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本気を出さない勇者さま  作者: 霊雨
第6章
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第69話 夏が始まるその前に

「明日から長期休暇だね」

「そうだな」


 セーゼルヴェージュがこっちに移住してから数ヶ月、季節はすっかり夏真っ盛りだ。ちなみにセーゼルヴェージュは案の定、数回ほど近隣の住民に通報されて衛兵に捕まっていた。

 幼い少女に手を出そうとしていたらしい、それ多分娘だけど。あいつああ見えて隠れ親バカだからな、リィエンが危ないことをしないか尾行でもしてたんだろう、そしてその姿を不審に思った人に通報されたと、自業自得だな。ちなみにセーゼルヴェージュが捕まった際には、友人の“レイク”としてあいつの無実を証明した。とは言ってもリィエンが娘で、親バカであることを説明しただけだが……もしかしたら俺がランクBの冒険者であることが関係しているのかもしれないな。

 それは兎も角、明日から3回目の長期休暇に入る訳だ。クレアは恒例行事の如く冒険者として休暇を過ごす事にしているらしいが、その前に一つだけやっておくことがあった。


「今年は何処まで行くつもりなの?」

「今年は北の奥までだな、移動手段も出来たしそれなりに遠出が出来る筈だ」

「北かぁ~やっぱり寒いのかな?」


 クレアは俺の横を歩きながらまだ見ぬ北の大地を頭で思い浮かべている。

 楽しげな顔を浮かべているがここで悲報を一つ。


「あー……それについてだがな、一つ言っておかないだめな事がある」

「?」

「数日だが……ちょっとした用事が出来てな、冒険者やるのはその後だ」

「え……」


 瞬間、クレアの楽しそうな顔に暗い影が差した。大体は、冒険者をやるのが遅れることではなく、俺が何処かに行くことだろうが……


「私は――」

「残念だが、お前は連れて行けない」

「っ!?」


 クレアは悔しそうに唇を噛み、拳を握りしめた。


「安心しろ、すぐ戻ってくる」


 俺はそんなクレアの頭に手を置き、宥めるようにしてそう言った。

 クレアもこくりと頷き、俺たちはそのまま歩みを進める。

 そんな中、俺はいつも通り、俺たち、正確にはクレアを見つめる一つの視線を、気配を感じ取っていた。最近よく感じる気配、それは2年程前に一度見た、自らをエルフと名乗る人間である長耳族だった。

 どうやら“長”と呼ばれていたやつが殺されたのを知ったのか、強行手段に出るみたいだ、腰には長剣、体には弓と矢筒が提げられていた。流石にこんな真昼間から行動は起こさないだろうが。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 次の日の朝、俺は数日ここを空けるが、その間にまたクレアがあんな事にならないように事前に作っていたあるものをクレアに手渡していた。


「これは……?」

「お前の魔眼の能力を抑制する眼鏡型の魔導具だ。まだ魔眼の制御が上手くいってないだろう?」

「それは、そうだけど……」

「まぁ嘘だと思ってかけてみな」


 俺がそう言うと、クレアは半信半疑といった様子で眼鏡をかけた。すると驚いたような顔をして、眼鏡をかけたり外したりを繰り返し、やがて眼鏡を不思議そうに掲げて眺めていた。


「アリスって……何者?」

「今更だな、というかそれを言うならお前もだがな」

「それもそうだね」


 そういうとクレアは小さく笑った。

 おっと、そろそろ時間だな。グズグズしてると長耳が孤児院まで攻めて来る可能性もあるし。


「行っちゃうの?」

「あぁ、すぐ戻ってくるが……今度はあんな風にならないでくれよ。これでも俺は心配してるんだ」

「っ……うん、分かった!」


 さてと、クレアに釘は挿しておいたし、そろそろ出るか。

 俺は急いで恒例の黒づくしの服装に着替え、窓から直接出て行った、向かう先は“魔の森”の中、そこに長耳はいるはずだ。

 ちなみにだが、街の中、周辺に潜んでいた長耳は既に排除済みだ。そしてそいつらから【インセプション】を使い仲間のいる場所を盗み出したというわけだ、数人からの情報だからおそらくフェイクということはないだろうと思う、万が一に孤児院に襲撃があったとしても、予防策は張ってあるからまず大丈夫だろうが……

 そして今回の長耳掃討作戦には、二人の協力者がいる。まぁ分かると思うがセーゼルヴェージュとリィエンだ、あいつらにも長耳の掃討を手伝ってもらう予定だが、基本的には俺の移動手段として頑張ってもらう。


