第68話 春
ゆるして
飛んで春、フィレスとメイリも学園に馴染み、のんびりとした時間が流れていたそんなある日。孤児院に俺の知り合いを名乗る親子が訪れた。
「ようアリス、来たぞ」
「来た!」
父と娘だろう、どちらとも鮮やかな赤色の髪を持ち、父親は2メートルに届くかもしれない巨漢であり、娘のほうは俺よりも頭一つ大きいくらいだ。いや、セーゼルヴェージュとリィエン――本名はリヴァルツェだが呼びにくいのでリィエンと呼ぶことにした――だけど。
リィエンデカくなりすぎじゃね、俺と初めて会った2年くらい前はまだ俺よりも小さかったのに……いまや逆転している。竜の成長は早いな。
「デカくなったな」
「いっぱい食べたんだよ!」
食べただけじゃそこまで大きくならないんだよなぁ……
「俺の血を引いているからな、他の竜共より成長が早いんだ。それにあの場所の獲物は少々栄養不足でな、北の大陸で目一杯食わせた途端にいきなり成長してな」
「いっぱい食べた!」
「精神は成長しないのか?」
「まだ生まれて数十年のガキだからな。これからだ、これから」
竜にもよるが平均100年くらいで一応大人なんだっけ、そう考えたらまだこんなものなのか。しかしあれだな、外見的にはもう大人なのに、中身が残念だとなんか危ない香りがするな。身体は大人、頭脳は子供、危ないな。
「それよりも、なんでわざわざこっちに来たんだ?」
「んあぁ、リィエンが自分の成長した姿をアリスに見せたいって聞かなくてな、俺も暇だったしこっちに1年程滞在することにした」
「そうか」
「この街の空家を借りて住むことにしたから、なにか用があったらここまで来てくれ」
セーゼルヴェージュはそう言うと、俺に家までの地図が書かれた紙を渡してきた。
孤児院から歩いて数十分くらいか、立地もかなりいい場所じゃないか。
「というか、お前ら竜なんだからわざわざこの街に金払ってまで住む必要性あったのか?」
「そこの森に入ればまた大騒ぎになるだろう?」
「あぁ……」
竜――といっても今の時代では既に竜とドラゴンの区別はついていないが――が森に入ったことがバレれば、即ギルドに緊急依頼が張り出され、この街が冒険者で溢れかえるだろう。
冒険者は素行が悪い奴が多い、犯罪や事件も増えるだろう。セーゼルヴェージュはそれを見越して街の中に住むことにしたらしい。
「それに金は腐る程あるしな、何故か。1年くらいどうってことない、人間の作るメシは割と上手いしな」
セーゼルヴェージュはそう言うと、豪快に笑った。彫りが深い顔だし、デカイしおっさんだしで笑うと怖いんだよな、この街に住んで大丈夫か……ご近所に衛兵呼ばれそうだな。
「えいっ!」
セーゼルヴェージュと話していると、唐突にリィエンが横から抱きついてきた。
「成長した?」
抱きしめながらリィエンは俺に問いかけた、成長してるよ、身体はな。なんなんだよ、俺の周り巨乳しかいねぇのかよ……
「成長してるよ」
「ほんと?」
「あぁ、ほんとほんと」
「わーい!」
リィエンは開放するかと思いきや、さらに抱きしめる力を強くした。あぁ、顔にやらかい感触がぁ……嬉しくねぇな……
「アリス? 誰、その娘……」
なかなか戻ってこない俺を見に来たのか、クレアが来たみたいだな。なんか固まってるけど。
クレアにこいつらを紹介しようと思ったが、上手く声が出ない、リィエンに話すように伝えるがそれも上手く伝わらない。ジタバタしてみるが、リィエンの力が強すぎて、ちょっとオーラを纏ったくらいじゃビクともしなかった。
「むぐぅ」
「きゃはは! アリス、くすぐったいよぉ!」
「リヴァルツェ、離してやれ」
「でも……」
「アリスは別に逃げやしないさ、それにまだ1年もここにいるんだ、またいつでも会えるだろう?」
「むぅ……」
セーゼルヴェージュがリィエンを諭してやっと俺は開放された。
「……クレア?」
と思ったら次はクレアが抱きついてきた。そっとクレアの顔を見てみると、頬を少し赤らめてさらに少し膨らませている。
「どうした?」
「……なんでもないよ?」
じゃあ胸に俺の顔押し付けるの止めてもらっていいですかね?
「ふむ、エルフか?」
俺がクレアに抱きしめられている中、セーゼルヴェージュがそう呟いた。セーゼルヴェージュも魔力を感じ取れるから、クレアの妙な魔力に気が付いたんだろう。
「あぁ、いろいろあるらしくてな。エルフ以外にも上位精霊全てといくつかの妖精の魔力が混じってるんだよ」
「なるほど、それでか。アリスの周りにはいつも不思議な奴ばかり集まってくるな」
「お前もその中に入ってるがな」
「フハハハ! その通りだな!」
豪快に笑っているところ悪いが、そこらを歩く周囲の視線が鋭いことに気がついていないのだろうか。こりゃ確実に一回詰所に連れて行かれるな、そのときは助けに行ってやるか……
「アリスと話していると退屈しないな、他の奴らは俺との対話になると萎縮しちまうし」
「“赤竜帝”の異名も付くぐらいだからな、そりゃ仕方ないだろう」
「まぁそれは置いておくとして、そろそろ俺たちは退散するとしようか」
「じゃあね!」
「おう」
そういってセーゼルヴェージュとリィエンは帰っていった。
「あの、クレア? そろそろ離してくれない?」
「……もうちょっとこのままでいたい」
「あ、はい」
その後、出かけていたジェニーが帰ってくるまでずっとそのままだった。
それまで通りすがる人に変な目で見られたのは言うまでもない。
ダメだ、スランプだぁぁ……
次は……次の話はちゃんとプロット作ってるから……マシになるはず。
……疲れてんのかなぁ。
次回は4日後よ、おそらく。