

 そうしてジタバタ暴れている貴族と俺の目が会った、途端に先ほどまで苦しんでいたのが嘘のように静かになった、俺をターゲットだと決めたのか、獣が狩りをする目になってしまっている。


「ガアアアアアアァァァァアアァ!!!」


 そして再びの突進、今度は一欠片の理性すら感じられない、獣の突進だった。

 さきほどよりも、さらに速度が増したが……会場いる奴らが目で追える程度なら、まだ遅い。

 俺はいままでよりも力を込めて、貴族の腹を思いっきり殴りつけた。


「グェッ」


 変な声を出して貴族は倒れ、と同時に、その腕に付けた腕輪が削りきれた。

 流石に気絶させるとマズそうだったので、ギリギリで意識を残してある。


「ぐ……あっ……」


 そのせいなのか、貴族は正気を取り戻したらしい。正気を取り戻してまず最初にしたことを俺を睨みつけることだったが、改心するとかそういうのはないのか……


「き、貴様ぁぁ!!」

「元気じゃないか」

 〈えーっと……勝者! アリス・エステリア選手! ……で、良いんですよね? はい、優勝はアリス・エステリア選手です!!〉

「ほら、試合は終わったぞ」


 すると、俺たちが帰るまでもなく、貴族が入ってきた入口の方から、鎧を着た騎士のような人間が数人現れ、貴族に何か言ったあとに喚く貴族を抱えてズルズルと連れ去っていった。これから恐らく尋問とかされるのだろう、まずそんな法外な薬物を国が、街がマークしてないわけがない、大量に取り寄せれば必ずアシがつく。

 しかしそんなことはお構いなしと言わんばかりに観客たちは騒ぎ立てていた。

どうも、何が書きたいのかよくわからなくなってしまった作者の僕です。

なんなんですかね、今回の話、貴族くんに罰与えて終わりのはずだったんですけど……ねぇ。

次回で学院祭編は終わりにしたいです。カットが入りそうです……


次回は4日後かな? 夏休みの課題とか終わってないです(察し

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