「しっかし……また面倒な事に巻き込まれてるな、アリスは」


 森の中を移動しながら、セーゼルヴェージュがそう呟く、もう長耳の存在も補足し、すでに目前まで迫っているため、あまり雑談をしている時間はないのだが。


「まぁ、今回に関しては黒幕もわかってるし、どちらかというと俺がクレアを巻き込んだ形になるだろうがな」

「……なるほどな、例の教皇ってやつか」


 セーゼルヴェージュには、教皇の存在を話している、教皇が魔王であることも含めて……

 今回は魔法だろうが俺のときは、少し精神は弱っていたとはいえ話術のみで思考誘導を成し遂げた手練だからな、俺も全く気が付かなかったし。おそらくは俺にナイフを突き立てたあの男子生徒も、あの魔族も、すべて教皇の手によるものだろう。

 お伽話の中では、魔王は魔族の王に敗れたのだろうが、一度殺されたくらいで死ぬほど“魔王”という存在は甘くない。それに、俺の予想が正しければあいつはかなりの手練だ、おそらく、一度は死んだのだろうが復活でもしたのだろう。そして俺の存在を嗅ぎつけて抹殺しようとしている、と。まぁ、悪魔の軍隊を送り込んでこないならば、まだ完全復活というわけではないのだろうが……

 長耳にクレアのことを吹き込んだのも、俺がクレアを守るであろうということを知ってのことだろう、まぁ、あんな奴らに殺されるほど今の俺は弱くはないが……確かに転生して間もない頃の俺の能力ならば、そうなっていただろうな。


「よし、見えて来たぞ」

「セーゼルヴェージュ、リィエン、炎は使うなよ?」

「それくらい分かっているが」

「お前、昔北の大地の森の一つ半焼させたの忘れてないよな?」

「爪ならいいんだよね!」

「あぁ、物理で殴れ」

「? うん!」


 セーゼルヴェージュとリィエンは、両腕を竜の鱗と爪を持つ、2回りほど大きな腕に変化させて、長耳が集まる場所に突っ込んだ。


「ま、俺は火魔法以外で殺ればいいか。【エアランス】」


 俺が【エアランス】唱えると、俺の背中付近から風の槍が飛び出し、俺を後ろから斬りつけようと近づいていた長耳の胴体に的確に突き刺さり、絶命させる。


「さぁて……お掃除の時間だ」




 取り敢えず“魔の森”にいた長耳は僅か数分で掃討完了、あとはこいつらの親玉だが…地位が高そうなやつから数人ほど、【インセプション】で情報を集めると、どうやら俺が長耳と呼ぶ存在は、ここティリス王国の西の国境近くにある森の中に本拠地があるらしい。どうやら、ほかの長耳たちは、既に人間と一緒になって住んでおり、頑なにエルフだなんだと叫んでいるのはこいつらの一族だけらしい、よかった、世界中回るとかマジ勘弁。

 そこからは、俺がセーゼルヴェージュの背に乗り、補助をしてもらいながらも全速力(・・・)で西の国境まで飛んだ。その際はリィエンもセーゼルヴェージュの背に乗った、まだまだ親の速度にはついていけないらしい、何度か振り落とされそうになりながらも、ものの数十分で長耳族の本拠地までついた俺たちは、若干酔ってしまった俺とリィエンのために少し休憩をして、今度は少し規模がデカイので、セーゼルヴェージュは竜の姿に戻って暴れてもらった。その間俺とリィエンは逃げようとする残党の掃除。

 そうして僅か一日で長耳族は滅びたのだ……って、クレアに数日空けるとか言っちゃったけど、これならちょっと出かけてくるって言うだけで良かったかもしれないな。

 帰りはまるで遠足気分で、今度はリィエンの背に乗ってゆったりとノクタスの街まで帰った。さすがに姿を見られると面倒なことになるため、一度“魔の森”まで行ったが。




 孤児院に帰ると、俺が脱ぎ散らかして行った服をクレアが恍惚とした顔で嗅いでいた。


「お、お早いお帰りで……」

「お前……あとは私がやっておくとか言ってなかったか……」

「だ、だって……折角の脱ぎたてなんだよ!? 嗅がないと……」

「訳わからん」

「……お、お帰り!」

「笑顔で誤魔化すな」


 さて、明日から冒険者やるか。俺たちの長期休暇(夏休み)はまだ始まったばかりだ。

ちょっと45話あたりで、重大なミスがあったので修正しました。

内容はクレア魔眼制御出来てんじゃーんというものです、えぇ、矛盾してますね、まだちょっとおかしいところがあるかもしれないので、見つけ次第直して置きます。

一度設定集とか作ったほうがキャラが安定するかもしれませんね、まぁ……次回作からそうするように頑張ります!


次回は……4日後かな?

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